第九話 紅葉維新

第九話 紅葉維新 




9月 15日 帝都東京 皇居地下 帝国中央図書館 特別閲覧室




「では、皆さまのお時間はただいま14時より16時までとなっております。16時になりましたらこのベルでお教え致しますので、それまで、有意義なお時間をお過ごしください。」


猛たちに頭を下げながらそう告げると、鎌田は入口の右側に置かれている机に向かい書類仕事を始める。彼は特殊閲覧室の管理人として保管されている書物の衛生管理の他に閲覧室内に入った人達のリストを作ったり、破損や劣化した書物の修復を手配したりと、何かと仕事が多い。


「では、真木は私と、木城は烈が元々調べようとしていたベネルクス大包囲戦について調べろ。その間烈は美恵に紅葉維新についてと紅葉予言書、六花条訓の実物を見せてやれ。」


「「「は!」」」


猛の号令を受け皆が敬礼を最後に各々調べたい書物を見つけに歩き出す。閲覧室内に保存されている書物は鎌田により現実と同じ日本十進分類法に基づいて整理されており、前もって目録を見ておけば一直線に気になる書物の元に向かうことができる。


「じゃあ美恵、まずは紅葉維新関連の書類を見に行こうか。」


「はい、お父様。」


閲覧室は入口から見て横10列、縦100列の計1000列の棚で構成されていて、一列の棚に100冊ほどの書類が保管されている。各棚は一番左の1-1から10ー100まですべて番号で管理されており、さらに各棚に保管されている書物にも番号が振られている。例えば1-6ー24にある書物を探すときは一番左の列の六番目の棚の左下から24冊目となるわけである。


烈と美恵の二人はそんな10列の棚の中央にある通路を真っすぐ進む。紅葉維新関連の書類は皆が頻繁に見に来る為入口から一番わかりやすい正面に保管されている。左右に無数の棚がある通路を200mほど進んだ頃、少々開いた場所につく。閲覧室の中心であるこの場所には中央にある数冊の資料を囲むような円形の空間が確保されていて、他の棚と違い番号が振られていない。円形の台座の上に12冊の資料と台座の中心に更に高く1冊の資料が置かれているこの場所こそ、大日本帝国の始まり、紅葉維新関連の資料である。


「これらが帝国の始まりに関する資料だよ。中央の紅葉予言書とその周りを囲む12冊の資料は全て桃園天皇 遥宮(はるのみや)様、大将軍 徳川家久(とくがわいえひさ)が直々に書いた物で、当時のままと言うのは学校で習ったと思う。じゃあ、どの書物がどれかわかる?」


「はい、お父様。正面の書物から時計回りに家久の日記、六花条訓(ろっかじょうくん)、戦の書、銀河真相(ぎんがしんそう)、経済白書、物理教書(ぶつりきょうほん)、世界百科(せかいひゃっか)、七星海図(ななほしかいず)、赤色辞書(せきしょくじしょ)、白色辞書(はくしょくじしょ)、帝国書記(ていこくしょき)、そして最後に遥宮様の日記です。」


「大正解だ、すごいね美恵。じゃあそんな勉強熱心な美恵に新事実を教えてあげよう。」


一度呼吸を整え美恵の方を向いた烈は片膝をつき美恵の肩をがしっとつかみ、彼女の眼を真っすぐ見る。


「いいか、これから教える事は黒川家と天皇家、他ごく少数以外知らない史実だ。たとえどんな事があろうと絶対に外に漏らしてはならない。いいね?」


普段の優しい父とは真逆の、低く恐怖を覚える声はどこか叔父の様だと感じた美恵はとっさに返事をする。


「はい!わかりました、お父様。」


美恵の返事に満足し、烈は手を放して笑顔を見せ、いつもの声に戻る。


「うん、じゃあ説明するよ。まず美恵は紅葉予言書についてどれだけ知っている?」


「私は学校で地震などの天変地異、地下資源の場所、航空機や発動機の基本図、経済の基本、戦争の基本、これから地政学的に重要になる場所、国が書いてあると学びました。」


「うん、表向きはその認識でいいよ。ただ、なぜ桃園天皇と家久将軍はそんな事が分かったと思う?」


「それは。。。やはり天皇家が天照大御神の直系である事が関係しているのでしょうか?」


「正解。天照大御神の直系である天皇家は特異点と言われる存在で、嚙み砕いて説明すると特異点は神々に近しい存在であり、神々からの干渉や恩恵を受けられる場所、存在の事を指す。理解できる?」


烈の突然の説明に美恵は首を傾げながら理解しようと思考を回す。


「それは、宗教的な意味でしょうか?それとも物理的、論理的な理由があるのでしょうか?」


「うん、神と表現したのはちょっと誤解を生む説明だったかもしれないね。天照大御神は実は神ではなく普通の人間なんだ。ただ特殊な人間、転生者と呼ばれる人間だね。」


ここで美恵の脳はパンクした。


「転、生、者?生まれ代わりと言う意味でしょうか?」


「そうだよ。世界中の英雄や伝説と言われる存在はほぼ全て転生者だよ。」


悲報、美恵の思考が完全にログアウトしました。


「お父様、それは何の冗談ですか?」


「理解が難しいのはわかる。けど実際徳川家久と桃園天皇も二人とも転生者なんだ。僕たちとは違う歴史を歩んだ2020年からの転生者だよ。」


「それは、事実ですか?」


「うん、ここに並んでいる書物がその証拠だよ。そうでなきゃ1750年の人間が未来に起こる地震や発見、発明の詳細を書物に残せるはずないでしょ?」


「ですが。。。にわかには信じられません。」


烈の噛み砕いた説明は元々頭の良い美恵に理解できる内容であったが、受け入れられる内容ではなかった。だがここにある家久の日記には、一般公開されている日記とは違い真実が書かれている。一般公開されている日記には家久が転生者であり、彼が未来の知識を使った事を示唆する内容を完全に抹消し、桃園天皇が神々からお告げを頂いたと表現されている。変わって、ここにある本物の家久の日記には自信が転生者である事、同じく転生者である桃園天皇との関係など、文字が書けるはずもない生後9か月から他界する前日まで、毎日の出来事が詳細に書かれている。家久の日記には家久が幼少期、ここにある13冊の書物を書き上げた事や、桃園天皇が誕生した際、すぐに同じ転生者だと気づいたことなど重要な事が数多く書かれており、さらには家久が病気の時は桃園天皇自身が代筆で日記を書き上げる仲だった事なども伺える。桃園天皇が9歳で天皇に即位した際には、今まで準備してきた改革を断行する忙しさ、不安や心配なども包み隠さず書かれている。そして最後に、家久が他界する前日に描いたとされる最後の日記には、家久の過去、転生前の人生についても書かれていた。これは紅葉予言書とは違い、本当にただただ自身の前世を書いた最後の日記であり、彼自身の文才も重なって、最初から最後まですべて読破した者は絶対に涙する日記であると有名である。


だが美恵には一部理解できないことがある、烈は今特異点の事を神の干渉、恩恵を受けられる場所や人物と言った。それはどういう事だろ?数秒考え、自分だけでは回答にたどり着かないと気づいた美恵は素直に烈に質問することにした。


「理解できますし、信じようと思えば信じられます。ではお父様が言っていた特異点とは、受けられる干渉、恩恵の元である神とは何でしょうか?」


「いい質問だね、特異点が受けられる力の元、神々は我々の理解が及ばない現象を総じて、神々の干渉、恩恵と呼称しているんだ。例えば、天皇家は第一特異点と言われていて、第二特異点が神の子 イエス・キリスト、第三特異点が騎士王 アーサー・ペンドラゴンと続いていくんだけど、彼らは全員転生者なんだ。ただ彼らがどうして転生したのか、なぜ彼らが転生者に選ばれたのか全く分からないんだ。そして彼らが地球に残した遺品、アーサーの神剣 エクスカリバーとかのレリックと呼称されている物たちが美恵も知ってる干渉や恩恵だね。他にはキリスト教の聖書、神槍 グングニル、英国の秘宝 戴冠宝器(クラウン・ジュエル)、我が国にも天下五剣の五本があるけど、見たことなかったっけ?」




「子供の頃に、見たことはありますが、確かに言われてみば何か神秘的なものを感じたことはあります。ですが、やはりまだ信じられません。。。」




「それもそうだろうね。また今度天下五剣を見に行ったり、ここにある13冊を読んだら考えが変わると思うよ。まだ14時20分だから、今日は16時までここにある書物を読むといいよ。何なら一緒に読もうか?」




「お願いします。出来れば、おすすめを教えていただけますか?」




「うん、いいよ。でも美恵は子供の頃から六花条訓や世界百科の写しを読んでるから。。。やっぱり家久の日記が一番おすすめかな。それか遥宮様の日記の日記もおすすめだけどこっちはちょっと難しい話だし、家久の日記を最初に読んだ方が遥宮様の日記を楽しめると思うんだよね。」


「わかりました。では、家久の日記を読んでみます。」


そう言って、美恵は家久の日記を手に取り、近くに用意されている椅子に座りながら数千ページに及ぶ家久の人生の幕を開けた。


*ファンタジー要素は転生だけです。今後魔法などの超常現象が出で来ることは一切ありません。

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