第4話

『シシー・リーフェンシュタールは模範的で優秀な生徒である』


 それが学校の教師達の共通の認識であった。眉目秀麗、無遅刻無欠席、成績優秀スポーツ万能、友人も多く、絵画などの芸術分野にも秀でている。


 姉妹校であるパリのモンフェルナ学園で制服を試験的に導入したところ、評判がよかったため、ベルリンにある我がケーニギンクローネ女学園でも制服の導入が採用された。しかし、自主性を重んじるお国柄、制服ではなく私服でという反発は当然あった。そこで生徒同士の話し合いの場を率先して作り上げたのがシシーである。


 双方の意見をまとめ上げ、結果、一気に移行するのではなく、今の在校生は選択制、これから入学する生徒は制服というところで落ち着いた。生徒の親達も巻き込んだ騒動ではあったが、とくに暴動なども起きずに沈めることに成功した。


 そういったリーダーシップ、行動力、その他諸々で評価を上げ、信頼を勝ち取った品行方正なシシーの、生徒達からの評判は、


『王子様みたい』


 という憧れが混じっていた。高嶺の花、というよりは、向日葵のように明るく誰にでも笑顔で気さくに接するタイプの姉御肌で、先輩後輩関係なく輪の中心にいるような人物。学校の生徒全員の名前を覚えているんじゃないかと錯覚するような、記憶力とコミュニケーション力。


 サッカー観戦も好きだがチェスなどのボードゲームも好き。英語とフランス語も堪能。甘いものより辛いものが好き。お風呂では左腕から洗う、など、細かいプライベートなことも知っている人は多かった。


 住まいは学園の寮ではなく、ベルリン市内で五人ほどのルームシェアで暮らしている。他の人々は上は三〇代から下はシシーの一〇代まで。女性のみで月に六〇〇ユーロ。ベルリンでは破格の値段だった。ネット環境も良し。住民もいい人ばかり。なかなか友人達を連れて来れないのがネックだけど、それでも恵まれた環境にいると自負していた。


 そんな彼女だが、学園では秘密にしていることがあった。それが『リスクを負うことに快感を覚える』という性癖であった。


 なぜそうなったかは覚えていない。気づいた時にはそうだった。ギャンブルだけではなく、日常生活にもリスクジャンキーが顔をチラつかせる。


 包丁で野菜を切っている時にふと、『包丁の先端を眼球ギリギリまで持っていったら』、マグカップに熱湯を注ぐ時も、『覆うように手で持って、目隠ししたまま注げるか』、といった痛みを伴うものから、『吐き気を我慢したままあえて電車に乗る』『明らかに危険な不良達の間をぶつかりながらすれ違う』など、種類豊富にエスカレートしていった。

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