◇5「儀式」


 二〇一五年十一月二十九日。日曜日。私は揺れる電車に乗っていた。朝十時の電車に乗って、町を出た。大好きだったユウさんに会いに行くために。


(二〇一五年十一月二十九日。日曜日。私は揺れる電車に乗っていた)

(『大阪駅の中央北口改札前で十四時。待ってるから』と、ユウさんは言った。それは私の記憶の中だけにある)


(あなたは私が何者だと思っているだろう)


 私は手の中に握りしめた切符の感触を確かめる。生きてる私と、生きてるユウさんがこれから初めて出会うことを考えて、胸が浮ついたように高鳴る。私はユウさんに、会いにいかなければならないと思った。ユウさんを知るために。今日までの短い時間で、ユウさんと出会った日とは、違う私を知ってもらうために。


(十一月二十九日。この日、私が電車に乗って町を出てから六時間後。ユウさんはネット上から全てのアカウントを消去する。ツイッター、ユーチューブ、ニコニコ動画。インターネットのあらゆる場所から、あなたは姿を消す)

(私はそのとき、全ての機会を失った。あなたに再び会うことも、あなたに何かを伝えることも)

 

 私はユウさんに会って、何を言うべきかを考えていた。

 揺れる電車の中で、私は不安と恐怖と……少しの勇気を胸に抱いている。


(私はユウさんに会って、何を言うべきかを考えていた。)

(揺れる電車の中で、)



(『追憶の中で生きていくなんて、そんなの生きてるとは言えない』と)






(私は確かにユウさんにメッセージを送った)

(私はそれを後悔している)


(私は不安と恐怖だけを胸に抱いている)



 私は終わりに向かっていく。


(少女は終わりに向かっていく。私は終われないまま、今ここに居る)


 今、ここに、儀式は完成された。


(私は少女では無い。私は少女などでは無かった)





 これは小説だ。


(Mitsuki.Uについて、残された13のツイートと)


(11のダイレクトメッセージ)


(たった一曲の歌詞によって構成された小説)


(ここに儀式を終える)



(私は、井ノ原潮ではない) 

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