第2章 ④


 誰かに思い切り頭を叩かれたのか強い痛みを感じ、俺は飛び起き両手で頭を抱えた。



「…ぅう…、」



あまりの痛さに涙が出そうになるのを堪え、俯かせていた顔をあげる。頭を抱えたまま今し方俺の頭を叩いた人物を睨みつけようとした。



 「おいコラなにすんだ!頭どうにかなったらどうす……って、あれ?」



 顔を上げるも頭を叩いたであろう人物は居らず鎮まりかえっていて、頭を撫でながら俺は首を傾げる。



 「え、あれ?」



キョロキョロ辺りを見回すもやはり、誰も居ない。


(どういうことだ?誰かに叩かれたこと自体夢だったっていうのか…?はっ!それかもしかして…)



「ゆ、ゆうれい…」



そこまで口にしぞぞーっと悪寒がしてきたので両腕を摩った。おいおい、屋上に幽霊が出るとか聞いてないんだけど!?



 「こ、怖ぁー」



’’屋上に幽霊が居る"としばらく考える内に居心地が悪くなり、俺は何も言葉を発することなく立ち上がってそのままそそくさと屋上を後にした。

 屋上を扉を閉め階段を降りながら俺は未だ痛みが残る頭を撫でる。


 (叩いた幽霊?のせいでみた夢の内容すっかり忘れちまったし…。許せねえ)



叩いた幽霊と思われる何かに関して不思議と怖い感じはせず、代わりに腹ただしさだけが残ったのだった。




*************




「頭を叩かれたぁ?」



 学校が終わり亮、直哉、陽貴の4人で帰路へと着く。帰る途中スタバに寄って買ったスターバックスラテを飲みながら屋上であった出来事について話すと3人共驚いた表情をした。



「誰に?」


「分からねえ…。叩かれて起きたら誰も居なかった」


「えー、なにそれ。変なの」



亮が腕を組みながら不思議そうに首を傾げ、呟く。俺の話を黙って聞いていた直哉が口を開いた。



 「…それってさあ、もしかして幽霊が叩いたんじゃねーの」


 「ええっ!?」



直哉の発言に亮が驚きの声をあげ直哉の方を見る。直哉が面白そうに言葉を続けた。



 「誰も屋上に居なかったんだろ?」


「まあ、そうだけど…。やっぱそうなのかな」


「実際翔太が姿見てる訳じゃないから分かんないけどな」


「えー…、でももし翔太叩いたのが幽霊なら怖くてもう屋上近づけねえじゃんー」



北条先輩ももう居ないから気軽に屋上遊びに行けると思ったのに、と亮がむと唇を尖らせる。その様子を見ていた直哉が苦笑し宥めた。



 「北条先輩?」


「ああ、陽貴は先月転校してきたから知らないんだったな。屋上不良の北条先輩のお気に入りの場所でさー、ずっと屋上に居座ってたからなかなか近寄れなかった訳よ。んで、今年の3月で卒業したからやっと屋上行けると思ってたらね…。俺は今日行ったけど」



 そう陽貴に説明すると同じくカフェモカをストローで飲みながらなんとも気の毒そうな表情をした。



 「うわー…、それは残念だね」


「はあー、」



屋上に行くのを心底楽しみにしていたであろう亮はがっくりと肩を落とし、直哉も小さくため息を吐いた。



 「でも、これからはみんなで行ったら大丈夫だと思うぜ?幽霊も大人数だったら出てこないだろうし」



俺が3人に対しそう話すも、聞いていた陽貴が静かに口を開いた。



 「いや、人数は関係ないと思うよ…。それより、屋上にはもう近づかない方がいいかもね。現に翔太くん頭叩かれた訳だから、また何かされるかもしれない」


「えっ」



 陽貴がそんな事を言うので俺は驚きの声を出した。



 「で、でも…それだけだし」


「…翔太くん怪我がなくて済んだからよかったけど、このまま屋上に遊びに行ってたらこの先なにされるかわかんないよ?もしかしたら次は怪我をするかもしれないし、予防策はしっかり取っておいたほうがいいと俺は思う」


 「まー、陽貴の言う通りだな。なあ?亮」


「……ん、」

 


 陽貴の言葉に亮は渋々頷いた。今度は陽貴が俺に話しかける。



 「翔太くんも屋上に近づかないように。分かった?」


 「……はーい」



陽貴の言葉に納得がいかない部分もあったが、亮と同じく渋々頷くと見ていた陽貴が困ったように笑い俺の背中をぽんぽん軽く叩いた。



 (そりゃ、陽貴の言う事も分かる、けど)



それでも俺はまた屋上に行きたい。その思いを胸に秘めながらスターバックスラテが入ったカップのストローに再び口を付けた。

 


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