第44話 とあるS級探索者の誕生
ロドリゲル・ジョーはかつて、アメリカのテキサス州にある、ダンジョン化した鉱山で働く『鉱夫』と呼ばれる労働者だった。
寡黙だったが、仕事が終われば仲間と静かに酒を飲みかわし、大衆向けの飯を食う。そんな生活が続くと、彼と同僚達は思っていた。
「今日はいつにも増して暑いな。そろそろ休憩するか」
「そうしよう……」
いつものように、ロドリゲルも含めて仲の良い同僚5人と一緒に仕事の合間に休憩している時の事だった。
同僚の1人が、良いものを見せてやると言い、とあるものを懐から取り出した。
「じゃァ~ん。これ、何だと思う?」
「少なくともランチには見えねぇなぁって、おいおいマジかよ」
「ラリー、まぁたそんなもん仕事場に持ってきやがって。今度ばかりは遊びじゃ済まねぇぞ?」
ラリーと呼ばれた男が取り出したのは、拳銃だった。
シングル・アクション・アーミー……SAA、『ピースメーカー』と呼ばれるリボルバーだ。
どう考えても仕事場に持ち込むものではない。
「へっ、ここの主任はアホでノロマだぜ。気づきやしないさ」
「腹が立つのは分かるが、流石によした方が……」
「お前らだってムカついてんだろ? あのアホの間抜け面にコイツを一発ブチ込んでやりたいってな!」
そう言われると、一同は黙ってしまった。
偉そうにふんぞり返るだけにとどまらず、給料のピンハネや何かにつけて罵声を浴びせかけてくる主任に怒りを抱いていたのだ。
「ロディ、お前もそう思うだろ?」
「ああ……」
話を振られたロドリゲルはそう答えたが、内心はそこまでではなかった。
いや、主任に全く興味がなく、無関心だったと言った方が良いだろう。だが、ラリーの言い分は理解していた。
「……奴が来たぞ、隠せ」
「うおっ、ヤッベ」
ロドリゲルが足音に気づき、ラリーに教えた。
また嫌な顔を見るはめになると、その場の誰もが思っていた時だった。
「良い鉱山だァ……特に洞窟が良い」
「な!?」
やってきたのは、真ん中にライトがついた、工事用のヘルメットをかぶった見知らぬ男だった。
それだけなら、彼らも新人なのかと上に確認を取っただろう。
だが、その男は異様だった。
「うっ……! た、助けてく――」
「あれ? ここも洞窟か?」
「あぎゃ」
持っているツルハシの先に、主任を引っかけていた。
肩口に深く突き刺したまま、ここまで引きずってきたのである。
そして、主任が何かを言おうとした途端、そのまま無理やり引き裂いてしまった。
「ヒ……な、何だお前!?」
「あ、モンスター。殺さなきゃ」
「やめ――」
男が懐から取り出した、玩具のような銃。
それを向けられた同僚は、頭が爆ぜて死んだ。
「うわああああ!!!」
「ラリーよせ!」
恐慌状態に陥ったラリーが銃を向ける。
「死ね――」
「モンスターか?」
「えぇぇぇぇ……?」
だが、玩具のような銃から放たれた光線により、胴体が上下に泣き別れした。
「あ、あわわ――」
「殺さなきゃ」
「あ――」
残る2人も、光線銃で打ち抜かれて即死した。
ものの十数秒間の出来事だった。これには、ロドリゲルも次は自分の番であると覚悟を決めた。
(すまないジョゼフ、ダッチ、ラリー、ネイト……仇は、取ってやれそうにもない)
男の凄まじい反射神経と怪力、悪夢のような兵器を見れば、自分に勝ち目がないことなど分かっていた。
そして、男がロドリゲルに光線銃を向け――
カチッ、カチッ
『エネルギー0パーセント。再装填まであと60秒』
「あ、エネルギー切れ。再装填まで1分か」
男が持つ光線銃が、一時的に機能を停止した。
「!」
ロドリゲルはその隙をつき、ラリーの握っていたSAAを拾い上げた。
弾倉を確認する……弾は入っていなかった。
「おおっと、これはヤバいかも」
ヤバいのはこちらだと、ロドリゲルは思った。
弾がなくては、如何なる名銃もただの鉄塊である。
そう考えた時、ロドリゲルはあることを思い出し、ポケットからとあるものを取り出した。
「
ロドリゲルが取り出したのは、銀色の弾丸だった。
「……使えるのか」
ある日のことだった。いつものように鉱山で働いていた時。
ピッケルで壁を掘削していたら、ポロリと壁からこの弾丸が落ちてきたのだ。
昔、この場所で銃撃戦でもあった名残だろうと気にしていなかったのだが、不思議なことにまだ使えるようだった。
リボルバーに弾を込め、男に向ける。まだ再装填は終わっていないようだった。
しかし、ロドリゲルは恐怖している。わずかに、そう。わずかにリボルバーが震えている。
「どうする? 殺すか? いいさ、死ぬのには慣れてる。また同じことの繰り返しさ」
「いや……お前の装填が終わるまで待つ。早撃ち……しくじった方が死ぬ」
「……へぇ? モンスターのくせにフェアだなぁ。恐怖も感じてるみたいだし」
自分でも何故そんなことを言ったのか不思議だった。
だが、仲間達はわけも分からないまま殺された。まったく『公正』ではない条件で。
殺し合いに公正を持ち込む愚かさは理解できるが、フェアな条件で目の前の男に打ち勝てないと、仲間が浮かばれない気がした。ロドリゲルは無意識にそう思っていた。
そして、『そうしなければならない』という強い義務感を抱いていたのだ。
『エネルギー再装填まで10秒前、9、8……』
「……」
「……」
お互いが狙い合う。
片やダンジョンから出土したアーティファクト、片や骨董品のリボルバー。
光速、音速。
何も、公正ではない。
だが、ロドリゲルの震えはいつの間にか止まっていた。
『3、2、1、装填完了』
「!」
「!」
射撃は同時だった。
しかし、質量を持たない光線の方がはるかに速い。
「ッ……」
「ふふふ……どうやら、勝負ありみたいだ」
男の口元が歪む。ロドリゲルが片膝をついた。
この性能差も経験も全てが違う勝負が成り立たせるのは、土台無理な話。
倒れたのは――
「私の負けだ……」
男の方。
光線は、わずかにロドリゲルの頬を掠めただけに過ぎなかった。
対して、男の心臓部には穴が開いている。勝負はあった。
「何故、負けた?」
「恐怖だ……俺は恐怖していたが……『覚悟』は決まっていた。だがお前は俺に銃を向けられた時、明確に恐怖していた」
そう、男はロドリゲルに銃を向けられた時、光線銃を撃つ直前まで震えていたのだ。
「そう、か……ああ……また繰り返すのか……生き返るのか……」
「いや……お前はもうじき死ぬ。
「ああ……そうか、ありがとう……ありがとう……」
男は涙を流しながら、安らかに息を引き取った。
仲間を殺されたことに思う所が無いというと嘘だった。だからこそ、これはロドリゲルなりの『慈悲』であり『殺意』だった。
「……」
この時、彼は
復讐や善悪などの不純物を排し、超越した精神性で行われる
「……ありがとうございました」
彼は頭を下げた。
世話になった友人達に、決闘の道を示してくれた男に。そして、決闘の果てにある自分の死に。
「鉱夫のロドリゲル・ジョーは死に、ここにガンマンとしてのロドリゲル・ジョーが誕生した」
それから警察や協会の事情聴取が終わり『鉱山』を出た彼は、探索者となった。
その手に『ピースメーカー』を携えて。
――――――――――
【鉱山】
・ダンジョン化した山のこと。
モンスターは出現せず、鉱山資源だけが採掘できる。
通常のダンジョンとは違い、内部では大型の機械が機能しなくなる。そのため、ピッケルやダイナマイト、小型の掘削機くらいでしか採掘できない。
この『鉱山』で働く者は『鉱夫』、あるいは『炭鉱夫』と呼ばれ、過酷な肉体労働者であることが知られている。
また、その業務は現在、民間企業の手で行われており、待遇や給与なども会社による。中には給与が労働に見合わないこともあり、近年それが問題視されている。
【『探検家』】
・B級探索者。
基本的にモンスターとの戦闘を行わずにダンジョンを探検し、マッピングや情報、資源を持ち帰ることからそう呼ばれていた。
しかし、スキルのデメリットによって発狂。『ダンジョン・サイコシス』を発症し、『鉱山』の労働者を襲撃した。
――死は冷たく恐ろしいものだ。想像してくれ、たかが少しの段差でつまずいただけで、身体が急速に冷え、動かなくなるんだ。そして意識も……教えてくれ。次に目覚めた私は、それまでの『私』なのか?
【スキル】
・【リスポーン】:死んでも生き返るという超強力スキル。しかし、死の恐怖も痛みも克服できるわけではない。同一性の担保は無し。
・【一撃死】:絶対に一撃で死ぬ。【リスポーン】にもれなくついてくるデメリットスキル。
・【探知】:モンスターやアイテムを探知できる。
・【採掘】:鉱石を採掘する技術。
・【調査】:調査の技術。
・【銃器】:銃器の扱い。彼の場合は光線銃。
【装備】
・光線銃:アーティファクト。強力だが、数回撃つとエネルギーの再装填が必要。無限に使える。
・ヘルメット:ライトとカメラがついている。
・バックパック:実はマジックバッグ。
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