第18話:みんなが助けてくれた

最近リーゼちゃんを見かけません。

ギルドにも顔を見せないし、ディジィさんのところにも来ていない。

それどころか宿も引き払ってしまったらしい。

私に一言もなくいなくなるなんて・・・

ギルドに来る冒険者にそれとなく聞いてみても有力な情報は得られない。


「そう言えば、ちょっと前にシオンと一緒にいるのを見たぜ?」

シオン?Eランクのスカウトの女の子だね。

それがリーゼちゃんとどういう関係?

「近くの森で採取をやってたぜ?」

うん?採取しているならなぜギルドに来ない?

採取する->ポーション作成->ギルドで売却じゃないの?

まずはシオンを尋問だね!


シオンを見つけてギルドに連れてきてください!

ギルドにいる人に片っ端から声をかけた。

17人目にして目撃者を発見!

「昨日俺が泊まってる宿の酒場で潰れてたぜ?」

見つけた。

今すぐここに持ってきてください。

逃げられないように簀巻きにして。報酬は銀貨10枚です!

即座に簀巻きが届けられた。


まずは簀巻きに水をぶっかけて目を覚まさせる。

簀巻きは事態が呑み込めていないようだが関係ない。

そこの簀巻き、リーゼちゃんをどこに隠した?

「え?何?リーゼ?」

私は右手を振り上げて、振り下ろす。

ぱちん

小さくて真っ白な錬金術師のリーゼロッテちゃんです。

あなたがどこかに隠したことは明白です。


「確かに最近一緒に採取してたけど、知らないよ?」

最後に一緒に目撃されたのがあなた。

ならばあなたが犯人に違いありません。

「昨日は調子が悪そうだったから、採取はお休みにしたんだ、その後は知らない」

嘘をつくとさらに罪が重くなりますよ?


数回頬を叩いたけど、効果がないみたい。

どうやらスカウトだけあって、少し叩いただけじゃ口を割らないようね。

下着の中に手を突っ込んで鷲掴みにする。

ぶちぶち

「ぎゃぁぁぁぁ!」

下着に突っ込んだ手を抜いて広げると、

パラパラと青くて縮れた毛が舞い落ちる。

さっさと白状しないとここがハゲになるわよ?


だいたい、あなたが攫ったから宿を引き払ったんじゃないんですか?

「宿を?そんなこと聞いてないよ?」

まだしらを切りますか!「肉と安らぎ亭」のマーシャさんの証言では、

5日前に宿を引き払ってそれから見ていないとのことです。

「そう言えば、最近少し薄汚れていたような?」

ほう、それに気付きながらも放置したと。

罪が一つ増えましたね。


そもそも、どうしてあんな小っちゃな子の有り金を毟り取ったんですか?

「有り金なんて・・・毎日銀貨6枚だけだよ?」

それを有り金というのです。

ちなみにリーゼちゃんの普段の収入は1日銀貨4枚です。

「え?そんだけ?私と初日に銀貨12枚稼いでたよ?」

それはたまたまです。

普段1人では入っていけないような奥まで採取しに行ったから、

誰にも荒らされていない採取場所だったから、その額になったのです。


しかし、一度採取してしまえばしばらくは薬草は生えてきません。

だから毎日12枚稼ぐことはできなかったんです。

初日に取り尽くしたから翌日以降はいつも通りの稼ぎです。

護衛料は銀貨6枚のままだったので、あっという間に宿代もなくなったのです。

「それならそう言ってくれれば・・・」


あの子はランクはGでレベルも1だから、パーティーに誘われることはありません。

ステータスも全部1です。何もできません。

だから、あなたに声をかけられてとてもうれしかったそうです。


「でも、それはレベルが低いからじゃないの?レベルなんてすぐ上がるじゃない」

リーゼちゃんは呪いのせいでレベルは上がりません。

レベル2にあげるために必要な経験値は18億です。

1000年や2000年でためられる量ではありません。

一生レベル1なんですよ。

「だから何も言えなかったって言うの?」

リーゼちゃんにとっては、初めての、そしてたった1人の仲間だったんです。


「門衛からの情報だ!今朝がた西門から外に出たそうだ!1人で!」

西門ということは近くの森、簀巻きが居なかったから1人で採取に?

1人なら入り口近くのはず、探しに行ってきます!

もう報告を待っていることなんてできない、自分の足で探しに行く!


森の中の獣道をかき分けて進む。

そんなに遠くまで行っていないはず。

居た。

うつぶせで倒れてる。

駆け寄って抱き起す。

「あれ?グレイスさん?」

良かった、まだ生きてた。

急いでギルドに戻る。


ぐぅぅ

お腹がすいていて倒れてたのかしら?

以前ザックさんからもそんな話を聞いたっけ?

じゃあ、ギルドに戻る前に食堂へ。


消化のいいものと果汁を注文して、

リーゼちゃんの近況を確認する。

「シオンさんと採取をすることになって、護衛のお金で宿代がなくなって、ご飯も・・・」

もういいわ、辛かったのね。もう大丈夫よ。

リーゼちゃんを抱きしめて慰めてあげる。

なるほど、やっぱり護衛代と称してあの簀巻きに毟られてたのね。

これだけであの簀巻きの罪は確定よ。

リーゼちゃんを騙した詐欺罪と、その結果餓死寸前まで追いやった殺人未遂。

しかもギルドメンバーがギルドメンバーに対して行うのは重罪。

ギルドの存在を覆すような非道な行為。

軽く死刑2~3回分ね。


とりあえず、リーゼちゃんは無事に保護できたし、

ギルドに帰って簀巻きの処分ね。


◇ ◇ ◇ ◇


「ところでコイツどうする?」

ギルドのみんながシオンさんを簀巻きにして吊るしている。

「罪状的には軽くても死刑確定だけど・・・」

どうやら、私はシオンさんに騙されていたらしいんだよ。

そんな感じはしていなかったんだけど、

ギルドのみんなが言うには相当ひどい手口だったみたい。

グレイスさんは怒りを通り越しているのか冷たすぎる目で睨んでいる。

何というか目だけで殺せそうあんだよ・・・


「騎士団に突き出そうぜ?」

騎士団に捕まるとシオンさんは殺されちゃう?

確かに、悪いことをしたのかもしれないけど、

被害者と言われている私自身が騙されたと思っていないんだよ?

シオンさんは採取の手伝いをしてくれた。

本当に悪い人じゃないと思う。


「リーゼちゃんがなんと言おうと、罪には罰が必要です!」

確かにそうかもしれないけど、罰金とか牢屋に何日とかじゃダメ?


--シオンよ、汝には罰を与えます。--

どこからともなく声が響く。

誰がしゃべってるんだろう。

突然の声にみんなが静まり返る。


--この度の汝の行い、あまりに軽率。--

再び声がする。

ここにいる誰かがしゃべってるわけではない。

空間に直接声が響いている感じだ。


--罰として汝を勇者に任命します。--

いきなりの展開にみんながざわめく。

「勇者って罰なのか?」

剣士風の冒険者のお兄さんがつぶやいた。

たしかに、勇者って選ばれた存在だよね。

罰って言うよりもご褒美なんじゃないかな?

みんなも納得してないみたい。


--勇者として魔王を討伐しなさい。--

そうか、勇者は魔王を倒さないといけないんだ。

「魔王っているのか?」

グランツさんが問いただす。

ギルドでも魔王の存在は確認できていないみたい。


シオンさんの身体が一瞬光に包まれて元に戻る。

もう声は聞こえない。

グランツさんがシオンさんを下ろしてギルドカードの確認をする。


名前:シオン

性別:女

年齢:15

種族:人間

職業:勇者

ランク:E

レベル:1

HP:200

MP:200

ちから:20

すばやさ:80

かしこさ:20

きようさ:80


状態

呪い<魔王討伐>


レベル1の勇者になってた。そして、呪われていた。

おそらく魔王を倒さないと解けないんだと思う。

でも、魔王の存在は確認できていない。


シオンさんは勇者任命の報告のため王都へと旅立っていった。

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