第13話 あれ、髪型変えた?
「ほぉ? あいつの置き土産かいな」
邪悪なサウナーの死体が消え去った後には、3つのスキルジュエルが残されていた。まあ、死にかけたのだ。これくらいのご褒美がなければやってられない。
しかも、ちょうど3つ。ウチとドンとブロワーマンで山分けできる。
「ドン、ブロワーマン、大丈夫か?」
「ジャア」
「ああ、何とかな……」
ドンもブロワーマンも、ヘロヘロである。
それもそうだ。あのクソ強いサウナーにやられたり、サウナの熱にさらされているのだ。
「もう出よ。流石に暑いわ」
「おう。あ、水風呂入る時はちゃんと汗を流してからな」
「分かっとる。連戦は無理や」
スキルジュエルを拾ったウチらは、サウナを出た。サウナの外の温泉は、結構な温度だろうに涼しく感じる。
ウチらは汗を流した後、水風呂に浸かり、外気浴までしてまた温泉内に戻って来た。
「戦利品はこれや。ウチら3人で山分けするで」
「スキルジュエル!? マジかよ! 太っ腹すぎる……」
「ジャア?」
「ドンはまだスキル持ってないんちゃうか? まあええわ。で、入ってるスキルは……」
ジュエルを持って集中する。
中に入っていたスキルは、それぞれ【合体】、【環境適応】、【触手】というものだった。
「ほう。まずは【合体】からやな」
【合体】
・物や生物と合体できる。しかし、より多くの物や生物と合体するには練度が必要。
合体の解除は基本的に任意だが、大きな損傷を負った際は強制的に解除される可能性がある。
「おっおおーっ!」
「え、えらい興奮してんなぁ。欲しいんか?」
「ああ! 何なら金払ってでも欲しい! これがありゃ、オレの夢に一歩、いや100歩くらい近づく!」
「そ、そうか。ドンもええか? ブロワーマンにくれてやっても」
「シャア!」
「ん? ドンはこっちが欲しいんか?」
【環境適応】
・寒冷地や熱帯など、あらゆる環境に適応することができる。鍛えると極限環境でも生存できるようになる。
「なるほど、爬虫類にはうってつけの能力や。特に絶滅危惧種のコモドドラゴンにはな」
「シャア!」
「最強生物が爆誕しちまうぜ」
「っちゅうことは、ウチがこれやな」
【触手(パッシブ)】
・身体から触手を生やす。パッシブタイプなので触手は出し入れできず、身体の一部として永続的に存在することになる。このジュエルで手に入る本数、形状はランダム。
触手が生える位置もランダムだが、邪魔になる場所に生えることはない。また、触手に見える場所が触手と置き換わることが多い。
「……まあ、他の2個はくれたるって言ったんはウチやけどな。また癖のあるスキルやんけ」
「ジュエルから手に入るスキルなんて、そんなんばっかだろ。マトモな奴は訓練で地道に【剣術】とか【格闘】を身につけてるって。オレも前にジュエル出たことあるんだけどよ、【屈伸】だったんだぜ?」
「【屈伸】!?」
【剣術】や【格闘】なら、練習すれば覚えることができる。
だが、この【合体】などは人間の身ではどうあがいても取得不可能だ。なので、ジュエルから入手する必要がある。
問題は、一々癖が強いスキルが大半で、ピーキーな性能をしていることが多いことだ。
ドンの欲しい【環境適応】はともかく、他2つは一般的に癖が強い部類に入るだろう。
ウチはそれ系統のスキルをすでに持っているのだが。主に【シン・硬化】を。
「……まあええわ。どこから生えたってええやろ」
「そんなこと言ってたら変なとこから生えちまうぜ……っと、つい下ネタ言うところだった、危ねぇ~」
「どんとこいや。それよりはよ使ったらどうや?」
「そうだな。じゃあ、お先に失礼!」
ブロワーマンが念じると、ジュエルが光の粒子となって吸い込まれていく。
スキルを手に入れたブロワーマンの見た目は、全く変わっていない。まあ、任意で使用するアクティブタイプのスキルだからだろう。だが、使った後は見物だ。
「キターッ! よし、さっそく合体するぜ。見ててください、オレの変身!」
「はいはい」
ブロワーを自分の頭に近づけ、叫んだ。
「合体!」
ノーエフェクト……何の感慨もなく、一瞬でヌルッとブロワーと頭部が合体する。
まさにブロワー人間というに相応しい見た目はまさしく……
「オレはブロワーマン。完全オリキャラだ」
「ふざけんなっ、少年漫画のパクリやないけっ」
その見た目は、ほとんどあの漫画のパクリだ。
せめてもの救いは両手がフリーなこと、牙とかも無いことだろう。悪質なパロディとしか言いようがない。
「消されるからもうその格好やめぇや」
「えぇー?」
ブロワーマンは、変身を解除した。
やりたかったことってこれか……まさか『ブロワーマン』って名前も?
これから本名で呼ぶかなぁ、
「まあええわ。知らんけど。で、ドンのは……」
「ジャア?」
「何も変わってへんな」
まあ、見た目に変化のあるスキルではないのだろう。今も100パーセントコモドドラゴンである。
しかし、【環境適応】の影響だろうか。先程よりも生き生きとしている気がする。ドンが元気でウチもうれしい。
「で、次はウチの番か……」
正直、気は進まない。
この格好をするはめになった【シン・硬化】も、事前に確認していれば取らなかったかもしれない……いや、やっぱり絶対取ってた。あの状況では、クマを殺す唯一の手段だったからなぁ。
まあ、せっかく手に入れたスキルジュエルだ、使わなければ損だろう。
「いざ!」
覚悟を決めてジュエルを使う。
光の粒子がウチに吸い込まれる。身体を見回すが、どこも変わったところはない。
ウチは疑問に思ったが、2人はそうは思わなかったようだ。
「あれ? 髪型変えた?」
「何やいきなり。ウチはいつもツインテールで……ん!?」
ツインテールのはずだ。
昔から伸ばしていたのでかなり長い。サラサラとした質感のはずだったが、いつの間にかヌメヌメとした質感に変わっている。
しかも、重い。一瞬気がつかなかったが、何か重量が増している。ツインテールが伸び、地面についているようだ。
「う、ウチの髪の毛どうなっとる!?」
「いいですか? 落ち着いて聞いてくださいね? 今あなたの髪の毛は――」
ヌラヌラとした
根本から先端まで発光器官を備えているようで、青白く怪しい光を放っている。
地球上に存在するいかなる軟体生物とも分からない特徴を持ったそれの名は……
「触手になってます」
『ウジュルジュル?』
「……ぎゃああああっ!?」
◇
その後、当初の目的であるサウナストーンをマジックバッグに詰め込めるだけ詰め込んで帰還し、協会へと戻って来た。
触手というあまりにもあんまりなブツを頭にぶら下げたウチは、また訓練場でテストを受けていた。
「誇張したスプラのモノマネっスか?」
「ちゃうわ!」
いつもの受付嬢の言葉に、触腕の発光器官が青から赤の攻撃色へと変化する。
この触手の発光器官、ウチの体調や感情などによって色を変えるのだ。おかげで内心が読まれているようで気分はあまりよくない。まあ、ある程度は任意で抑えたり色を変えたりはできるのだが。
ただ、髪の毛がそのまま変化したものなので、もう髪型をツインテールから変えることは決してできない。
これから一生、ウチはツインテールとして生きていくのだ。
「しかしこの触手、便利だねぇ」
「10メートルくらいは伸縮自在、打撃はクソ弱いけど
触手そのものやないか。
力は強いが、なまじ衝撃に強いために殴ったりすると弱い。
だが、それを補って有り余るほどの拘束力と、吸盤による吸いつきがあった。
「いやでも、硬化との併用が無法すぎないスか? 突然伸びてくる10メートルくらいの槍は相手にしたくないっスね」
特に、【シン・硬化】と相性がいい。
金属と化した太い触手が、一気に伸びてくるのだ。見た目はアレだが、いいスキルを手に入れたと思う。
「一部に熱狂的なファンが存在する触手スキルが手に入るなんて、諸星君は運がいい」
「そんな人気なんですか?」
「ああ、そうだとも。【触手】スキルは人によって見た目も形状も質感も、おまけに性能すらランダムだが……大抵の場合、ずば抜けた汎用性を持っている。スキルらしく、鍛えればとこまでも伸びていくしね」
「でも、それだけやないんでしょ?」
「ご明察。しかし……いくら私がゲイとはいえ、この話はセクハラになるだろうね」
まあ、
同じ
いつかウチも
……興味がない、わけではないが……
「ま、ナニがどうあれ汎用性は確かだ。また初心者の洞窟あたりで慣らしておくといい」
「そうします」
新スキルなので、慣らしておかなくてはならないだろう。
いざという時に動かなくては生死にかかわる。
「あっ、支部長」
「どうしたのかね?」
「それがっスね、触手同好会の方から諸星さんの勧誘が……」
「……耳が早いなぁ、彼らも。諸星君はどうする?」
「……断っときます」
「うむ……いや、そもそも君は未成年だったな」
「じゃあ断るって返事しておくっス」
触手同好会、一体どんなところなのだろう。
このスキルがそこまでのものだなんて、先が思いやられる。
『ウジュル?』
うーん……
――――――――――
【ブロワーマン】飄々とした飆飆飄逸な風
・本名は
自他共に認めるチェンソーマンのパチモン。両手と顔から風を出す。
空を飛ぶ相手の天敵。
【スキル】
・【風の祝福(エアロ・ブレス)】:風の攻撃を強化し、風から身を防ぐ。また、風の質を操る(日本に吹く風、アメリカの風、メキシコに吹く熱風、モンスーン、からっ風など)
・【屈伸】:高速で屈伸することができる。また、ジャンプ中にも屈伸することができる。
・【合体】:物や生物と合体できる。しかし、より多くの物や生物と合体するには練度が必要。
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