第2.5話 幕間1

 (幕間 ネーヴ視点)


 一体どれほどの時が流れただろうか。いつしかこの収容所は廃墟と化してしまったというのに、私は未だ魔力を封じる鎖に繋がれたまま。

 

 龍の寿命は長く、そのため食糧の類を口にしなくともひと月程度は生きられる。が、まさかここまで追い詰められるとは思いもしなかった。


 

 ────願わくば、命果てるまでにもう一度日の目を浴びたいものだ。






 体力の底が近いのだろう、気がつけばまた無意識のうちにウトウトしてしまっていた。このままでは餓死するのも時間の問題か。


 だがそんな時、コツン、コツンと一定間隔で無音の空間に響く音が聞こえた。水面に一滴ずつ雫を垂らすか音のように、淡々と。

 

 獣か、物怪か……あるいは人か。いやもしかすれば、疲れによる幻聴かもしれない。

 それを私は心地よいと思ってしまうほど、衰弱していた。



 さて、どうしたものか……そう考えているうちにも、着実に音の主は近づいてくる。



 一つ賭けに出てみるとしようか。



 そう思った私は、出来る限りドスの効いた声でそこで止まるよう言った。初手でこちらが上だと思わせるためにだ。


 だが私の目の前に少し驚きながらも現れたのは、なんとも可愛らしい少女だった。歳は十五くらいか、肩まで伸びた銀色の艶やかな髪。白く細い手足。フードで半分は隠れているものの顔はかなり整った顔立ちをしている。


 だが違和感は確実にあった。そもそもこの場所はそのようないたいけな少女が来るようなところではない。それに、最初は私の声に驚いたのか年相応の表情をしていた。けれども────


 ……おいおい、十五.六の少女がする表情にしてはあまりにも思い詰めすぎではないか……?


 その目は私をじっと見つめていた。それはどこか冷酷で、虚に近いようなものに思えた。


 そう思った私は、咄嗟にかける言葉を探したものの、どうにも思い付くことができず、しばらく沈黙が流れた。


 きっと色々訳ありなのだろう。けれど、今の私には関係ない。


 むしろ私にとっては、彼女が天使にすら思えた。私からすれば、願ってもない脱獄のチャンスなのだから。


 (……さて、この鎖から解き放ってくれるなら、例え魔界だろうと地獄だろうと着いて行ってやるか)

 そう思った私は、出来る限り愛想良く、彼女と会話のやり取りを続けた。


 


 

 




 





 

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