第9話 9

 周りの女子たちよりも先に思わず叫んでしまった私の足を、響くんが思いっきり踏んづけた。

「いたっ!」

 いたいよー、何で足を踏むの?

「どうしたの? 大丈夫?」

 響くんが、心配そうに私の顔を覗きこんだ。って、響くんが踏んだのに、何言ってるんですか? それに、周りは響くんの"付き合ってます"宣言に気を取られていて、誰も私の足なんて気にしてないよ……。

「だ、大丈夫……」

 なんか……何か言ったらとんでもないことになりそうな予感がヒシヒシとして、思わずそう答えちゃった……。

「今日の昼休み、図書室の窓辺でツルゲーネフを呼んでいる鈴の姿に一目惚れしました」

 へ? 何? なんかまだ話が続いていたの? 響くんが変なこと言ってるんだけど? どういうこと? というか、昼休みにそんなことなかったよ? なに勝手に話を作ってるんですか?

「じゃあ、行こうか」

 そう言うと響くんは、これ以上はないっていうぐらいの極上スマイルを私に向けてきた。あーダメ……。ついついクラクラしてしまった。はいはい! どこでも、どこまでも付いていきます!

 響くんの極上スマイルに浸って我を忘れていたら、なんか視線が痛いような……? って、気がついたら響くんに手を引かれ教室を出て行くところだった。そりゃ、視線も痛いよね……。

 なんか、なんていうか……、これってなんていう罰ゲームですか? 状態なんですよ……。みなさんの視線とか、ひそひそ話とか……私、明日から学校に来ちゃいけない気がするのは気のせいでしょうか?

「あ、鞄!」

 そういや机の上に置きっ放しだよと、響くんから離れる口実が出来て思わず喜んじゃった。

「大丈夫、ちゃんと持ってるから」

 そんな喜びを打ち砕くように、響くんがにっこりと笑顔を浮かべながら、手に持った鞄を見せてくれた。

「あ、ありがとう……」

 仕方がないので、自分の鞄を受け取ろうと手を出した。すると響くんは笑顔のまま、その手を下ろした。

「僕が持つよ」

 え? あ、いや……、周りの視線が痛いんですけど……。お願いします、鞄を持たせてください。そしてこの手を離してください。と、響くんに向かって必死に目で訴えてみるけど、なんも効果がない。

 響くんは周りの空気も読まず、嬉しそうに王子様スマイルを浮かべたまま、私の手を離さずに玄関へと向かった。ここで手を振り払って逃げればいいんだろうけど……、そんなことしたら明日はもっと酷いことされそうな気がして出来ません……。 王子様と一緒という嬉しさ半分と、明日からの心配で半分泣きながら響くんに手を引かれて、私は学校を後にした。

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