第17話 ビッグジャンクフーズ


 今回、食べ物系のモンスターを粗末にする描写があります。

 食べ物を粗末にする描写が苦手な方はご注意ください。


 ――――――――――



 「死ねぇっ!」

 『ば、バーガァァァァ』


 ミスターガーバーINバイトテロリストの背骨を蹴り砕く。

 バイトテロの身体能力は普通の人間並みでしかないが、逆に言うと一般人ができることは大体できるのだ。

 今死んだ奴も包丁を持っていた。生身なら大ダメージだが、気を付ければウチには効かない。


 しかし万が一のリスクもあるので、刺される前にさっさと終わらせた方がいいだろう。


 「数は多いが……個々の力がカスやわ」

 『ギュギョ~!?』

 『エゲエエエエ!?』


 複数の寄生されたバイトテロを、触手でまとめて絞め殺す。

 自在に動く、めちゃくちゃ太い(ウチの太ももより一回りは太い)触手で首を絞められると、人間は死んでしまうのだ。

 さて、こっちは大丈夫だが、向こうは……


 「シィッ!」

 『アバ……?』


 虎の穴の見事な剣術だった。

 バイトテロの攻撃を紙一重かみひとえかわすかガードし、隙をついて首を斬る。

 寄生したことで生命活動を完全にバイトテロに依存していたピザモンスターは、その場で死に絶えた。


 さらに凄いのは、それを幾度いくどとなく繰り返していることだろう。

 まるで、時代劇で見る殺陣たてのようでもあった。


 「お見事にございまする」

 「シャシャァ……」

 「いやぁそれほどでもっ!」


 実際、見事なのは確かだ。

 性欲を抑えるためにストイックに磨き上げてきた剣技とのことだが、素人目に見てもすでに達人の域に達していると思う。


 「ジャアアアアッ!」


 ドンが敵の群れへ突っ込む。

 尻尾の一撃や、噛みつきでバイトテロやガーバー達が致命傷を負っている。

 そして、ドンはペッとバイトテロの肉を吐き捨てた。人肉は食わないのか……? いや、そもそも人肉なのか?


 「減ったなぁ。なあ、腹減らねぇ?」

 「まあ、多少は減ります」


 迫りくるモンスターを迎撃していると、もう大分数が減って来た。というか、もう最後の1匹だ。


 「ふんっ」

 『アギャッ』


 最後のバイトテロを殺す。

 辺りを見ると、未開風のバーガーやピザ、そしてバイトテロの血肉だらけだ。

 その内のいくつかは踏み潰されていたが、ほとんど無事だった。


 「よし、拾うでー」

 「ピザ! バーガー! デブの神器だぜ!」


 ブロワーマンは痩せていた。

 皆で拾い集め、ドンにくくり付けられたレンタル品のマジックバッグに放り込む。

 総数はかなりの量になり、ギルドから依頼された量はゆうに超えていた。そろそろ、バッグがパンパンになってしまう。


 「これで依頼達成とちゃう?」

 「うん。十分だよ! 皆、本当にありがとう!」

 「ええんやで」


 報酬は山分けするという約束だし、ウチから言うことは何もない。

 それに、これでC級への道へ近づいたのだ。ウチも本当にあと少しでC級になれる。


 「そういや、虎の穴くんは何で早くC級になりたいんだ? 自分のペースでもいいと思うんだが」

 「それはですねぇ……」


 虎の穴が、答えようとした時だった。


 『バァァァァガァァァァ……』

 『ピィィィィッッッツァァァァァ……』

 「な、なんや!? なんやアイツら!?」

 「ああデカすぎる。逆に食われちまうよ」


 キッチンを押しのけてやってきた、大きなハンバーガーとピザ。

 今までとは桁違いの大きさで、十数メートルはありそうだった。


 「アレ倒せるか?」

 「どう見てもボスっぽいよね……逃げるのは諦めた方が」

 「お前ら落ち着け。奴らは『ビッグバーガー』と『ビッグピザ』。そこまで強くはないから、注意してれば倒せる……って聞いたことがある」

 「ほぉ? 見かけ倒しか?」

 「とはいえ、具材での攻撃は脅威だから気をつけろ!」


 ビッグなジャンクフード共が、ウチらに襲いかかる!




 ◇




 『バァァァァガァァァァ……』

 『ピィィィィッッッツァァァァァ……』

 「おおっ!? いきなりやってくれるやんけ!」


 ビッグバーガーとビッグピザは、自分の具材を撃ち出してきた。

 パテやピクルス、サラミやトマトソースなどを容赦なく発射する、まさに身を削った攻撃だった。


 「わわっ! ど、どうするの!?」

 「守りが硬そうなハンバーガーはウチ1人でやる! ピザは任せた!」

 「おう! 任せときな!」

 「ジャアッ!!!」


 2人に反して虎の穴は不安そうだったが、諦めたようにピザへ向かっていった。

 向こうは大丈夫だろう。ウチはハンバーガーを睨みつけた。


 「デカブツが、ウチが相手んなったるッ!」

 『バァァァァガァァァァ……』


 バンズにレタス、トマトにアボカド……高速で具材を飛ばすビッグバーガーだが、ウチはそれをジャンプすることで回避する。

 大きい上に多いが、弾速はまあまあ遅い。今のウチならば、余裕を持って避けられる……


 「がッ!?」


 という見込みは甘かった。

 バーガーは、具材の真後ろへさらに具材を飛ばすことで、わずかにタイミングをずらしてきたのだ。

 ウチはそれにまんまと引っかかり、肉厚でジューシーなパテが腹に直撃し、壁まで叩きつけられた。


 「諸星さん!?」

 「ぐっふ……硬化せんとヤバかったかも……まだ大丈夫や! そっち集中しろ!」


 目の前のパテをつまみ食いつつ、なんとかどかして壁際から抜け出す。

 だが、そこで背中あたりにわずかな違和感を覚えた。


 「……ん? これは?」


 壁が壊れている。その先はどうやら別の部屋になっており、壁によって隠されていたようだ。

 こいつらを倒したら調べてみよう。


 「まずはお前やな! はぁッ!!!」

 『バガッ……』


 ウチは【触手】を伸ばす。今のところ、10メートルくらいは伸びるこのスキルでバーガーに掴みかかり、一気に肉薄する。そして、バーガーの上に乗ることに成功した。ここならば具材は飛ばせない。

 うろたえているようなバーガーを、【触手】によって拘束した。あとはウチのおやつや。


 「死ぬまで食ったる!」

 『ば……バァァァァガァァァァ……ッッッ』


 具材攻撃が全く届かない位置から、足を硬化させることで貫通し、バーガーの内部を荒らす。

 その上、【触手】の拘束してる側も地味に硬化しているので、ビッグバーガーの表面がズタズタになっていく。


 やがて具材の全部がダメになった辺り、ビッグバーガーは沈黙した。攻撃に使う割には弱点なのか……

 バーガーの死体が消え去るのを確認すると、ピザの方を見た。


 「ピザは……大丈夫そうやな」


 同格っぽいバーガーがウチ1人にやられたのに、ピザが3人に勝てるわけがない。

 風を自在に操るブロワーマンのサポートもあって、動けないピザは、ドンと虎の穴になすすべなく斬り裂かれて消滅した。


 「くぅ~疲れました、これにて討伐完了です!」

 「ジャアッ」

 「な、何とか勝てた……」


 アホみたいにはしゃいでいるドンとブロワーマン。

 虎の穴は疲れているようだ。まあ、即興のパーティーで無理やり連携を取ったようなものだし、気疲れもあるだろう。


 「おぉ……デカいハンバーガーやな。誰が食うんやろ」


 足元に転がっている、『超巨大な未開封のバーガー』。

 恐らく、未開封のバーガーの上位互換みたいなアイテムだと思う。

 使わないし、皆が良ければ協会に売っ払ってもいい。


 「ドン、ちょっと失礼するね」

 「シャア」


 虎の穴も同じく、『超巨大な未開封のピザ』をマジックバッグに入れている。


 「ありゃ? この袋、若干だけど膨らんできてね?」

 「本当だ、どうしよう。もうバーガーもピザも十分だし、一旦帰る?」


 レンタル品だが容量がそれなりでしないので、この2つを入れたらもうそろそろ限界に近いのだろう。

 一度帰るのも手なのだが、ウチは気になったことを口にした。


 「あー、それやがな。ウチ、さっきぶっ飛ばされたやろ?」

 「どこか怪我したの!?」

 「いや! してない、見ての通りや。んで、激突した壁のとこあるやろ?」


 心配してくれる虎の穴をよそに、ウチは壁を指さす。

 そこには、まあまあの大きさの穴が開いていた。


 「あっこに何か、未知のエリアがあるっぽいで」

 「『未探索領域』か!」

 「せや! つまり、あそこを探索して協会に情報持ってったら、結構な額が貰えるで〜」

 「でも、危険じゃない?」

 「ちょっと覗くだけやったら大丈夫やろ」

 「すげえ死亡フラグだぁ」


 いや、確かにこんなセリフやと速攻で全滅しそうやけども。


 「まあ、言い出しっぺのウチが最初に行くから。もしウチが戻って来んかったら戻れ」

 「えぇ……気を付けて?」

 「おう」


 ウチは、壁の穴に入っていく。

 そこは、今までの厨房などとは全く違う場所だった。


 「何や、けったいな場所やなぁ」


 実験室というのが相応しい、様々な器具の並ぶ部屋。

 厨房に隠されるように併設されているが、一体ここで何をしていたのやら……いや、ダンジョン化の影響でおかしくなったとも考えられるが。


 「おーい、大丈夫かー」

 「大丈夫や! 今んとこ何もおらん!」

 「じゃあ大丈夫だな! 行くぞぉ!」

 「ジャアッ!」

 「えぇっ!?」


 穴を無理やり広げ、3人が入ってきた。

 3人も辺りをキョロキョロと見回し、この場所の異常さを感じ取っているようだ。 


 「何だこの場所」

 「研究所みたいだね」


 ブロワーマンは器具や資料やらをおもむろに手に取り、マジックバッグに入れている。

 めちゃくちゃナチュラルに盗んでいるが、ダンジョンとゲーム以外でやっていないことを祈るばかりである。


 「ありゃ何だ?」

 「おん? あれは……デカい、タンクか? SFに出てきそうやな」

 「培養槽ばいようそうとか、そんな感じ?」

 「せやな。何か中に入ってるし……」


 ガラスで作られた、縦長で中にメトロイドとか入ってそうな装置。

 その中には、緑色の液体と共に何かがうごめいていた。


 「なになに……『合成』……読めねぇ。『30号‐H・M型』ってとこは読めるが。あれか? ハンバーガーとかピザか?」

 「かもしれへんな……!? 離れろッ!」


 プレートに刻まれた文字を読み上げた途端、ガラスに蜘蛛の巣のようなひびが入る。

 やがて異臭のする液体が漏れ出し……ガラスがぜた。


 『バァァァァピザァァァァガァァァァ……ッッッ!!!』

 「な、何やコイツはぁッ!?」


 中から出てきたのは、先ほどのミスターガーバーやピザモンスターよりもなおおぞましい……食品にあるまじき色の光を放つ、グロテスク極まりないハンバーガーとピザの複合体だった。


 おおよそ生物が食すべきではない、生理的嫌悪をもよおす異臭と輝きを放つ、狂気の産業廃棄物。

 この世に存在する全ての食物に対する愚弄と冒涜ぼうとくに満ちた、あまりにも傲慢ごうまんが過ぎる人のごう

 これを生み出した者はその歪みに歪んだ生涯において、生物にとっての食べ物というものを一切見たことすら無いと断言できる。


 食品偽装、産地偽装、異物混入、食品衛生法違反……

 大手のチェーン店に隠された、濃縮された特級のどす黒い『闇』がそこにあった。


 『ザァァァァガァァァァッッッ!!!』

 「ヤバイぞ! 来るッ!」


 ウチらは、そんな怪物を迎え撃つ……!




――――――――――




『Tips』


 【未探索領域】

 ・発見されているダンジョン内部の、まだ発見・探索の行われていない場所のこと。

 建造物がダンジョン化すると、部屋などが増えることがよくある。



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