第4話 凝集反応






 異世界転生ものに付きものの、異世界チートだが、古き良きいにしえの異世界ものでは、チートもなく放り込まれて主人公は大概死にかけていた。若しかしたら、自分はソッチかもしれない。そんな恐ろしい考えが脳裏を過る。


 何故なら、俺は先程からずっと血を出し続けているからだった。

 あー、ハーレム内の女達結構いるからな~!比較するために一人に対して二皿分。試すだけでも俺の血が大量に必要じゃん!バカ!マヌケアホ!


「陛下、イアスに休憩を取らせてください!顔が青くなっております!このままでは!」


 ダーシャが俺の様子にいち早く気付いて献言してくれた。美女な上に本当に性格がいい。クソ皇帝でクソ実父だが、女の趣味だけは良いのかも知れない。


「呪われた血でも失えば死ぬか。笑えるな」


 皇帝は嘲笑するように顔を歪めたが、ダーシャが俺の止血をしようとするのを止めはしなかった。そして、そのまま皿をジッと眺める。


 今、試されているのは、自ら名乗り出たダーシャとダーシャが最も親しくしている妃たちだけだ。後はまだ試すに至っていない。何せ、ハーレム内には皇帝のお手付きになった女が全て押し込まれているのだから、下女を除くにしても50人以上もいるのだ。一度に試せる訳もなかった。


「確かに、貴様の呪われた血故に、女達の血は混ざらず固まり始めたな…」


 しげしげと皿を眺め下ろす皇帝は、先程の激昂が嘘のように静かな暗い目をしていた。ダーシャたちと俺の血液型は明確に違ったようで、ハッキリと凝集反応が現れていた。一応、良かったと胸をなで下ろしたが、実母の無実を証明出来なければ、庇ってくれたハーレムの女達にも累が及ぶかもしれない。


 時間稼ぎにはなったが、根本的な解決には至らない。ともかく、皇帝に納得して貰わなければ意味がないのだ。


「姑息な時間稼ぎをしても無駄だ。血が足りぬなら、試すのは明日にしてやるが、これより貴様は奴隷窟に収監しておく。決して逃れる事は出来ぬぞ」


 時間稼ぎの思惑を看破されていたらしい。腐っても皇帝だ。脱走の可能性も脳内で模索していたが、先ず無理そうだった。





☆☆☆




 翌日、翌々日と皇帝は飽きることなく俺に証明の実行をさせた。ハーレムの女達は民族的な差異もあってか、俺とは血液型が異なっているらしく、今のところは凝集反応が出ている。とは言え、100%大丈夫とは云えないし、最終的に皇帝と血液型が合わなければアウトになる。


 俺は黒髪黒眼で、容姿は日本人に近い。実母とよく似ているらしく、実母も年齢よりかなり若く見えたらしい。とは言え、写真も絵画もないので、自分自身では実感はないが、ダーシャたちによると見た目的には15か16に見えたと教えてくれた。


 証明の為に小皿に血を分けながら、横で手伝ってくれるダーシャから色々と話が聞けるのは有り難い。とは言え、ずっと皇帝からの監視は背後に張り付いているし、皇帝も遠く広間の上座に鎮座して此方を眺めているが。


 今までのイアスの記憶と、ダーシャたちの話を総合すると、どうやら、実母は最初からハーレムにいた訳ではなく、妊娠発覚直後にハーレムへ連れて来られた娘のようだった。ダーシャたちの問い掛けにも、それまで何処で何をしていたか一切話さず、ただお腹の子は皇帝の子でせめて子供だけは守りたいと語ったらしい。酷く憔悴して見えたが、病気などはなかったようだ。


 想像するに、その後あのクソ皇帝の手に掛かって殺されるか何かしたんだろう。打ち棄てられ遺体で帰ってきた実母をせめてもとハーレムの女達だけで弔った。

 すると、昔話宜しく、棺の中から赤子の鳴き声がして、俺がいたと言うわけだ。


 うん。生物学的にはなくはない。母体が死亡しても、胎児は暫くは生きているし、臨月まで育っていれば、外に出ても問題なく生きていける。ただ、実母が死亡してから一日以上経過していたらしいから、その点はかなり異常と云えるだろう。


 昔話でも、死後に赤子を産み幽霊になった母親が飴で育てていた話がある。それに近いくらいに珍しい事例だ。まぁ、俺の場合は幽霊の代わりにハーレムの女達が育ててくれた訳だが。









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