05 お な動画

 愛衣からのDMは至ってシンプルだった。

「ありがとう。あげます」

 その一言と共に、1件の動画ファイルが届いている。

 直接動画ファイルで送ってくれるんだあ、と思った瞬間、突然冷静なほうの俺が息を吹き返して早口で喋り出した。てかよく考えたらさあ、他サイトへの誘導リンクを送られる可能性の方が高かったよな、リンクだったら絶対踏んじゃだめなやつだからさすがにクリックできなかったよな。確かにそうかもしれない。

 その点、愛衣は意外に良心的なスパムなのかもしれない。これなら、再生しても問題はなさそうだ。

 真っ黒なサムネイルの再生ボタンをタップする。動画が始まった。

 ……始まってる、よな?

 シークバーは動いている。だが、真っ暗で何も見えない。暗すぎるせいか画質もガサガサしている。時々衣擦れのような音がするのだけはなんだかエロい。待てよ、何か湿った音もする。なんかエロい音してるんじゃないかこれ。もしかしたら、パンツの中に直接スマホを突っ込んで撮影したのではないだろうか。パンツの中にスマホなんか突っ込んで一体何をするってんだ。だとしたら、だとしたらだぞ、画面を明るくすることで無修正のご本尊を拝めるかもしれない。急いで画面の明度を最高値に設定したのだが、期待した成果は得られなかった。

 結局、最初から最後までそんな調子で、4分半ほどの動画が終了した。

 愛衣。それはちょっと、人間の想像力に頼りすぎてるだろ。

 この雰囲気だけで抜けるほど、俺は想像力が豊かじゃない。

「なんか思ってたのと違う……」

 めげずに7回ほどその動画を再生してみたのだが、やはり『真っ暗でガサガサした画面に、なんかボソボソした音がいろいろ入ってるだけの映像』としか言えないものだった。

 これはさすがに、言い訳のしようも無く、期待した俺が愚かすぎた。

 パンツを脱ぐ前に期待外れと気付けたことくらいしか救いがない。

 しかしスパムbotが相手とはいえ、せっかく動画を送ってもらったのだから、一応礼くらいは述べるべきだろうか。なんとも馬鹿馬鹿しい考えなのは承知しているが、俺はこの愛衣のスパムらしからぬ妙な不器用さに、なんとも言えない愛着のようなものを感じ始めていた。

 まあ、考え込むうちに「さすがに無いな」と気付くことが出来たので、お礼メッセージを返すのはやめた。かわりにハートマークのリアクションスタンプを送っておく。

 動画は使えそうになかったが、ハンドメイドのあたたかみのようなものは感じられた。愛衣、その調子で頑張ってくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る