第11話 VS EXボス『邪悪なサウナー』



 今回の内容には、決してサウナを愛する皆さまを貶める意図はございません! あくまでこのモンスターが『邪悪なサウナー』なだけで、作者にサウナー及びサウナそのものが邪悪などといった思想は一切ございません!


 ――――――――――



 「ククク…どこからでもかかってきていいぞぉ?」


 邪悪なサウナーは、こちらを舐め腐った態度だ。

 だが、それも仕方ないのかもしれない。ウチは高く見積もってD級上位からC級下位くらいの強さで、ブロワーマンも未知数(恐らくはウチと同じくらい?)だ。

 対して、相手は特殊条件で現れるボス。どちらが強いかというのは明白だろう。


 ……そういや、ドンはどこいったんだろう?

 サウナが暑すぎて外に出たのだろうか。


 「ブロワーマン、アイツの強さってどんくらいや?」

 「分からん。オレも噂で聞いたことがあるだけで、実際に会ったことはないんだ」

 「そうか……」

 「だが、奴は凄腕の拳法の使い手らしい。しかも、サウナによってパワーアップするという」

 「何やとぉ?」


 それはつまり、サウナ内に長くいれば長くいるほど、手に負えなくなっていくということ。

 短期決戦でさっさと片をつけなければ、勝ち目が無くなる!


 「ウチが前衛やったるから支援頼むわ!」

 「やぁってやるぜ!」


 返事の直前にはもう駆け出していた。

 暖かな雰囲気の木の床を踏みしめ、邪悪サウナーへ向かう。

 隙だらけでガラ空きな脇腹……などではなく、まずは脚を潰すためにローキックを繰り出した。


 モンスター討伐で強化された脚力、それも【シン・硬化】までまとった致命の一撃が、邪悪サウナーの筋肉質な脚に命中する。

 パァンという乾いた音がサウナに響いた。


 「うおっと? …へへへ、こいつは中々のローキックだな。重量もある、パワーもだ。だがノー・ダメージだっ」

 「なにっ!?」


 軽く上げた脚で防御され、いともたやすく受け止められた。

 拳法の達人というのは本当のようだ、今の流れるような動作……喧嘩殺法のウチでは分が悪すぎる。


 「せやっ! はっ!」

 「筋はいい、良く鍛えこまれている…が、チビすぎてリーチが足りんようだなぁ?」

 「誰がチビやっ!」 

 「肉体が貧相なんだ、もっと食ってデカくなるんだっ」

 

 別に身長のことは気にしてないが、明らかにバカにされているとなると別だ。

 それからも殴る、蹴るを織り交ぜて攻撃してみるものの、防御されるか避けられる。


 このままではらちが明かない。

 だが、ウチには頼れる仲間が存在する!


 「おおっ! 熱風を食らえ!」

 「なにっ」

 「ナイスタイミング! だああああッ!!!」

 「な、なんだぁっ」


 ベストなタイミングでブロワーマンが気を引き、隙ができる。

 その隙を逃さず、ウチは腕や肩あたりを重点的に硬化し、邪悪なサウナーにタックルをかました。


 当たれば大ダメージは必至。

 邪悪なサウナーの反応は間に合わずに食らう……はずだった。


 「ぬぅ…しゅわっ」


 邪悪なサウナーの反応はまさに神速だった。

 素早く身を後ろへ引き、前に出た方の脚で蹴りを繰り出してきたのだ。


 「お゛ぉ゛っ゛!?」

 「うわああああっ!?」


 ウチはすくい上げるような、蛇のように足さばきで思いっきり股間を蹴られ、ブロワーマンの方に吹き飛ばされた。


 「お゛、おぉ……あぁ……」

 「ソラ大丈夫か? エロ同人音声みたいな声出てたけど」

 「あ、あのチンカスがぁ……乙女の股間蹴りおってからに……!!!」


 何とか立ち上がるが、ブロワーマンとぶつかった背中も痛い。それに内股で……!?

 あいつの蹴りは硬化を貫通して……いや、硬化が!? 不意打ちとかでもないのに!

 化け物みたいな技量の持ち主に、ウチは戦慄した。


 「さ、サウナの外には出られへんのか?」

 「噂によると邪悪なサウナー戦は逃走不可らしいぜ」

 「……それは面白くなってきたなぁ」


 モンスターとはいえ、マジで躊躇ためらいが無い奴だ。急所を容赦なく狙って来る。ならばこっちも狙っていくべきだろう。

 そんな中、邪悪なサウナーは余裕綽々よゆうしゃくしゃくといった様子だった。


 「そのブロワーの小僧は大したことないが、そっちの淫売みたいな格好の小娘はヤバそうだ。スキルも使い勝手が良さそうだし…ま、俺はスキルの発動より速いけどなっ」

 「く、来るか!?」


 奴を迎撃しようと身構えたその時だった。


 「ジャラアアアアッ!!!」

 「なにっ、な、なんだぁっ」


 サウナの席の下に隠れていたドンが、奴の脚に噛みついた。

 流石ドンだ、野生界の出し得技、不意打ちを有効活用している。


 「チィッ、何だってコモドドラゴンなんか飼ってんだよっ」

 「ギャウッ」

 「ドン!? 畜生が、追撃したるわ!! ナイフ!」

 「おうっ!」


 手渡されたナイフを、剛速球で投げる。

 近接武器の装備は不可でも、ナイフを投げるのならば問題はないことは実証済みだ。

 サウナの熱気で十分に加熱されたナイフが、邪悪なサウナーに向かう。


 「クソっ」


 たまらず回避。だがいきなり動いたせいか、ドンに噛まれた傷口から血が流れた。 

 なるほど、毒は邪悪なサウナーにも効くようだ。


 「たたみかけるで!!!」

 「やぁってやるぜ!!!」

 「ジャア!!!」


 溺れる犬は棒で叩け、ウチらは一斉攻撃をしかけた。

 だが、息を整えた奴の目前まで迫ったその時。


 「ぬぅ…はぁーっ『羅汗外気らかんげき』」

 「ゲェーッ!?」


 いきなり邪悪なサウナーの身体から、蒸気が放たれた。

 しかもその蒸気には結構な風圧が付属しており、ウチらはたたらを踏んだ。


 「クソッ! こんな隠し玉が……」

 「これがサウナのちょっとした効能よ、健康に関するものがある。はーっ『血流促進』」


 ウチらが足を止めていた隙に、邪悪なサウナーは全身に力を込める。

 筋肉が3割増しくらいパンプアップした直後……何と、奴の傷口から毒が出てきた。


 「はぁ!?」

 「これすらもサウナの効能の一端に過ぎん。毒を体外へ全て排出し…完全復活だぁっ」


 奴は毒への対抗手段すら持ち合わせているのか。

 もはや武術の達人とかそういう域を超えてマンガの世界の住人のようだ。いや、ダンジョンの中だぞ何を今更。


 「先ほどはやってくれたなぁ、次はこっちからだ。俺の蛇拳を見せてくれるわっ」

 「速!? ぐわぁっ!?」

 「ブロワーマーン!?」


 とてつもなくはやい、2匹の蛇が同時に襲ってくるような軌道だった。

 極太のむちのようにしなる一撃は、ブロワーマンを壁に叩きつけた。


 「ジ、ジャア……」

 「ドーン!?」


 ブロワーマンが一撃でやられ、ドンもついに暑さでダウンする。

 残るはウチのみ……そう考えていると、凄いスピードで目の前に現れた。


 「お前で最後だぁっ」

 「やられてたまるか!!」


 超スピードで迫りくる拳をギリギリで避ける。

 目が慣れてきたので、何とか追い付かせることはできた。


 「ほう? 俺の蛇拳を避けるとはな。硬さだけじゃなく反応も一級品らしい」

 「何が蛇拳や! ジャッキー・チェン気取りかカスが!」

 「ヒーローの技を俺みたいなクズが使ってしかも強いなんて、最高にイカしてるだろっ」

 「ふざけんなよボケが」


 問答を繰り返している間にも、拳や蹴りが飛んでくる。

 こちらはサウナの熱気で体力が削られるが、向こうはまだまだ元気そうだ。

 だが、一向に攻撃が当たらないことにしびれを切らしたのか、奴はついに大技を放ってきた。


 「ええい、ちょこまかと。だがこれで終わりだっ『双蛇一竜』」

 「がっ!?」


 両腕を合わせた、蛇というよりも竜のような一撃。それは今までの技よりもはるかに速く、そして強かった。

 たった一撃のもとで、ウチは吹き飛ばされてしまったのだ。


 「ククク…テメェは確実に殺してやるよっ」

 「ぐぅ……!?」


 倒れたところで首を掴まれて待ちあげられ、ギリギリと絞められる。ウチも硬化を使って抵抗を試みるが、邪悪なサウナーの鍛錬に裏打ちされた鋼のような筋肉を突破できない。

 打撃が効かないのなら、絞め技……実に合理的だ。ウチは首へ硬化を集中することで、辛うじて意識を失わずに済んだがこのままでは死んでしまう。


 ……反撃も、生半可なものでは潰される。ならどこを狙えばいいのか……それは決まっていた。


 「オラァッ!」

 「はうっ」


 ウチが掴んだのは、バスタオルに包まれた股間だ。

 その竿と玉を一気に掴んでいる……そう、ウチの手でも一気に掴めるほどに。え? ちっさ。


 「な、何やこの短小は!?」

 「い、言うなぁっ、サイズのことは言うなっ!」


 向こうの手はウチの首を放さないが、力はいくらかゆるんだ。というか、ウチの右手を止めるためか、左手を放した。

 つまり、それは多少なりとも息ができるようになったということ。なので、もっと力を込めることができる。


 「こ、こひゅっ……こひゅっ……」

 「うぐぐぎぎ…」


 だが、お互いにジリ貧。いや、首を絞められているウチの方が不利か。

 貪食で食い殺そうにも、腕のリーチが長くて牙が届かない。このままでは負けて死ぬ。

 玉と棒を掴む手に、無意識に力が籠められる。


 「つ、潰される!?」

 「うっ!」


 ついに限界に達した邪悪なサウナーは、たまらずウチを手放す。

 さもありなん。睾丸とは体外にむき出しの内臓、鍛えようがない弱点なのだから。


 「ゼヒュー……ゼヒュー……」

 「お、驚かせやがって。だが虚しい抵抗だったようだなぁっ」


 運よく脱出できたが、ウチはもう限界だった。

 暑さとダメージ、おおよそ人間が食らっていいダブルパンチではない。


 「今度こそトドメを刺してやるよっ」


 死神の足音が近づいて来る。その時だった。


 「……?」

 「な、なんだぁっ、魔石?」


 倒れ伏したウチの腹部あたりに、魔石が飛んできた。

 それを飛ばしたのは……


 「シュァァァァ……」

 「コモドドラゴンが? 何のために?」

 「シャアッ、シャアッ!」


 ドンだった。ドンが、マジックバッグから取り出した魔石を、尻尾ではじいてウチに飛ばしたのだ。

 暑さでダウンしていたというのに、それを押してまで何かを伝えようとしている。


 (魔石を……割れ!)


 この中でウチだけが、その意味を理解できた。

 ウチは硬化した手で魔石を叩き割った。すると、その魔石からは大量の水があふれ出た。


 「水だと…? 一体何を…こ、これは『極上の冷水』…ま、まさか…やめろーっ」


 その水、『冷気の水風呂』から採取できる素材『極上の冷水』を浴びたウチは、まるでに包まれたような心地よさに包まれた。

 同時に突如として湧き出た気力にまかせて立ち上がると、今まで倒れていたブロワーマンがガバッと起き上がる。


 「オレが出せるのは熱風だけじゃねえ! 空に吹く心地いい風も出せるんだ! さあ、ととのうのだ! この風でぇぇぇぇッッッ!!!」

 「おおおおぉぉぉぉ!?」


 邪悪なサウナーが駆け寄るより、ウチに風が届く方がはるかに速かった。

 風……つまりは音速ということだ。ダンジョンのボスクラスのモンスターとはいえ、そう簡単に追いつけるものではない。


 「うおっまぶしっ」

 「こ、これは…」


 ウチと風がぶつかり合った瞬間、黄金の輝きが放たれた――!!!



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