第11話  11

 あまりの衝撃の展開に思わずパニくっていると、気がついたら響くんの顔がすぐ目の前にあった。何かヤバイものを感じて思わず後ろに下がるが、すぐにエレベーターの壁にぶち当たってしまう。なのに響くんは構わず近づいてくるんです。もしかして、またキスとかされちゃうの? もう逃げられないし、覚悟を決めて目を瞑ったとたん、左頬に痛みが走った。

「い、いひゃい」

 思わず痛みを訴えたけど、頬を引っ張られていて、変な言葉になってしまった。その言葉のせいなのか、響くんが笑い出した。

「変な顔」

 響くんが、私の顔を見ながら嬉しそうに言った。変! って、響くんが引っ張ってるからじゃないですか! 酷いよ! と思っても口に出来ないんだよね……。何か言ったら、きっと私の身に危険が……。

 響くんが私の頬から手を離すのと同時に、エレベーターが目的の階に到着してしまった。 ダメよ、絶対にダメよ私! 家を教えたりしたら、大変なの事になるのよ! ここから一歩も動いちゃダメ!

 そう誓ったのも空しく、響くんに手を引かれてエレベーターから降りてしまった。どうしよう……。

 いや、まだよ! 部屋は他にもあるんだし、私の家が分かるわけないって……。あー! 表札が出てるんだった! すぐにばれちゃういますよ? どうしよう? 今すぐ走って逃げるとか? 

 そして響くんは、迷いもせずに私の家に向かった。だからなんで? なんで家を知ってるの?

 響くんの長くて綺麗な指がインターフォンを押しちゃった。って、見惚れている場合じゃないよ。お母さんの返事がインターフォンから聞こえてきた。どうしよう、どうしたらいいの? お母さんになんて言えばいいの?

「西園寺です」

 王子様モードで、響くんが答えた。勢いよくドアが開くと、響くんの横にいた私の顔にゴンッて大きな音を立てて直撃した。痛いよー! 娘の鼻が潰れたらどうすんのよ!

「あらー、響くん。いらっしゃい」

 そんな大きな音を気にもせず、お母さんがいつもより一オクターブぐらい高い声を出した。って、なんで響くんの名前を知ってんの?

「鈴はまだ帰って来てないんだけど、待ってる?」

 そう尋ねたお母さんに向かって、響くんは黙って私を指差した。それに合わせて、ドアの陰からお母さんが顔を出してきた。

「なんだ鈴、いたの」

 お母さんはいつもの声で、言い捨てるようにそう言った。酷いよ、お母さん……。響くんと態度が違うよ……。

「た、ただいま……」

 あぁ……、お母さんに響くんの事を聞かれたら、なんて説明すればいいんだろう……。

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