第2章 ⑤
それから誰かの耳に入ったのか、"屋上で幽霊が出る"と学校中にその話が広まり、怖がった生徒達はすっかり屋上に近寄らなくなってしまった。
「なー、屋上幽霊出るらしいぞ」
「あー聞いた聞いた!生徒が髪の長い女の霊に叩かれたって」
「俺は誰かに腕を掴まれたって聞いたぜ?怖えなあ」
俺が居る教室の前で生徒2人がそんな会話をしているのが聞こえ、息をつく。
(なんかありもしない内容の話がどんどん追加されていってる…)
「あれ、翔太今日は亮達んとこ行かねえの?」
噂って凄いな…とか思っていると、俺の近くの席で別クラスから遊びに来ていた信条と共に昼食を食べ始めていた河村が話しかけてきた。
俺は自分の席で弁当の卵焼きを箸でつまみながら口を開く。
「今日は亮も直哉も風邪で休みで居ないからな。陽貴も昼休み委員会の用事あって忙しいみたいだし」
「ふーん。風邪でも流行ってんのかねえ…、良真も熱出して休んでるし」
「…だろうなあ」
そう口にし、俺は弁当を食べ進める。
「……」
正直な所亮と直哉、それから陽貴には申し訳ないがこの状況は俺にとって好都合だった。ーー屋上に行けるから。
あの屋上の出来事があってからというもの、俺は屋上に行くのをやめていた。まあ必ずしも屋上に行かなければいけないということでもないのだが。
(でも、やっぱり屋上に行ってみたい)
その思いは日に日に増して行き、1日のどこかで行ける時がないのか?と考えるばかりで…。
だから、この機会は屋上へ行ける絶好のチャンスだった。
「ごちそうさま」
弁当を食べ終わり両手を合わせ挨拶したあと、俺は早々と弁当箱を片付けお茶を飲む。飲んだ後に席を立とうとした時、弁当を食べている河村がチラリとこちらを見て話しかけてきた。
「屋上にでも行くの」
「……トイレに」
河村の問いにごくりと息を飲んだ後そう返答すると嘘つけ、と呆れたように言葉を返された。
「えー、でも屋上って幽霊出るんだろ?なんか幽霊に叩かれたとか、腕を掴まれたとかで…」
すげー噂になってるよな、と信条がパンを食べながら話してくる。
「…怖くないから平気」
「あれー?翔太ってお化けとかダメなんじゃなかったっけ」
「大丈夫だよ!」
信条が笑いを堪えながら話しかけてくるので俺はきっ!と睨みつけたが、「おー、こわ」と対して気にもせずに笑ってかわされたのでため息を吐いた。
「…ほら、さっさと行かねえと昼休み終わっちまうぜ」
「…おう」
席を立ち教室の出入り口に向かう。教室を出る間際、河村に「なんかあったら電話して」とさらりと言われ俺は小さく頷いた後賑やかな教室を後にした。
*************
屋上へと続く階段をゆっくりと歩く。屋上の扉の前に着き俺は期待に胸を膨らませドアノブに手をかけ扉をゆっくり開けた。
(あれ、…)
扉の向こうに広がるのは前に見た時と同じ綺麗な青空と、端にある給水塔、床一面のコンクリート、フェンス。それから、
一瞬だが煙草の匂いがした気がした。
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