第2話 『古びたレターケース』ー1
古道が異世界の
しかし、古道はあれ以来普段使いしている懐中時計を見るたびに体験した出来事を思い出し、中途半端な現実感の中もやもやした日々を過ごしており、それは日々のリサイクルショップ巡りにも現れているようで、行きつけの店『月島リユース』の店長に愚痴交じりに絡む古道の姿があった
「それで、月島の旦那さー……同業でそんなお店の話聞いたことないかなあ?」
「こらこら、俺の店でそんな行きたそうに他の店の事話すんじゃねーよ。店にゃ心当たりはねえし、そんな浮気者には今日入った掘り出しモンは出してやれねえなあ。」
「えっ、わわわうそうそ!月島リユース最高!よっ、商売上手!頼むよ旦那見せておくれよー!」
「ったく、しょーがねえなー待ってろ。」
月島は多少の意趣返しが成功して少し満足げな顔で店の奥から一つの箱を持ってきた。アタッシェケースにしてはずいぶんと小ぶりで表面は皮で加工されており、持ち運びができるように取っ手がついている。古道が手を伸ばし箱に触れると、中からは何かが転がる振動が手に伝わってくる。箱を開けようとして鍵がついていることに気が付くと顔を上げて月島に言葉を投げる
「旦那、こいつは?」
「同業から流れてきたもんなんだけどよ、故人の遺品整理で持ち込まれたものの中にあってな?レターケースらしいんだが、ちょいといわくつきの品でな。」
「へえ……?」
古道は改めて箱、もといレターケースをまじまじと色々な角度から見ていると、鍵穴を見つけたタイミングで月島が古道の前に小さな鍵を差し出した。これを使えということなのだろう、手の内に迎えた小さな鍵は保管されていたというには少し温かさを強く感じる。鍵穴の方向と手元ののカギを合わせながら古道がぼやく
「ちょっと旦那、どんだけこの鍵握りしめてたのさ。えらく
「ん?鍵はさっきまで引き出しにしまってたからそんなことないはずなんだが……まあ、とにかくこいつがいわくつきなのは鍵を入れて回しても開かな」
「お、開いた。……え?旦那なんか言った?」
驚く月島に薄いリアクションを返しながら中を改めてみると入っていたのは封筒と、まだなにも書かれていない手紙にインクと羽根ペン、最後に棒状のものが二本。これが鍵の開いたレターケースに入っていた全てだ。古道が棒状のものを取り出して眺めていると、月島が声をかけてくる。
「開くのかよ……元の持ち主の家族にも、俺やほかの連中がやっても鍵穴が滑るばっかりで暖簾に腕押しだったんだが。んー、中身は確かにレターセットみてえだな。」
「鍵自体は割と普通の感触だったけどなあ?それにしても、手紙セットはともかく何だこりゃ」
「あー、お前さんくらいの世代じゃあんまり馴染みがないか。そいつはシーリングスタンプってやつだ。溶かした蝋で手紙を封するための道具さ。あ、そうだ中の手紙!なんか書いてある手紙あるか?」
「え?……うーん、何か書いてありそうな手紙はないね。どうしたのさ」
「あー、いやなに、中に何か書いてある手紙があったら知らせてほしいって言われててよ」
古道は中にいくつか入っていた手紙の封筒や用紙として入っていた紙をパラパラとめくってみるが、いずれもこれから文章がつづられるのを待つように罫線が整列しているだけだった。歯切れ悪く答えた月島は少し肩を落とした様子を見せながらも商売人の目で古道にレターケースの価値を話し始める。
「最近電子メールでのやり取りばかりになりつつあるが、やはり手書きの手紙ってのは貰ってもんだ。何かの縁かもしれんし、故郷の親御さんに手紙でも書いちゃどうだ?誰にも開けられなかったものを開けたってことで安くしとくからよ。」
「う~~ん……」
家路を歩く古道の手には先ほどのレターケースが提げられて歩調に合わせて前後に揺れていた。商売上手な月島に押し切られる形で引き取ったが、手紙を手書きするなんて授業で郵便局のまねごとをした以来だという昔の記憶を呼び起こしていると、先日里帰りをした時にあった両親の顔が一緒に思い返される。
「まあ、帰ったらちょっとやってみるか。羽根ペンで文字を書くなんて初めてなんだが、どうやって使えばいいんだろうな」
そうつぶやく古道の手の中でレターケースから物音がしたが、その小さな音は夜の喧騒にかき消されたのだった。
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