第45話 魔弾 ~Der Freischütz~
ソラは後に知ることとなるが、ロドリゲルはスキルはもちろん、身体能力強化……一切のダンジョンの恩恵を受けていない。
これは、彼がダンジョンに潜っていないわけでも、数多のモンスターとの戦闘を回避してきたわけでもない。
『
ダンジョンに見捨てられたアウトロー。孤独にして孤高の気高きワンダラー。
人の身の限界からほど遠い、現代における真なる人間。
彼は銃の腕1本で、超級のモンスターや
これまで使用した『
(最初に出会った『サイコ』、『ニコライ・ロマノフ』、『ペドロ・シモンズ』、『亡霊の騎士』、『ファイナル・デスソード』、そして『インターセプターⅤ8カスタム』……誰もが強敵だった)
だが、一部を除いてはいずれも心臓などを貫けば死ぬ者ばかりだった。
そして、彼は『
つまるところ、使い損だったわけである。
それでも構わなかった。
彼は、『信念』を持つ者達にこそ、この魔弾を装填したのだから。
◇
「……」
「……」
2人の怪物が、互いに銃を向けていた。
方やシングル・アクション・アーミー。方やソードオフ・ショットガン。
外さない距離、即死の照準、純粋なる殺意。
他の意思は介在しない、2人だけの領域が辺りを支配している。
もはや、誰にも止められない。
「……」
ロドリゲルはソラを観察した。
防御に何ら寄与しない衣服、頭部の
まるで、未知の古代人が現代に姿を現したような少女。
かつてサキュバスと戦ったこともあるが、ここまで美しさを感じるものではなかった。
天才彫刻家が生涯を執念と狂気に費やし、死の間際で完成させたといっても過言ではない美。
そんな者が、無骨なショットガンを構えている。あまりにもアンバランスで、不思議と様になっていた。
「……!」
ソラが引き金に手をかけた。
ロドリゲルには、それがスローモーションに見えていた。
何のことはない。死を間近にした脳内物質の過剰分泌による極限集中状態である。
絶対的強者による殺意。ロドリゲルはいつもそれに恐怖し、そして乗り越えてきた。
「ッ――」
初めて銃を撃つ。だというのに、背中に鉄棒でも入っているのかと言いたくなるほど真っ直ぐな体幹。
ショットガンらしく反動も大きいというのに、反動もブレもない。驚異的な筋力でそれを押し殺しているのだ。
空恐ろしい怪物だ。
だが、反応……いや、経験の差からロドリゲルがわずかに早かった。
ソラが引き金を引ききる直前、彼は射線から外れたのだ。
ガァン!
爆発音にも近い豪快な銃声を立て、モンスターでも容易く屠る散弾が発射された。
この弾丸はロドリゲルも愛用する『アンチ・モンスター・バレット』、通称『AM弾』の散弾版。人間に向けるものではないが、しかし彼はあえてそれを彼女に託した。
互いに必殺の弾丸を持つ状況こそが、決闘において何よりも重要だからだ。
「!」
あのソードオフ・ショットガンは水平二連式とはいえ単発式。
しかし、ロドリゲルのSAAも最大装填数は6発だが、今は『銀の弾丸』1発のみ。
そう、互いにたった1発で、勝負がつくという確信があった。
ロドリゲルにも、ソラにも。
バァン!
今、想いを乗せて『銀の弾丸』が放たれた。
それは魔弾の7発目なのか。
「――」
弾丸はソラの容易く心臓を貫く……ことはなく。
「ッ!」
「!」
ソラは左腕のみを硬化させ、『銀の弾丸』を
だが、その代償はあまりにも大きい。必殺の魔弾はソラの左腕を容赦なく崩壊させ、塵へと変える。
対象を確実に死滅させる強力なエネルギーが、そのまま左腕に集中したのだ。
しかし、ソラはその程度では止まらない。
左腕が崩れきる前に、ショットガンのバレルに掴んだ『銀の弾丸』を叩き込んだ。
『銀の弾丸』はいかなる銃の規格にも適応する。
「――ッ!!!」
8発目の魔弾の発射。
戯曲にはない禁断の即興演技。
「――」
果たしてそれは、ロドリゲルの心臓を貫いた。
祝福の花吹雪のように鮮血を吹き出し、倒れ伏す直前に彼は言う。
「ようこそ……『男の世界』へ……」
決闘に生きた男は、決闘で死んだ。
これは、死にゆく者よりの敬礼。幸運の祈りである。
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