第9話:生活基盤を整える

なんだかとても長い一日だった。

そして重大なことを思い出した。

今日はどこに泊まろう?

「リーゼちゃん、もう一つお仕事してみない?」

途方に暮れているとグレイスさんが一枚の依頼書を持ってきた。


--緊急クエスト--

依頼内容:荷物運び

ランク指定:無し

報酬金額:銀貨20枚

詳細内容:数件の店を回っての買い出し。重量物あり。


私にもできそうな感じなんだよ。

アイテムボックスに入る限りは問題ないと思う。

入りきらなかったらごめんなさいだけど、どこまで入るのかな?


「宿屋さんの食材の買い出しのお手伝いよ」

宿屋!いま私に必要なもの!

お仕事をすれば泊るところを確保出来るかも知れないんだよ!

さっそく、グレイスさんに場所を聞いて宿屋に向かう。


ここだ。「肉と安らぎ亭」

依頼の話と、ついでに宿泊の申し込みをしよう。

「ああ、買い出しの依頼ね。お嬢ちゃん荷物持てる?」

まあ、当然の反応だよね。どう見てもお子様だし。

宿屋のお姉さん、マーシャさんが心配するのも当然なんだよ。


一応、アイテムボックスのスキル持ちだと説明する。

試しに、お酒が入っている大きな樽をアイテムボックスに入れてみる。

突然樽が消えて、マーシャさんは茫然としていた。

どれくらい入るかは試していないので自分でも知らない。

なので、持ちきれない場合は何回かに分割することで納得してもらったんだよ。

10回以内に運び終わればいいかな?

「なるほど、そういうわけなら大丈夫かもね」


でも、その前に何か食べたい。

「買い出し前だから、すぐに用意できるのは堅パンと塩スープだけしかないの」

それで十分。とりあえずお腹が膨れれば大丈夫なんだよ。


「食べてすぐで申し訳ないけど、夕食の準備まで時間がないの」

マーシャさんについて歩いていく。

まずは酒屋。酒樽がアイテムボックスに入るのはさっき試したから大丈夫。


「エールを6樽とワインを4樽」

言われるままにアイテムボックスにしまっていく。

酒樽を10個入れてもまだ大丈夫そうだ。

酒屋のおっちゃんもびっくりしてたけど、

以前にも収納系の魔法は見たことがあったらしい。

「お?嬢ちゃんスゲエな!収納魔法だろ?樽を10個も入れられるのか!」

まだまだ余裕っぽい。他のお店も回れそう。

「ずいぶん前に魔導師の爺さんが酒樽を入れてるのを見たが2個で限界だって言ってたぜ?」

そうなのか!?

私のアイテムボックスはすごいのか!?


そのまま八百屋に寄ることにした。

色々な野菜を麻袋ごと買っていく。

そして、それをアイテムボックスに詰めていく。

あれ?一袋だけ品質が良くない袋が混ざってる。

マーシャさん、このお芋痛んでるよ。

そう言って、芋の入った麻袋を取り出す。

「おお、悪い痛んでるのが混じってたか」

八百屋のおじさんが申し訳なさそうな顔をしている。

「どうしてわかったの?」

マーシャさんが不思議そうな顔をしている。


アイテムボックスが教えてくれるんだよ。

麻袋単位で品質ごとに分類してくれる。

でも、分かるのは麻袋単位なんだよね。

麻袋の中も全部鑑定するとなると、

袋から出してアイテムボックスに入れないとダメみたい。

「それでも十分よ」

そう言ってマーシャさんが頭を撫でてくれた。

野菜は麻袋で20袋ほどだった。


そのあとも小麦を数袋とお肉もたくさん買った。

結果的には全部アイテムボックスの中に入ったんだよ。

何回かに分ける予定だったけど、一回で全部の買い物が終わった。

マーシャさんもすごく感謝してくれた。

普段は荷馬車で運ぶ量なんだって、

荷馬車への積み込みや荷下ろしの時間もなかったから、

いつもよりも相当早く終わったみたい。

どうやら、最低でも荷馬車1台分くらいの荷物は持てるみたいだ。

これなら、荷物運びでそれなりに役に立つのでは?


宿屋に戻って、食品庫の中の指定された場所にそれぞれの食材を出す。

私の腕力じゃ、出したところから動かすことはできないから、

マーシャさんの指示通りの場所に出す。

物によっては出した後にマーシャさんが移動させたんだよ。


「はい、依頼達成の報告書よ」

報酬はギルドで報告書と交換でもらえるらしい。

採取は依頼書じゃなかったから、初めての依頼達成なんだよ。

よし、ギルドに行こう!


ギルドに戻ってグレイスさんに報告書を渡す。

依頼達成だと、評価ポイントが付くらしいので、

ギルドカードをグレイスさんに渡して更新してもらう。

グレイスさんから依頼の報酬とギルドカードを受け取って、

再び宿屋に戻る。今度は寝床の確保のために。


再び宿屋へ。さっきは依頼だから裏口からだったけど、

今度はお客さんとして、正面玄関から中に入るんだよ。

「いらっしゃいませー」

マーシャさんが出迎えてくれる。

「あら?お仕事はさっきので終わりよ?」

今度はお客として宿泊に来た旨を伝える。


「あらあら、それなら料金は1泊食事なしで銀貨3枚よ」

さっきの報酬が銀貨20枚だったから何日かは大丈夫だ。

1階が食堂というか酒場?宿泊は2階と3階らしい。

2階が1人用の個室で、3階はパーティー用の大部屋とのこと。

私は仲間がいないから個室にする。

2階は個室が10部屋。階段上って左側の奥から2番目。7号室。

しばらくの間はここが私の家になるわけだ。

これで、冒険者として生活する準備が整ったかな?


部屋に荷物(何もないけど、そういう気分)を置いて、

1階の酒場に。もう晩御飯の時間だから、

それなりにお客がいる。食事だけのお客もいるみたいなんだよ。

いい匂いがする。これってさっき私が買い出しを手伝った食材の料理だよね?

お肉の匂いかな?ジュウジュウ焼いてる音もする。これ食べたい。

羊肉の串焼きと、野菜のシチューを注文する。

「リーゼちゃんは子供だからエールじゃなくて果汁ね」

料理を頼むと堅パン1個とエールが1杯おまけらしい。

ちなみに、料理を何品頼んでも、おまけは最初の1品だけなんだって。


しばらくすると、料理がやってきた。

やっぱりこの串焼きの匂いだ。いただきまーす。

まずはシチュー。スプーンですくって口に運ぶ。美味しい。

煮込まれて柔らかくなった野菜も味が染みているし、

そもそもスープだけでも美味しい。

堅パンをシチューに浸すと、味もしみるし柔らかくなる。これも美味しい。

そして、お待ちかねの串焼き。まずは一切れ。

歯ごたえがあるけど、口の中一杯に美味しさが広がっていく。

噛めば噛むほど味が染み出てくる。頼んでよかった。

さすがに「肉と安らぎ亭」って言うだけあって、お肉がおいしいんだよ!


私はこれで十分だけど、他の冒険者は3倍以上食べて、

お酒もたくさん飲んでいる。

冒険者は体が資本だからね。


食事の代金を支払って部屋に戻る。

銅貨48枚だったけど、大満足。

お風呂はないので、体を拭くためのお湯をもらって汗を流す。

お湯は銅貨10枚だ。

宿泊費以外に朝や昼の食事の分を考えても、

一日に銀貨1枚くらいで収まりそう。食べる量は少ないし。

と言うことは、一日に銀貨4枚以上稼げば無限宿屋?

まずはそれを目指して頑張ろう。

今日みたいに荷物運びの依頼があれば楽だけど、

地道に薬草を採取するのが確実だよね。

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