第五話 二つの共同作戦

第五話 二つの共同作戦


1939年 9月 3日 21:53 帝都東京 帝国ホテル 西側エントランス




大日本帝国の威厳の象徴が大国会ならば、帝国の財力の象徴は間違いなくこの帝国ホテルであろう。史実通り、1880年に開業した帝国ホテルは、1919年度の大改装を最後に世界最高峰のホテルとして君臨しており、客室数は地下も含めれば約600室と、2023年現在の帝国ホテル本館の570室に勝る。そんな帝国ホテルを世界最高峰たらしめているのは間違いなく600室以上を掌握し、管理している従業員の練度であろう。満室時は5000人以上の客をさばき、最高の日本食の他にイギリス食、フランス食、イタリア食にドイツ食を用意し、客個人の対応も柔軟であり可能な限り全てこなす、まさに世界最強の従業員4000名である。


その帝国ホテルのエントランスは西と東で洋風と和風に分かれており、和風のエントランスは国内客、洋風のエントランスは国外客用と別れており、車が停まる位置でエントランスが分かれるようになっている。もちろん希望すればどちらのエントランスも利用できるが、ほとんどの客は初めて入ったエントランスに見惚れてもう片方がある事に気づかない事も多い。加えて、やはり人種による差別意識は存在し、日本人は洋風のエントランスに行きたがらないし、外国人もそうであった。


そんな中、極めて珍しく洋服に身を包んだ日本人の男女が腕を組んで洋風のエントランスを進む。やはり、日本人である二人は洋風のエントランスでは目立ち、ソファーなどに腰掛けている者、通りかかった者、左右の大階段を上り下りする者の目線は二人に釘付けになり、コソコソと話し始める。主に、女性の方についてだ。何を隠そう、彼女は帝国ホテルで豪遊している世界中の金持ち男性たちが見てきたどんな女性よりも美しく、アジア系の顔立ちをしている中真っ赤なドレスを美しく着こなしているのだ。そんな美女を連れたあの男は誰だ?とコソコソ話す声は徐々に大きくなる。世界各国から来客が来るため、言語はバラバラで、何を言っているのか検討はつかないが、きっと二人の日本人に、特に男の方に悪口や陰口を叩いているのだろう。


もちろん、周りの会話内容がわかるわけもなく、日本人二人は2つの大階段に挟まれる形で中央に存在しているチェックインにまっすぐ向かう。


「ようこそおいでくださいました、帝国ホテルへようこそ。お名前を頂戴いたします。」


チェックインカウンターの奥に控えていたスーツの中年、総支配人は日本人の男の方を見て慌てた様子で頭を下げ。頭を上げる頃には平然を装っていた。


「黒川猛だ」


日本人の男は包み隠さず本名で答える。


「ありがとうございます、お連れ様のお名前も頂戴いたします」


「秋田真木です。」


「繰り返し、ありがとうございます。黒川様に秋田様ですね。いつもありがとうございます。お部屋は708号室になります。こちらの者がお部屋までご案内させていただきます。良い夜をお過ごしくださいませ。」


そう言って頭を下げ、総支配人は案内人とし紹介した者に場を譲り、一歩後ろに下がる。


「お初にお目にかかります、今回黒川様、秋田様の専属となります坂城(さかき)と申します。今夜は雲ひとつなく月がよく見える大変良い夜となります、必要な事がございましたら何なりとお申し付けくださいませ。」


坂城こと坂城木城(さかききじょう)は最後に頭を下げ、二人を708号室へ案内する。中央の階段を上がり少し進んでエレベーターに乗る。目指すは7階。目的の階層でエレベーターを降り、坂城の案内で左に曲がり7枚の扉を左右に数えた頃708号室と書かれた扉を通り過ぎ、隣の709号室の扉を坂城は開け放ち頭を下げ、二人を通した後、再度頭を下げて扉を閉める。


帝国ホテルの7階は全て上金室(じょうきんしつ)ー上級金色室の略称ー、今で言うスイートルームのようになっており。この709号室は二人用であるのにも関わらず、下通室(かつうしつ)ー下級通常室の略称ー、帝国ホテルで一番安い二人用部屋の約20倍の広さに加え、ジャグジー、露天風呂、サウナなどのオプションが用意されている。ちなみにお値段は下通室の約50倍である。


そんな帝国ホテル一の客室ー天皇家用にもっと凄まじい部屋もあるがーに黒川と真木は入り、真っ白いソファーに腰掛ける。向かいに座るのはアンドリュー・カニングである。


「真木殿、見違えましたな。元々整った容姿をしていると思っておりましたが着飾るだけでこれほどまでに美しくなるとは。我が英国にもあなたほどの美女はめったにおりますまい。王女殿下の隣に並んでも遜色ないドレスも似合っておりますぞ。」


三人の会話はアンドリューのお世辞で幕を開ける。


「ふふふ、ありがとうございます。」


もちろんお世辞だとわかっているがそれに笑って返すのも社交辞令というもの。真木はなるべく美しく、口を手で隠して小さく笑う。なれないヒールで足がグラグラしているのは秘密だ。


そんな挨拶を2分ほどした後、黒川が本題に入る。


「アンドリュー、今から言う提案に関する率直な、アドミラル・カニングではなく、アンドリュー・カニングとして意見を述べてほしい。今回のハンブルグ港襲撃作戦、失敗に終わるのはお前も理解していると思う。そこで、我が帝国海軍の決戦兵器の一つ、潜水空母と航空機による支援を行いたいと思う。表立って行動している欧州派遣艦隊の出撃は許可できないのだ、天皇陛下の意識に反する。それに潜水艦なら我が海軍だと証明する方法は無いし、潜水空母は秘匿兵器だ、我が国に存在すると証明するだけでも骨が折れるだろう。どうだ、十分だろうか?」


アンドリューは考える、真剣に。この戦力で足りるのか否かを。


今回のハンブルグ港襲撃作戦に参加する英海軍の戦力は戦艦18、巡洋戦艦13、高速戦艦2、空母4と補助艦多数。対する独海軍は戦艦12、高速戦艦15、空母0と圧倒的英海軍有利と思われるが、上空援護が皆無では無いが心もとなく、最も心配なのは潜水艦の存在だ。U-ボートの戦艦に対する打撃力は未知数であり、撃沈されないとも断言できない。やはり日本海軍の対潜能力が高い水上艦は必要だろう。だが黒川は水上艦は出せないと言ってきている。ならば対潜哨戒機か?だが潜水空母に都合よく搭載されているとも思えない。作戦始動まで約三週間だ、潜水空母を呼び戻し、航空機を積み替え、再度欧州まで戻る時間はない。


そんな思考をアンドリューがめぐらせていると、真正面に座る黒川が声をかける。


「迷う必要は無い、対潜哨戒機もすでに準備済みだ、たまには俺を頼れ。」


優しく語りかけながら黒川が前に前にと背を押し出す。顔を緩ませ、親友の相談に乗る友の様に、黒川はアンドリューの反応を待つ。


「お見通しか、だが問題は我が海軍が帝国海軍の後方支援だけで勝利できるかだ、なにせ今回の作戦に参加する戦艦はほぼすべて老朽化し始めている旧式艦ばかりだ。最新鋭のキングジョージ級、ヴァンガード級は配備が間に合わず合わせて5隻しか参加しない。帝国海軍による全面支援が必要になる可能性が高い。もし欧州派遣艦隊を参戦させるとして、何が必要だ?」


黒川はこの質問を待っていた。いや、誘導したと言っても過言ではないだろう。なにせ黒川は今アンドリューの友人として一面だけでなく、帝国軍人としてもこの場にいる。ならば、帝国のために友人を都合よく操る事も必要だろう。


「欧州派遣艦隊を出撃させるには本格的な宣戦布告が必要だろう。そこでだ、英国陸軍をドイツ国防軍にぶつけてほしい。そうすれば我が国も先の日英同盟に基づき、ドイツに宣戦布告をし、欧州派遣艦隊も身軽になる。」


最初から黒川の狙いはこれであった。黒川は海軍元帥でありながら陸軍とも深い関係でもある、この事は後に明らかになるだろう。故に海と陸双方に精通しており。英国陸軍がドイツ機甲師団にかなわないことは重々承知の上でこの話を持ちかけている。英国が劣勢になることで国民感情を同盟国の支援と援護にすり替えることでドイツへの進軍を正当化しようという腹である。もちろんそう簡単には行かないだろう、だがすでにドイツ国籍のUーボートを一隻拿捕しており、これを用いて日本国籍の民間船を撃沈するなどの茶番も必要に応じて展開する準備は済んでいる。だがこの作戦には致命的な欠点がある。それは英国陸軍が一週間以内にドイツ陸軍と正面を切って戦闘を行い、そして劣勢を演じられるかである。軍を動かすにはそれ相応の準備が必要であるのに加え、イギリス本国からドイツへ上陸させる必要がある。これだけでも一週間は優に超えるだろう。だが、黒川には秘策がった。


「フランスのマジノ線から出撃してフランス軍とともにドイツに進撃、3日ほとでマジノ線まで押し戻されて欲しい。」


「不可能だ。今フランスには最低限の連絡要員と大使館警備の為の一個中隊程度だけだ、それ以外はすべてフランス師、団、で、まさか」


アンドリューはそこまで自答した上で気がついた、黒川の秘策の根幹に。


「まさかフランス正規軍を英国軍と偽って進行させるのか?」


黒川がニヤリと笑みをこぼす。


「その通りだ。最初に言ったであろう?フランス軍と共にと。大使館とフランス各地に常駐している連絡や同盟強化の為の人員をすべてマジノ線に集め、フランス軍と共にドイツに進行して欲しい。加えて、フランス兵に英国式の装備と軍服を支給してほしい。たとえ英国がドイツに宣戦布告を行ったとしても、もし戦闘に参加している大多数の兵がフランス兵では欧州派遣艦隊の出撃理由としては少々弱い。今スパイ掃討作戦を行っているとは言え、日本内地の反戦感情を煽り、スパイどもが息を吹き返すかもしれないからな。英軍が戦闘に、それも大勢で参加している事実が必要なのだ。後はプロパガンダでどうにかなる。よく言うだろう?バレない嘘は真実を孕むと。どうだ、頼めるか?アンドリュー。」


「これは黒川司令直々に立案された作戦です、私からもお願い申し上げます。」


真木も黒川を援護すべく頭を下げるが、その言葉はアンドリューには届かず、彼は唖然としていた。完璧すぎる作戦だと。デメリットが一切なく、いずれ行われるドイツへの宣戦布告を最大限利用し、最適な時期にそのカードを切る。目の前の男は海の上だけではなく、陸の上でも最強なのかと。だが彼は知らない、この作戦は黒川司令が練り上げたのは確かだが、目の前の黒川司令が練り上げた訳ではないと。


「もちろんだ、陸軍は私の首を掛けてでも説得しよう。モンゴメリーも馬鹿では無い、君の作戦を説明すれば必ず納得するであろう、いや、納得させる。それでもしドイツ軍の防衛戦を突破した場合、3日ほど戦った後はそのまま引かせれば良いか?」


「それは難しいだろう。何せマジノ線の正面を守る第一軍はあのルントシュテット率いる軍団だからな。」


「そうか、ならばMI5に前線を突破したが押し戻されたとプロパガンダを広めさせよう。キングスリーなら一日で広めてくれるだろう。」


その後の「話し合い」は順調に進み、作戦名をドーンブレーカー作戦として日英両国による初の共同作戦となる運びとなった。そして翌日、英国はフランスと共にドイツに対し宣戦布告、第一次世界大戦が始まったのである。


そのころ、とある小国では意外な二国による共同作戦が行われようとしていた。




1939年 9月 10日 ポーランド共和国 首都 ワルシャワ 




ワルシャワの地下作戦指令室は絶望感に支配されていた。二百年前、ナポレオンの野戦砲による砲撃で戦場にもたらされた地獄は、時代の流れにより戦車へとその姿を変え、対戦車装備の乏しいポーランド兵にさらなる地獄を見せていた。


「クソ!!誰かドイツの装甲車を撃破したものはいるか?」


「いいえ、今日も敵装甲目標を撃破したとの報告は今日も上がってきていません。」


ナポレオンが用いた野戦砲と戦車の決定的違いは装甲化の有無である。もちろん移動速度や装填時間などもあるがポーランドに絶望を与えていたのはドイツ戦車を撃破不能たらしめる圧倒的装甲であり、進行開始から10日、ドイツ陸軍は一両も戦車を失わずに快進撃を続けていた。


「ちょうどいい、各軍報告を。」


ポーランド軍総司令官レイェフスキは興奮する部下を無視し、各所からの報告を受ける。


「まずは陸軍の報告です。先週突破されたビドゴシュチ要塞にドイツ陸軍の前線基地を確認、これに特戦隊による奇襲作戦を空と陸から行いましたが失敗に終わりました。加えて、この作戦に囮役として参加した第三軍は軍団長を含め文字通り全滅しました。これで我々に残された戦力は第五、第六、そして練成中であった第七軍の三個軍団です。」


「他の軍団は?」


「他の軍団は。。。第四軍団は軍団長による柔軟な遅滞戦と騎兵師団による機動防御を行うことで時間を稼いでいますがすでに損耗率は限界を迎えています。前線からは弾薬不足と悲鳴が上がっています。」


「第一、第二軍団は?」


「第一と第二軍団は。。。」


「全滅か?」


「はい、両軍団1000名ほどを残し全滅。すでにヴィスワ川を南下中ですあり、ワルシャワに到着次第、首都周辺の防衛に当たらせます。」


「予定到着時刻は?」


「今日中には到着するはずです。」


そこで、突然指令室の扉が開かれ鬼の形相で、焦ったように兵士が入ってくる。


「貴様!!会議中であるぞ!!ノックもなしに入ってくるとはポーランド軍人として。。。」


「ユゼフ君!先ほどからうるさいぞ。それより、報告を聞こう。」


先ほどから興奮状態の部下を再びたしなめ、レイェフスキは兵士に報告を促す。


「は!報告します!!ニエボルフの守備兵より前方にドイツ戦車隊を発見との報告です!加えて、マンシュタイン軍団のインシグニアを確認したとのことです!」


会議室は一瞬にして凍り付き、爆発的に騒がしくなる。


「なぜ戦車隊が首都近辺に現れた?」


「守備隊は何をしている?」


「前線が突破されたのだ!俺たちは終わりだ!!」


「貴様!それでもポーランド軍人か!?」


会議室は一瞬にしてパニック状態に陥り、皆が皆己の考えを声を大にして話し出す。だがそんな話声をも塗り替えるほど大きな音を立てながらレイェフスキの拳が机を叩く。


「黙らんか!!上に立つものが慌ててどうする?貴様らの動揺が下の者に電波するとなぜ分らんのだ!!」


レイェフスキの言葉で再び指令室に沈黙が舞い降りる。


「君、ニエボルフの守備兵との連絡はまだ取れるか?」


「いえ、報告中に無線が途切れた為突破されたと考えるべきかと。。。」


「そうか、下がってくれ。」


レイェフスキの命を受け報告に来た兵士は敬礼をし退出。開いたままであった扉が閉まった音を最後に、指令室には物音一つしないまま、時間だけが過ぎていった。ニエボルフは首都ワルシャワの西約80kmにある小さな集落であり、現代の車で一時間ほどの距離にある。80kmは広大な距離であるが機械化されているマンシュタイン軍団にマンシュタインの指揮が加われば通常は10時間かかる距離を5時間もせずに走破できる。加えて、前線維持の為にワルシャワには数千の兵、それも戦闘経験に乏しい兵しかおらず、ワルシャワ防衛は絶望的に思えた。


とたん、また一人の兵士が足音を響かせながら扉を勢い良く開く。


「報告します!!ワルシャワ北門の守備兵より未確認の部隊がヴィスワ川を南下して接近中とのことです!!」


その報告に、皆の顔に希望が戻る。


「第一軍と第二軍だ!!レイェフスキ将軍、行きましょう。今ワルシャワでまともに戦闘経験のある兵士は今向かってきている第一軍と第二軍だけです。我々は民兵を使い時間を稼ぎます、その間に将軍は第一と第二軍を再編成して正面のドイツ軍を蹴散らしてください。ルビンスタイン閣下が戻るまでの辛抱です。皆、ポーランド軍人としての意地をプロイセンのジジイどもに見せつけてやれ!行くぞ!!」


「おう!!」


先ほどまで再三レイェフスキに怒られていたユゼフ少将が皆を引き連れ指令室を後にする。ユゼフは若さゆえに感情的になりやすいが、同時に他の者の感情を引き出し、鼓舞する事に長けた期待の若手であり、レイェフスキも可愛がっていた。


「全く、あいつは本当に皆を動かすことに長けている。シュナイゼル、あいつについてやってくれ、死なせるなよ?あいつには俺の後、敗戦後のポーランドを任せないといけないからな。」


「は、」


そう部下に告げ、レイェフスキは立ち上がり部屋に留まった残りの部下を見渡す。皆笑っていた。


「では諸君、最後の宴を始めよう!」


「おう!!」




5時間後 ワルシャワ防衛線 最前線 ーランド側




マンシュタイン軍団接近の報を受け、すぐさま出撃したユゼフは順調に防衛線を構築、マンシュタイン相手に善戦していた。


「良し、第五班は後退!第二班を前に出せ!無理はさせるなよ、こっちは相手と違って兵士の補充ができないからな。」


戦闘開始から一時間、ユゼフはこの一時間でマンシュタイン軍に疲労が溜まっていると感じていた。それもそのはず、彼らはドイツ・ポーランド国境線を突破後一切停止せずに進行を続けてここまで来たのだから。加えて、道中ポーランド軍やパルチザンによる妨害も受けており、肉体的、精神的な疲労は確実にマンシュタイン軍を追い詰めていた。


「いいぞ、もっと死ね。レイェフスキ司令の軍団がこちらに来るまでに、少しでもドイツ軍をすり減らし、あわよくばマンシュタインを打ち取ってやる。」


「ヨゼフ君、君が命じられたのはあくまで防衛、レイェフスキ司令は君にマンシュタインを打てとは一言も言っておりませんよ。」


「シュナイゼル中将、それはわかっておりますが、出来る事ならやはりポーランド国民の為にもマンシュタインは打ち取りたいではないですか。敵将を、それもドイツ軍の最高幹部を打ち取ったとなれば、この戦争、我々に流れが傾く事もあるのではないですか?」


「それはあり得ません。」


そんなのんきな会話を続けられるのも戦闘開始から二時間が限界で、三時間、四時間と時間が過ぎていくと徐々に会話も減り、ポーランド側にも疲れが見え始める。


戦闘開始から5時間。


「レイェフスキ司令の援軍はまだか?そろそろ到着してもおかしくないと思うのだが。」


「確かに妙ですね。いくら第一軍と第二軍が全滅状態でも、再編成に10時間を要する分けがありません。」


久々の二人の会話に割って入ってくる声があった。


「報告します!ワルシャワ方面より、接近する軍団を確認しました!!」


「おおお、やっとか、で編成は?」


「わかりません、ですがこの丘の上からならば、もう少しで目視できると思われます。」


「そうか、ではシュナイゼル中将、レイェフスキ司令に会いに行くとしますか。」


ヨゼフはシュナイゼルに声を掛けてからテントを後にする。テント周辺の守備をしている兵士たちも援軍に喜びの声を上げる中、報告してきた兵士の案内を受け丘の頂上へと歩き、双眼鏡を手にワルシャワ方面へ頭を向ける。夜空に浮かぶ星空と、月の光が薄暗い平野を照らし、大勢の兵士がこちらに歩いてくるのがかすかに見える。


「ん?意外と数が残っているじゃないか、これなら本当にマンシュタインを打ち取れるやもしれんな。」


「いや、おかしいですね。報告では両軍団合わせて2000名程度のはずですが、目の前の軍団はどう見ても1千万前後です。。。」


突然、正面の軍団がピカリと光る。そして数秒後、ヨゼフとシュナイゼルの近くで爆発が起こる。


「な!!レイェフスキ司令!!我々は味方ですぞ!!誰か、レイェフスキ司令に無線連絡を!!」


「ヨ、ヨゼフ君。」


「何ですかシュナイゼル中将、今は何とかして指令に連絡を。」


また二人の近くで爆発が起こる、だが今回は二人により近いところに着弾している。


「ヨゼフ君、あの旗は。。。」


シュナイゼルの言葉にヨゼフは人込みの中から何とか旗を探し出す。


「どうしたのですかシュナイゼル中将、あの旗は我が国の旗ではないですか?下が赤で上が、、、赤い。」


ヨゼフが最初に見えた旗は月の光に照らされ上が白く見えていた。だが、風に流され全体がよく見える様になったその時、ヨゼフは恐怖に、怒りに、絶望に支配されていた。その旗は、大勢の同志の血で赤く染め上げられ、黄金に輝く鎌と槌が小さく左上に存在する、ソ連の国旗であった。


ここに、ワルシャワ防衛戦と、ポーランドの命運は決したのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る