第2章 ③
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高瀬が眠りに落ちた少し後、屋上の床に寝転がり寝息を立てて休む高瀬の様子をある1人の人物が側に立ち見下ろしていた。
「……」
その人物はこの時代にしては珍しく淡い桃色の着物を見に纏い、左腰に刀を差していた。赤紫色の綺麗な瞳を静かに高瀬に向けている。
ふと、高瀬が身動ぎし「うう…」と声をだす。魘されているのか顔も少し険しく、少しの間その状態が続いた。そして高瀬の口がゆっくり開かれる。
「……忘れて、ごめん…」
切なげにその言葉が呟かれたが、その人物 ーー緋叶は全く気にも留めていないのか表情は変わらなかった。不意に緋叶が口を開いた。
「……だからお前ら人間は嫌いなんだ。俺たちが大切にしていたものを何もかも全て奪って、壊して、それでいてそうやってすぐ忘れてしまうから。…大事なことも」
柔らかい微風が高瀬の体をゆっくりと撫でていき、赤茶色の髪を揺らす。その光景を静かに見つめた後緋叶は体を屈めゆっくりと手を伸ばし高瀬に触れようとし、ふと手を止めた。
伸ばした手はそのままに緋叶は赤紫の瞳を静かに屋上の扉に向ける。少ししてその屋上の扉が小さく音を立て開いた。
「……」
緋叶の目が訝しげに細まった。扉を開け一歩踏み入って入ってきた焦茶色の髪の人物の正体は陽貴であった。
「…保健室に居ないと思ったら、……ここに居たんだな」
安心した様子でその言葉がぽつりと呟かれる。と、陽貴が顔をひくつかせ「ぶええっっくしっ!!」と盛大なくしゃみをしたので、緋叶は目をキョトンと丸くさせた。
「あー、もう。ここ花粉飛びすぎー、…まあ場所わかった事だしさっさと戻ろ」
高瀬が見つかったので安心したのか、そう言った陽貴はそそくさと屋上の扉をパタンと閉め帰っていった。
再び屋上を静かな時間が訪れる。どうやら陽貴には緋叶の姿が見えていないようで、緋叶はほっとひと息つき再び高瀬を眺める。
「ちっ」
未だに起きる気配のない高瀬に緋叶は苛立ちを覚えた。ーーどいつもこいつも警戒心がなさすぎる。ま、所詮人間なんてそんなもんか…と緋叶は心の中でため息を吐いた。
そして再び高瀬に手を伸ばし、頭を思いきり叩いた。
「いってえええっ!!?」
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