第16話 実力派男の娘、虎の穴マコト


 虎の穴の装備は、まあまあ軽装な部類だ。しかし、実用性というよりは、デザイン性が重視されているようにも見える。


 特に手の甲、首元(喉仏のどぼとけ)、肩幅、胸、腰などを可愛らしく巧妙に隠し、性別を意図的に誤魔化ごまかすようなデザインだった。

 元となった装備自体は専門店とはいえ市販のものだが、細かい部分が違うのでオーダーメイドなのだろうか。


 「やぁっ!」


 そんな見た目は美少女、中身は雄な虎の穴が得意とするのは、刀である。

 虎の穴はこう見えて、剣術や空手の有段者だ。なので最初から【剣術】や【格闘】のスキル持っていたらしい。

 剣道じゃなくて剣術だ。絶対強い。


 「やるなぁ。『ミスターガーバー』が一撃で両断されるとは」


 エントランスに入った瞬間、ハンバーガーから手足が生えたようなモンスター『ミスターガーバー』が襲いかかって来た。

 しかし、彼は虎の穴に一刀両断とばかりに真っ二つに斬殺された。


 「ボクってこう見えても免許皆伝めんきょかいでんなんだよね」

 「空手も黒帯やろ? その年でようやるわ」

 「良かったら今度教えてあげようか?」

 「気持ちはうれしいわ。けど、ウチのスキルは近接武器の装備が不可能なんや」

 「それそんなデメリット重いの!?」


 虎の穴はやたらとストイックだし、武術の才能があったのだろう。

 ウチの喧嘩殺法とはえらい違いだ。比べるのがおこがましい。教えてほいいくらいだが、正直なところ、今から覚えても付け焼刃な気がする。


 「そりゃもうアホみたいに重い。けど、まともに命中して殺せんかった奴は今のとこおらん」

 「へぇ! 相応のメリットはあるんだね。というか無いとだよね」

 「そういうことや……お、今度は団体さんが来おったで」


 『ミスターガーバー』は『ガーバーバーガー』のマスコットキャラクターがモンスターと化したものである。

 彼らは倒すと『未開封のハンバーガー』を落とすが、それだけが特徴ではない。


 「え、あれホンマにミスターガーバーか? キショくない?」

 「あれもミスターガーバーだよ。ガーバーは色んなバリエーションがあるんだ」


 現れたのは、ハンバーガーをドロドロのグチャグチャにして、無理やり人型に押し込めたような気色悪い化け物の集団だった。

 オブラートに包んでもゲロみたいな色をしている、料理にあるまじき食欲の失せる産業廃棄物みたいな外見だが、これもミスターガーバーらしい。


 そう、彼らは非常にバリエーション豊かな見た目をしているのだ。


 『ギョファファファファファ!!! バーガー! バーガァァァァ!!!』

 「キショい奴らやなぁ!? これでも食らえや!」

 『ガバッ!?』


 妙に甲高い声で笑うガーバーの1匹を触手で拘束する。

 そして【シン・硬化】で触手を硬化させ、一気に締め付けて潰した。ミスターガーバーは中身の具材が無惨に飛び散り、活動を停止した。


 「どう見てもモンスター側のやり口じゃないか」

 「クラーケンに絞め殺された探索者は多いと聞く」


 口を動かしつつ、手も動かしてモンスターを倒していく。倒したガーバー達は消滅して、『未開封のバーガー』を落とす。

 この『未開封のバーガー』は、開封しない限りいくらでも保存のきく、ダンジョン特有の謎アイテムである。

 食べると疲労を軽減できるし、非常に美味しい。


 「ジャアアアア!!」

 『バガーッ!?』


 邪悪なサウナーとの一戦でより強くなったドンは、体当りや尻尾でミスターガーバーをほふっていく。

 元から大きかったが、今はさらにたくましくなったように見える……いや、明らかに太く大きくなっている。育ち盛りなのだろうか。


 「うぉ~ほっほ、バーガーが大量だァ~」

 「ジャア!」

 「お前も食うか?」

 「ジャア……」

 「食わないのか……まあ好みは人それぞれだしな!」


 そのドンは、ブロワーマンとたわむれている。

 いぶし銀なドンとお調子者なブロワーマンだが、意外と気は合うようだ。


 「何や、虎の穴が苦戦するほどの奴おらんやんけ」

 「ここにはね。向こうの方にわんさかいるよ」


 食べ物の見た目をしている癖に歯ごたえのないモンスターだと思っていたが、虎の穴は奥の扉を指差していた。

 そこは恐らく、場所からして厨房だろう。ちょうど、ガーバーとザッツピザの店の境目さかいめに存在している。


 「よし、目標は調理室だ! 皆行ってみYO!」

 「ジャアッ」

 「元気なぁ、自分ら」


 ブロワーマンが突撃……せずにドアの横に立ち、中をそっと覗いた。ウチも続いて中を覗き込む。

 中の厨房は、めちゃくちゃ広かった。特に天井が高く、キッチンが普通のサイズであることを考えると、物凄い違和感があった。

 そして、その厨房の天井付近には……


 「ピザ?」

 「ピザだぁ」


 大量のピザが浮いていた。奴らは『ピザモンスター』。ミスターガーバーと同じく、マスコットキャラクターである。

 そして、その下では人間型モンスター『バイトテロリスト』達が、頭部をピザモンスターに寄生され機械的にただひたすらピザを生産し続けていた。

 そのピザはまた、ピザモンスターへと変わっていく……


 「なるほどな、あのピザモン共が高く飛んでるせいで、剣が届かんのか」

 「そうなんだよ。それにああやって頭に寄生されたら操られちゃうし、バイトテロは襲ってくるし。ソロの剣士泣かせでやんなっちゃうよ」


 要するに、攻撃の届かない安全圏からの多勢に無勢……剣士じゃなくても勝てなくないか?

 まあ、今回は浮いてる敵にめっぽう強い奴を連れてきたからよかったけど。


 「皆、やっちゃっていいスか~?」

 「いいよ、準備はできてる」

 「ウチもや」

 「ジャア!」

 「よーし! 浮いてる敵はオレのカモネギみたいなもんだぜ! 食らえ気流!」


 ブロワー(【合体】スキルで2つのブロワーを合体させている)から、通常のブロワーをはるかに超えた風が巻き起こる。

 この強力な風と、スキル【風の祝福エアロブレス】の合わせ技で起きた気流がピザモンを叩き落とした。


 「今や全部殺せー!」

 「おおおおっ!」


 地に落ちたキモイピザモン共を叩きのめす。

 気流がある間は大丈夫だが、早くしないとブロワーマンが持つか分からない。

 ピザモンを足蹴にすると消え去り、『未開封のピザ』を落とした。


 「衛生的に大丈夫なんか……おおっと」

 『オオオオ! ピザノ敵ッ! 殺ス!!!』

 「何やぁ、ピザ如きに操られる雑魚がいきがってんとちゃうわ!」


 ピザモンスターに寄生された、バイトテロリスト達がピザを守らんと襲いかかって来る。

 頭部が寄生されている以外は、本当に人間に見えるほどだ。しかし、邪悪なサウナーには及ばずとも、その身にまとった禍々しい雰囲気が人間ではないことを物語っていた。


 「ドン、虎の穴! ピザは任せたで!」

 「オッケー!」

 「ジャア!」

 「オラオラァ! ウチが相手やッ!!!」

 『ギャアアアア!?』


 頭部への回し蹴りをすると、寄生バイトテロはまともに対応できずに首をへし折られた。

 ウチの体格やとかなり隙が大きいが、探索者として強化された身体能力が破壊力とスピードをもたらしたのだ。


 「お前はこっちや!」

 『ゲエエエエ!?』


 遠くにいた奴を、触手で引き寄せて首をへし折る。

 手ごたえは恐らく人間のものと同じ。人間にしか見えないが、中身はモンスターだと割り切る。。


 「おっと、まだ浮いてる奴おるやん」


 触手は2本ある。伸縮性も凄いので、浮いてる敵も掴めてしまうのだ。

 見た目は酷いが、便利さはこれ以上ないスキルだ。取って良かったと思う。


 「おーい! 向こうからピザのおかわりとハンバーガーのオーダーが来たぜ!」

 「!」


 ブロワーマンの言葉に反応すた先には、また大量のピザモンと、同じく浮くタイプのガーバー。

 どうやら、ここ最近は探索者が来なかったせいか、モンスターが溜まっていたのかもしれない。


 「こいつは好都合や! 文字通り入れ食い状態やで! 気張れやお前ら!」

 「ジャアアアア!」

 「そろそろピザを食べないと死ぬぜ!」

 「あ、あはは……すっごい気合だね……」



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