第8話 激強スキル
「ゴブーッ!」
「ゴブゴブッ」
初心者の洞窟のゴブリン達。
前に見た時も、今から自分達が死ぬなど欠片も考えていないような元気さだったが、今回はいつにも増して元気だった。
興奮している、と言い換えてもいいかもしれない。
「これ、ウチの格好が原因なんか?」
「シャア?」
今のウチの服装は、布切れみたいな水着(ということになっている服)だった。
水着な理由は、下着という名目だと公然わいせつか何かにあたる可能性が高いらしい。水着なら、協会がいくらでもかばってくれる。
スキルの都合によっては、奇抜な格好でも許されるのだ。世間の目は……真冬の海よりはマシかもしれない。
そんな際どい格好を、ゴブリン達は生まれて初めて見るのだろう。
自分達でも容易く殺せそうなことに歓喜しているのか、
「死にさらせぇッ!」
「ゴッ」
「アギャーッ!?」
硬化した脚の蹴り一撃で、ゴブリン共の首を砕き折る。
ボスであるスイギュウや、
ほとんど裸足なのに、ガラス片を踏んだって無傷だ。
……支部長や受付嬢の人が言うには、スイギュウとクマだけでは考えにくい上がり幅らしいが。スキルの副次効果かもしれない。
今や、ウチはおおよそC級下位くらいの身体能力らしい。
「ほぉ、マジで一撃やん。これなら探索が楽になるわ」
「ジャア」
「ギャアッ!?」
ドンも、前足の爪による攻撃でゴブリンを殺していた。
ズタズタに引き裂かれており、見るも無残な死体だ。ドンも身体能力が上がったのだろう。
ただでさえ強い野生動物をさらに強化するのか、ダンジョンは。
「頼もしい限りやなぁ。よっしゃ、じゃあボス部屋行って牛肉食おうや!」
「ジャアッ!」
ウォーミングアップも済んだことだし、次のターゲットはボスのダンジョンスイギュウだ。上手くいけば、またかなりの額が稼げる。
ヒュージバタフライの毒も抜かりなく用意してあるので、ウチらはダンジョンの奥へと向かった。
もちろん、その前にゴブリンの魔石は全て回収した。
◇
「ブモォォォォ!!!」
「やっぱ迫力あんなぁ、スイギュウは」
ボス部屋にて、ボスであるダンジョンスイギュウと対峙していた。
相変わらず文字通り鼻息荒い奴であるが、その突進は今のウチにとってはまだ脅威である。
このスキルが無ければ、真正面からやり合おうなど夢にも思わなかった。
「しゃあっ、シン・硬化!」
ウチの胸から両腕を、金属光沢を放つ灰色が包んだ。
これは防具と近接武器の装備が不可能になる、とてつもないデメリットを持ったスキル【シン・硬化】だ。
一体、何が『シン』なのかは全く分からない。
「ブモオオオオ!!!」
「そらッ!」
「ブモッ!?」
迫りくるスイギュウの角を、真正面から受け止める。
とてつもない衝撃がウチの身体を襲ったが、痛みはないし傷もない。
屈強なスイギュウの突進をほぼ裸でここまで殺せるとは、デメリットを含めても破格のスキルだった。
しかし、体重差と力負けはしているので、そのまま壁際まで引きずられてしまう。
背中から壁にも激突したが、背中を硬化させることでダメージを無効化した。
協会で練習したおかげで、ある程度は自由に、場所を選んで発動できる。
「ふんっ!」
「ブモオオオオォォォォォ!?」
手を硬化させ、目に突き入れる。
痛みに怯んだスイギュウはウチを上にカチあげたが、ウチは上手くバランスを取って、スイギュウの上に着地した。
「ふんぎぎぎぎ……これで仕舞いやっ!」
「ブ、モ……!?」
立派な角を掴み、車のハンドルのように回し、そのまま首をへし折った。首をやられたスイギュウの目から、光が失われた。
いくらモンスターといえど、首や頭、心臓、魔石などの弱点に致命傷を食らっても活動できる奴は限られてくる。A級やS級ダンジョンには存在するそうだが。
つまり、ボスとはいえ初心者の洞窟の住民であるスイギュウは死んだのだ。
「お、おぉ……ウチ1人でスイギュウを!?」
「ジャア!」
「そういや、クマの背中も貫通できてたなぁ。軽い肉体強化効果とかあるかもしれんな」
どちらにせよ、とんでもないスキルだ。
E級、つまり初心者の死亡率がかなり高いとされているダンジョンスイギュウの突進に、まるでびくともしないなんて。
こんなものをウチが手に入れられたことは、凄く幸運だったのかもしれない。デメリットは重いけど。
いや、そもそもダンジョンスイギュウは……ダンジョンは誰かとパーティーを組むことが前提である。絶対ではないが、協会からも推奨されている。
だが、ウチには心強い仲間がいる。
「ジャア」
元気にスイギュウを
最初の冒険で、最高の相棒と出会えたといっても過言ではないだろう。
「よっしゃ、そろそろ剥ぎ取っていこう」
剥ぎ取り用のナイフは、ドンにナイフホルダーをくくり付けて持ってきた。
常に携帯すると、ギリギリ近接武器判定になったからだ。だが、こうやって死体を解体する目的なら大丈夫らしい。
あくまで装備し、生きている人間やモンスターなどに向けることがいけないのだろう。いや、協会でのテストでは
今回もドンがかじったことで肉は諦めたが、角や蹄鉄などは大丈夫だ。
まあ、全部で数万円はするだろうから、肉くらいは仲間に譲ろう。ドンは通貨に興味はないだろうから。
「うーし。スキルのテストは完了や、これから帰って……明日に備えるで」
「ジャア」
全ての素材をリュックに詰め込んだ。
明日は協会からの直々の依頼により、とあるダンジョンへと向かうことになっている。
少しだけ特殊なダンジョンなので、英気を養っておかなければどこかでミスって死ぬかもしれない。
荷物をまとめたウチらは、ボス部屋を後にした。
「ジャア?」
「おん? 明日行くダンジョンはどこかって? それはな……」
――そのダンジョンができたのは、つい数年前。
ダンジョン化という時代の荒波に呑み込まれ、多くの人々に惜しまれながらも廃業となってしまった施設。
異次元の安さと品質の高いサービスを提供し続けたその名は……
「健康ランド“
「ジャア!?」
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