あいにいく

11 メッセージ

 浄島きよしまに忠告されてから、俺は愛衣とやり取りするのをやめた。

 というか、愛衣と交流しているアカウントへログインすることも控えている。

 ヤツがあんな真面目な顔でやめた方がいいと忠告してきたのは、どう考えたってきっと、この悪趣味な悪ふざけのことだろう。

 俺はネットのこととか全然明るくないけど、きっと大丈夫大丈夫と勝手に思い込んでいたから、いつの間にかウイルスを送られたのかもしれない。画像にもウイルスを仕込むことが可能なのだということすら、俺はよく知らなかったのだから。その原因はツイッターかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、相手がただのスパムアカウントだと思って油断して、舐めてかかった。そういう態度が、いけなかったのかもしれない。

 かもしれない、かもしれない、の繰り返しで道徳の授業みたいな結論に着地しながらも、この悪ふざけをやめたことで、俺は少しだけ身体が軽くなったような爽やかな心地よさを覚えていた。

 面倒くさがり屋の自負が強すぎてもはや開き直りの域に到達しているこの俺が、なんと来週の土曜日に近所のキャリアショップへ行く予約まで取り付けたのだ。そこで今使っているスマートフォンを諸々チェックしてもらって、ついでに機種変更もしてしまおうかと思っている。

 あれ以来、なんだか気味が悪いのでカメラ機能は起動もしていない。だから板書は今まで以上に真面目に取るようになったし、学内のみでの告知ポスターなんかはメモを取るようにしていて、正直手間だと思うことも多い。でも、二つの面倒くささを天秤にかけたら圧倒的に『触りたくなさ』のほうが勝る。背に腹は代えられない。どうせ来週にはショップで直してもらうのだから、おかしなものには極力触れないのが吉だ。

 なので今、カメラ機能がどうなっているのかはわからない。勝手に直ってくれていればいいのだが、さらに不具合が悪化していたらと思うと気が重いのだ。


 そんな矢先のことだった。

 いつも通り部屋で簡単に夕飯を済ませ、シャワーを浴びて洗面所を出る。

 リビングに戻ってスマートフォンを開くと、使っていない方のアカウントのDM着信通知が見えた。

 確認しなくてもわかる。このアカウントにDMを送ってくるアカウントなんて、愛衣しか考えられない。

 これまでまったく動きがなかったのに、突然なぜ。頭蓋骨の裏側を、ひやりとした感覚が走る。頻繁にちょっかいを出していた頃も、DMは送ってこなかったのに。

 俺は少し焦っていたのかもしれない。通知をスワイプで消そうとして、手が滑った。スワイプではなくタップした形になってしまう。DM画面が開いた。

 それは動画だった。一時はあんなに待ち望んでいた、愛衣からの「どうが」。

 そこで記憶が途切れた。

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