第18話 18

 何か響くんが爽やかにお礼を言ってるけど、晩ご飯までうちにいるってこと? おうちに帰らなくてもいいの?

「じゃあ、着替えてきますね」

 そう言うと響くんが立ち上がった。着替え? わざわざ一度帰るの?

 響くんのうしろ姿を見送りながら、思わず首を傾げた。

「それにしても響くん、カッコよくなったわね」

 お母さんが、響くんの消えたドアを見つめながら、そう言った。そうだった、なんでお母さんは響くんを知ってるのか聞かなきゃ!

「お母さん、なんで響くんを知ってるの?」

 私の質問に、お母さんが不思議そうな顔をした。

「なに言ってるの、お隣の響くんじゃない」

「へ?」

 ちょっと待ってお母さん、お隣は右が空き部屋で、左は新婚さんにちょっと毛が生えたような夫婦だよ?

「お隣?」

 思わず聞き返すと、お母さんはさらに変な顔をした。

「高校進学のために、響くんだけ帰国したんでしょ」

 何のこと? 私、響くんとは今日、初めて会ったんだけど? いや、同じクラスだから、昨日から? どっちにしても知らない人なんだよぉ。

「もしかして、また忘れちゃったの?」

 はい? 忘れる? 一体何のこと? 訳が分からず、お母さんを見る。

「忘れるって?」

「響くんのこと」

 即答するお母さんを見つめながら、色々と考えてみる。うーん、やっぱり何も思い出せない。

「響くん、入学式の前日に、挨拶に来たでしょう」

「ええーっ!」

 お母さんの言葉に、思わず驚きの声を上げてしまった。そんなの知らないよ! それに、またってことは、もしかして前にもあったってこと?

「かわいそうに……、響くん……」

 え? なんだかお母さんが悲しげな表情で目を伏せたんだけど、なんで響くんがかわいそうなの?

「こんな薄情な娘の、どこがいいんだか……」

 そう言いながら、お母さんがチラッと横目で私を見ると、また顔を伏せてため息を吐いた。

「薄情って何? 私、響くんのこと知らないよ」

 お母さんがまた、ため息をついた。

「十歳まで、響くんと一緒にいたのに……」

 お母さんが遠い目をして、明後日の方向を見始めちゃったよ。

「響くんがいなくなった日の夜、鈴は高熱を出して、熱が下がった時には、あんなに仲が良かった響くんの事を、きれいさっぱり忘れてたのよね……」

 チラチラと私を見ながら、お母さんが言った。そうは言っても、まったく覚えてないんだけど……?

「ああ、そうそう、昔の写真があるけど見る?」

 お母さんはそう言うと、私の返事も聞かずにリビングから出て行ってしまった。

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