第7話 7
上着をはだけた西園寺くんが近づいてくるので、恐怖のあまり首を横に振った。
「じゃあ、それは後の楽しみに取っておくか」
綺麗な顔に意地悪そうな笑みを浮かべて、西園寺くんが答えた。いやー! 取っておかなくていいです。なんだかよく分からないけど、今すぐ忘れてください! お願いしますぅ!
「鈴」
私の名前を呼びながら、西園寺くんの顔が近づいて来る。いやー。お肌とか綺麗だよね。睫毛も長いし、綺麗な顔だとこんな近くにあっても不快じゃないんだね。というか寧ろずっと見つめていたいです……。
って、私は何をトリップしてんですか? 今は、西園寺くんに見惚れてる場合じゃないんだってば!
「俺の名前を呼べ」
はい? なんですか? いきなり……。というか私、西園寺くんの名前を知らないんだけど? 名字だって、今さっき知ったばかりなんだし……。
でも、名前を呼ばないと私、何かされたりする? するよね……。なんとか逃げようと後退ろうとしたが、西園寺くんの手が私のスカートを抑えているため、動くことが出来なかった。
「あの……、西園寺くんのお名前は?」
意を決して尋ねた瞬間、沈黙の時間が流れた。西園寺くんは、なんだか哀しそうな顔をしているけど、気のせい? うん。気のせいだよね。なんで哀しくなるのか分かんないし……。
それに、呼べって言われたって知らないんだもん。しょうがないじゃない。
「鈴、本当に俺のこと知らないの?」
西園寺くんの問いに頷た。名前、聞いた記憶ないよね?
「毎日、会ってるだろ?」
いや、毎日ったって、まだ二日だし、覚えてなくても仕方ないんじゃないかと……。
「あ、私、三日休んでるから、まだ二日しか学校に来てないんです」
あれ? 気のせいかな? なんか西園寺くんの顔が寂しそうに見える。
「響」
へ? きょう? 今日がどうかしたの?
「きょう?」
思わず聞き返してしまった。
「響くと書いて、きょう」
なんだろ? 突然……って、あー、名前だ。そっか、響くんって言うのか。てっきり、今日これから何かあるのかと思ったよ。
「響くん?」
あれ? 名前を口にしたら、何か言い慣れたような記憶があるんだけど、なんだっけ? うーん……。思い出せないから、やっぱり知らないよね。
なんか知っているような知らないような変な感覚に悩んでいると、西園寺くん改め、響くんが立ち上がった。
「続きは、放課後な」
え? 放課後? 悩んでいる私に向かって、響くんが手を差し伸べてきた。あれ? 雰囲気が変わってる。魔王様から王子様に戻ってるよ。
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