第10話 地獄の熱波師(アウフグーサー)・ブロワーマン
「見ててくれよ、これがオレの熱波だ!」
市販のブロワーにあるまじき暴風が吹き
そう! ブロワーマンとはスキル【
「凄いなぁ。タオルとかシャンプーとかの温泉グッズが無傷で手に入ったで」
「ジャア……」
流石にブロワーマンと名乗るだけはある。それに、何でブロワーを持ってきていたのかという疑問が晴れた。
ブロワーマンは服や髪を風になびかせ、こちらへやってくる。
「どうだい? オレの力は」
「
「まあ、文字通り足元をすくわれたんだ。それより、サウナストーンがいるんだろ? サウナ行こうぜ!」
今のはデモンストレーションらしく、彼の本気ではないらしい。
何でも、その真価はサウナにこそあると豪語している。一体どういうことだろうか。
「そうだ、実はこのサウナでは出るって噂でな」
「出る?」
「ああ。何でもサウナの中でとくさ――」
ウチらは、雑談をしながらサウナまで進んだ。
◇
「ここがサウナかぁ……広くないか?」
サウナの内部は、これほど広い必要があるのかと思うくらいに広過ぎるものだった。熱気を届かせるためなのか、数メートル間隔くらいでストーブとサウナストーンが無数に並んでいる。
恐らく、これは普通の健康ランド時代のものではなくダンジョン化した影響によるものだろう。
「確かにこんな広い必要
「せやろなぁ」
サウナ内は、不思議と余計な風を感じない。これもダンジョン化のおかげだろう。
ブロワーマンは近くあったサウナストーンに近づき、しげしげと眺めた。
「知ってるかもしれないが、このストーブの上にあるサウナストーンにロウリュすれば、石が増える。それを持って帰ればいいわけだ」
「サウナストーンにそのロウリュ? ってのをすればええの?」
「その通り! じゃあ、せっかくだから実践してみるか。そこ座ってくれ」
指定された場所に座る。
そこはドアから近く、サウナストーンから近い場所だった。
「確かここに……あった!」
ブロワーマンは、ストーブの近くから何かを取り出した。
それは、
「これは『ロウリュ用のアロマ水』。ここのサウナに常備されていて、決してなくならないけど持ち出しは不可能なんだ」
「はえー、何か至れり尽くせりやなぁ」
「そこは元健康ランド。それだけ風呂やサウナに情熱を注いだダンジョンってことで……」
話を打ち切り、シャツの襟首をただし、ビシッとした雰囲気になるブロワーマン。
その姿は、さながら熟練の職人のようにも見える。彼の放つ気迫に、ウチも自然と背筋が伸びた。
「今回ロウリュサービスを担当させていただく、熱波師のブロワーマンこと乾風次郎と申します。お客様はロウリュは初めてでしょうか?」
「は、はい」
「ではロウリュのご説明をさせていただきます。ロウリュとは、熱したサウナストーンに水やアロマ水などをかけ、蒸気を発生させることを指します」
蒸気を発生させるということは、湿度や温度が上昇するということだろう。
なるほど、サウナ好き……サウナー達はこうやって高温を楽しんでいるのか。
ブロワーマンが、ストーンにアロマ水をかける。すると、ジュワーッという音、そして良い香りと共に蒸気が発生し、室内の温度が上がった……気がする。
「この蒸気により、サウナ内の温度や湿度を上昇させ、お客様の発汗などを促進させます」
「へぇ」
「特に探索者はモンスターを倒せば身体能力が上がりますが、通常の場合はそこまで環境の変化に強くなるわけではありません。しかし、強くなるのは事実。なのでロウリュをすることにより、探索者様方にもご満足いただける温度にまで上昇させることができます」
「なるほどなぁ……」
「そして、この発生した蒸気ですが――」
ブロワーマンはそう言うと、ウチにブロワーを向けた。
「えっ」
「タオルやうちわなどで
「えっ」
「では参ります」
「ちょっ――おおおおぉぉぉぉ!?」
蒸気の乗った熱風が、ウチに襲いかかる。
地獄のような暑さであり、もはや何らかの拷問にも等しいとさえ感じた。それなのに、久しく感じていなかったサウナ特有の熱気が心地よい。
「これは……ええなぁ……」
熱風で日ごろの疲れが吹っ飛ばされていくようだ。
特に疲れは感じていなかったのだが、探索者という命がけの商売。知らず知らずのうちに疲労がたまっていたのかもしれない。
やがて熱波がやむと、ウチは汗だくになっているのに気づいた。
「いかがでしたか?」
「最高やったわ。何かやっとったん? 熱波師の仕事」
「探索者の前はここで働いていました」
「そうやったんか!」
やけに健康ランドに詳しいと思っていたが、ダンジョン化する前はこの『
そういえば……何となく見覚えがある気がしなくもない? 気のせいかもしれないが。
「いやぁ、サウナは入ったことあるけど、ロウリュとかがこんな気持ちええなんて思わんかったわ。もっとロウリュしてや!」
「かしこまりました」
ジュワッという小気味の良い音。
同時に、大量の白い水蒸気がムワッと立ち昇る。
「実はですね、この蒸気は全てユケムリンなのです」
「はぇーそうやったんか。知らんかったわ」
「そしてこのサウナストーンから発生したタイプのユケムリンはですね、特定の条件を満たしていますと、極々低確率で寄り集まってモンスターになることがあります」
「集まってモンスターに? それってアレのことか?」
「ええ、そうです。アレの、こ……と……」
ブロワーマンが、ウチの指差した方向を凝視する。
そこでは大量のユケムリン達が集まり、何らかの形を作っていた。
「……おわああああ!? ヤバイヤバイヤバイ!!! 聖人来い聖人来い聖人来い!!! 聖人聖人聖人聖人聖人お願いします!!! 頼む!!!」
「い、いきなり何言っとんねん?」
いきなり高速で屈伸を始めたブロワーマンは、酷く焦っているようだ。
やがて、ユケムリン達が圧縮すると、それは正体を現した。
「こ、こいつは……!?」
細身のようにも見えるが引き締まった
サウナに入りに来た客かと見まごうその怪人物の正体は――
「ばぁーっ、俺は『邪悪なサウナー』だあっ」
「クッソふざけんなやっぱ邪悪じゃないか!」
邪悪なサウナーと名乗った人物に対し、ブロワーマンが悔しがっている。
「な、何やコイツ!?」
「奴は『邪悪なサウナー』……一定条件下でサウナでロウリュしたら出てくる、ギミックモンスターだ。ちなみに『聖人サウナー』もいるぞ」
モンスターなのか……喋ってるし、見た目も完全に人間だ。
だが、その禍々しい気配はモンスターよりもモンスターに相応しいといえる。見た目で
邪悪なサウナーはゴキゴキと首を鳴らし、こちらを見据える。
そして、全身から暴力的な威圧感を放ちながら言った。
「ククク…このサウナで汗をかいた後、汗を流さずにそのまま水風呂に入ってやるぜ。止められるもんなら止めてみな。ま、テメェら雑魚共じゃあ無理だろうがな」
「人間の屑がこの野郎……!」
「一体どこまで腐っとるんやお前は!」
かくして、サウナに入っても汗を流さず水風呂に入る人間の屑こと邪悪なサウナーとの戦闘が始まった。
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