第2話 2

 あんな素敵な人が居たなんて、ちょっと、嫌、かなーり頑張ってこの学校に入学して良かった。王子様、同じ一年生なのかな? どこのクラスなんだろ? 入学して一週間、まだクラスメートの顔すら覚えていない私には、王子様の素性はまったく検討が付かないんだけど……。

 あぁ、こんなことなら、熱が出ていようと入学式から学校に来ていれば良かったよ……。高熱にうなされていた三日間がもったいなかったなぁ。

 教室に戻って席に着いても、ついつい王子様のことばかり考えてしまう。あー、王子様のことばかり考えてたせいか、なんかまぼろしまで見えてきたかも? 目の前に、記憶にあるそのままの王子様の姿が見えるんだけど、これって……やっぱり私、変になっちゃったの? 男子達と普通に話してるってことは、王子様は私と同じクラスってこと? なんか、凄いまぼろしかも。

 あれ? まぼろしの王子様を堪能していたら、なんだか視線が合った気がするんですけど、どういうこと? しかも、こっちに近づいて来ちゃったりそてますよ? どういうこと?

「芳野さん、さっきは大丈夫だった?」

 え? えぇっ? 王子様がしゃべった! これ、まぼろしじゃないの? 自分の頬をつねってみたけど、痛い! ってことは、まぼろしじゃないのね。

「あ、あの……その、えっと」

 え? 何? 何がどうなってるの? ってか王子様、今、私の名字を呼んだよね? 何で私の名字を知ってるの?

 訳が分からずに返事を出来ないでいると、授業開始のチャイムが聞こえてきた。

「じゃあ、またね」

 王子様はそう言うと、爽やかな笑顔を残して去っていった……。あぁ、行かないで王子様! ってそれよりも、王子様、またねって言ったよね? 私ちゃんと聞いたもん。絶対に幻聴じゃなかったよ。

 優雅に歩く王子様を思わず目で追っていると、私の斜め向かいの席に座った。

 えぇっ? もしかして同じクラスだったのー? ちゃんとクラスメートぐらい覚えなさいよ、私って感じだよね……。

 ボーっと王子様の背中を見つめていたら、突然、王子様の頭が動いてこっちを見た。目があった瞬間、机の下でそっとこっちに向かって手を振ってきた。あの、それって、もしかしなくても私にですか? 目が合っているし、私にだよね? 同じように小さく手を振り消してみると、王子様が嬉しそうに微笑んだ。やっぱり私にだったのね! って喜びのあまり、バランスを崩して大きな音と共に椅子から落ちてしまった。教室中の視線を集めながら椅子を直すと慌てて席に着く。

「す、すみません……」

 丁度教室に入ってきた先生まで、こっちを見てる。恥ずかしいよぉ。

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