第17話 17
思わず首を傾げる私に向かって、響くんが腕を組みながら言った。なんか、後ろにゴゴ
ゴっていいそうなオーラが出てるのは気のせいだよね? 逆らうと何かされそうな雰囲気
120%という感じなので、言われるがまま響くんの後についていった。
リビングのソファーに座り、テーブルの上を見た。響くんの目の前あるのは、Maxim'sのナポレオンパイと紅茶……。お誕生日の時にねだって食べたんだけど、すっごく美味しかったやつだ。なんで響くん、そんなの食べてるの? そして、なんでお母さんの前にもそれがあるの? お客さんの分しかないって言ったじゃん!
私の前には、お母さんがドラマを見る時のオヤツのお煎餅と、ほうじ茶がある。この差は何なの? しかもこのお茶、出がらしだよ。思わず、響くんのケーキを、指を咥えて見つめてしまう。視線に気がついたのか、響くんが素敵な微笑みを私に向けた。
「鈴、これ食べる?」
目の前のケーキを指差しながら、響くんがその笑顔と同じぐらい素敵な事を言った。頷きながら、ごめんね響くん、変な人だとか思ったりしてと心の中で謝ってみた。
「あら、響くん、鈴はいいのよ」
何? 何てこと言うのよ、お母さん! ケーキに向かって伸ばした手が空しいじゃない。
「じゃあ、いただきます」
お母さんの言葉に響くんは笑顔を返し、フォークを手に取った。あー! 私のケーキ! 私が食べるはずだったケーキが、どんどん響くんの口に運ばれていく。最後の一口が終わり、響くんは優雅に紅茶を飲んでいる。私は、仕方がなく自分の目の前にあるお煎餅に手を伸ばした。
「あら鈴、食べないの?」
そう言うとお母さんは、私のお煎餅を持っていってしまった。
「ちょっ、お母さん」
止めようとしたけど、もうお母さんはお煎餅を口に入れていた。
「ふぁに?」
お煎餅を口に入れたまま、お母さんが聞き返した。
「私のオヤツは?」
お母さんが、お煎餅を紅茶で流し込んだ。それって美味しい?
「あら、食べるんだったの?」
「食べるよぉ」
酷いよ、お母さん……。
「でも、もう何もないわよ」
そう言いながら、お母さんは残ったお煎餅を食べてしまった。仕方がないので、出がらしのほうじ茶を飲んで空腹をごまかした。
「そうそう響くん、今日はスキヤキだから、ご飯食べてってね」
えー! スキヤキ? それって、年に一度、食べられるかどうかという、すっごく高価な食べ物なのに、お母さんどうしちゃったの? 一オクターブぐらい高い声で、響くんに声を掛けたお母さんに、響くんは笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます」
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