第2章 ⑨
<宮本視点>
やってしまった、と俺は教室で日本史の授業を教えつつ内心後悔していた。背後から痛い程突き刺さる視線…恐らくは、いや確実に高瀬だろうものの視線を背中で感じながら、俺は先程の事について考える。
ーー最初から高瀬が嘘をついている事など分かっていた。というか寧ろ高瀬がこんな下手な嘘をついている事を驚きを隠せず、え?こんな嘘のつき方で大丈夫か…と逆に心配する程でもあった。
『…そうか。もう腹の具合は大丈夫なのか?』
ま、とりあえずは高瀬の話に合わせておくかと思い高瀬に声を掛けると、高瀬は困惑した表情をし小さく返事をした。…そりゃそうだろうよ。え?先生信じたのかよって感じだよな。
『そうか、ならいい』
再び俺は高瀬にそう言った。高瀬自身言いたくないのなら言わなくてもいいし、俺もそこまで気にしないから。…あんまり高頻度なら呼び出して説教するけどな。
『ありがとうございます…』
俺に対し高瀬が戸惑いつつも若干安心したように口にし、俺はひと息ついたあと高瀬を再び眺めふと高瀬の頭になにか付いてることに気付いた。それは多分桜の花びらで一体どこ行ってつけてきたんだよと呆れる。
『高瀬。頭になんか付いて……』
伝えるだけ伝えておこうかと思い俺はそう言いかけ、やめた。
(桜の花びら?)
今はもう5月の中旬で桜はもう完全に散っていた。現に俺は通勤中にすっかり花びらが散ってしまい青葉になった桜の木を何回も見ている。
…なんで今頃桜の花びらが?
『……いや、なんでもない。早く席つけよ』
少し疑問に思ったが、高瀬に変に思われないように静かに目を逸らし自分の席につくように促した。促された高瀬は戸惑いつつも自分の席へと歩いていった。そして、授業が再開して黒板にチョークで文字を書いている時、ふとある人物が話していた内容を思い出す。
それは、"桜の花びらは霊の残した跡"だという内容だった。
(マジかよ……)
まさかとは思うが、つまりはその桜の花びらが霊の残した跡ならそれは俺にしか見えないものであり、それを俺は気づかずに伝えようとした。
そして背中に今現在も突き刺さる視線は、その桜の花びらは確実に高瀬にも見えているという事の証であり、俺はやってしまったとますます後悔するばかりであった。
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