第5話 詐欺事件

「確かに、そこまくれば、明らかに悪質だということだよな。でも、一度見つかったのに、そう何度も同じやつを受け子で使うというのも変だよな」

 と柏木刑事は言ったが、

「それはそうかも知れないが、ひょっとすると、やつは受け子というのがカモフラージュで、実は詐欺グルー王の中でもスタッフのような役割だったのかも知れないな」

 と、桜井刑事がいうと、

「なるほど、受け子の元締めのような感じだとすると、分からなくもないが、そう考えると、その組織というのは、それなりに大きな組織ではないかとも思えてくるんですよね。そういう意味では、詐欺グループの多様化であったり、いろいろな考え方として、やつらもいかに警察の目を逃れて、大きな仕事ができるかということを目論んでいるということになるんでしょうね」

 と、柏木刑事は、言いながら、頭を掻いていた。

「こうやって、被害者にならなければ、やつが詐欺グループに加担していたことも分からない。だが、そんなやつの死体を隠すことなく放置しておいたということは、やつの身元がバレて、それで、警察に干渉されてもそれでもいいと思ったということは、どういうことなんだろうね。死体を発見させる理由はさっき言っていたように、誰かに恐怖を与えるという意味で、脅迫が絡んでいるということでしょうかね?」

 と桜井刑事がいうと、

「すでに、今、誰かが脅迫を受けているのかも知れないし、死体が発見されて、ニュースになってから、脅迫を受けることになるのかも知れないが、犯人の動機は、やはり詐欺を受けたことへの復讐が一番考えられるのではないでしょうね? 少なくとも一人殺されているのは確かなんだ。殺人事件である以上。捜査に妥協はないのであって、警察はそう簡単にあきらめることなどないことを、犯人も分かっているんじゃないでしょうか?」

 と、柏木刑事は言った。

「なるほど、そういうことかも知れないな。ところで、被害者が売り子をやっていたという詐欺グループの最近の動向はどうなんだい?」

 と聞かれて答えたのは、隅田刑事だった。

「それが、今は結構大人しくしているということです。以前は振り込め詐欺のようなことをやっていたようなんですが、一度捕まってから、しばらく大人しくしていたんですが、性懲りもなく、またやって捕まっているんですよね。調書によると、しばらく何もアクションを起こしていなかった時期は、本当に大人しくしていたようで、彼らが関わっているような事件は、どこからも発生していないということでした」

 と、報告を入れた。

「うーん、そうなると、少し気になることがあるな」

 と、桜井刑事が言った。

「どういうことですか?」

「一度大きなヤマを踏んで、それに失敗したから、逮捕されて、取り調べを行ったから、調書が残ってるんだよな? その後、しばらく静かにしていて、実際に彼らの関わっているような事件はなかった。そして、ほとぼりが冷めたとでも思ったのか、別の詐欺事件を起こして、結局逮捕されることになってしまった。ということは、やつらって、検挙率は百パーセントということになるわけだよな? ずっと失敗している。それでも、詐欺を繰り返すというのは、どういう心境なんだろうな」

 というのが桜井刑事の疑問だった。

「なるほど、そうかも知れませんね。でも、それは我々警察の立場から見たことであって、やつらの側から考えると、ここまで間抜けに見えてしまうことを繰り返すというのもおかしなことですよね? ひょっとすると、詐欺グループの中に、内偵者がいるのではないのですかね? スパイのような人がいて、逐一警察に情報を流しているようなですね。そう考えると、事件が簡単に明るみに出るというのも分かる気がするんですよね」

 と、柏木刑事が言った。

「うん、それは十分にありえることなのかも知れない。だが、その内偵者というのは、警察機関の人間なのか、犯罪組織側での、同業他社的なものなのかは、定かではないんだろう?」

 と桜井刑事がいうと、今度は横から隅田刑事が口を挟んだ。

「ええ、確かに、警察内部での内偵者がいたとしても、彼が何か行動を起こすということはないと思います。あくまでも、彼は犯罪グループを検挙するための、証拠を探っているわけで、警察が自ら組織に対して何かをするということはありえません。だからこその内偵なのであって、内部から、捕まるように手引きするというのは、よほどの動かぬ証拠が揃っていない限り、警察の逮捕に内偵者が絡むということはないでしょうね? そんなことをして、せっかくの証拠が証拠でなくなったりしたら、裁判でひっくり返されたりしますからね」

 というのだった。

「ということは、どう解釈すればいいんだい?」

 と柏木刑事が聞くと、

「ハッキリとは分かりませんが、彼らの中に、警察に通報しているような人がいるのは確かだろうと思うんです。でも、それは別に警察に協力しようとか、犯行グループを欺いてやろうとかいうそういう思惑ではないような気がするんですよ」

「じゃあ、どういう思惑だと?」

 と柏木刑事が聞いた。

「僕の考えでは、犯罪グループに入ってはいるけど、その人は他の連中とは違う目的で入っていると思うんです。何かを探るためなのかなのでしょうが、そうなると、密かに行動している連中にとって、決して余計な犯行は困るはずなんですよね。だから、考えられることとしては、両極端な二つの考え方。つまり、これが彼らにとっての本当の目的であり、まだ序曲かも知れないと思うと、ここから本当の何かが始まるということですね。そして、これ以降何も起こらないのであれば、彼らの目的は別にあるとして、決して表に出ようとはしないと思うんですよ。そういう意味で、想像を巡らせても、正解が出るには、場面が一歩でも二歩でも進まないと出てこないと思えるんです」

 と、隅田刑事は言った。

「ところで、やつらの詐欺の理念というか、理想とするものって何なんだろうね? 昔であれば、スリをするような連中にはそれなりにモラルがあったりしたものだけど、詐欺グループのように組織化してしまうと、よほど統制が取れていないと、うまくいくものもうまくいかないですよね。殺人などの犯罪だって、計画的にやろうと思えば、共犯者が多い方が実行には移しやすいが、発覚する可能性もそれだけ増えることになる。共犯者を増やすというのは、リスクを伴うということにも繋がると言ってもいいのではないでしょうか?」

 と、柏木刑事が言った。

「そもそも詐欺というのは、単独で行うということは難しい犯罪だと思います。不可能と言ってもいいかも知れない。詐欺というのは、基本的に、騙している相手に対して、自分をいかに信じ込ませるかということが大切だと思うんですよ。そうじゃないと、相手が騙されてはくれませんからね。詐欺というのは、相手に自分を信用させるところから始まります。誰かを信じさせるのに一番有効な方法は、自分たち以外の利害関係のない、第三者に認めてもらえれば、一番効果があるわけですよね? だから、そのさくらになるような誰かを仲間に引き入れる必要がある。そういう意味で、単独犯というのはあり得ないということなんですよ」

 と、隅田刑事が言った。

「隅田くんは、やけに詐欺犯罪に対して詳しいじゃないか」

 と、柏木刑事に皮肉っぽく言われた。

「私の警察学校時代からの友達が、詐欺グループの捜査を結構しているので、よく話を聞いていたんです。だから、気持ちはよく分かっているつもりなんですよ」

 と言った。

「なるほど、それで納得したよ。君が真っ先にこの犯罪グループのことを調べたのも、指紋から割り出された前科を見て、すぐに考えたことだったんだね?」

 と柏木刑事に言われて、

「ええ、まあ、そんなところです」

 と、照れ臭そうに言った。

 ただ、柏木刑事としては、これを隅田の手柄だとは思っていない。むしろ、隅田刑事がどうしてここまで詐欺グループに対して前のめりというか、積極的なのかが不思議であった。

「ところで桜井刑事。この事件の発覚は、通報があったからの出動ということですよね?」

 と柏木刑事に聞かれて、

「ああ、そうだよ」

 と答えた桜井刑事に対して、

「その通報って、どうしてなんでしょうね? 鑑識の話では、犯行から三時間後くらいだったというわけですよね。その空白の三時間というのは何なのでしょうね? 通報者が何も知らずにやってきたというのが、ちょうどその時間だったということでしょうか? だとして、本人に何か後ろめたいことでもなければ、通報者はその場にとどまるはずですよね? しかも、こんな普段誰もこないようなところではないですか。もし、通報者に時間がないのだとすれば、通報を断念してもいいわけですよね。わざわざ通報していなくなれば、犯人としての第一容疑者になってしまうということが分からなかったんですかね?」

 と言われ、

「電話をしたのが、公衆電話ということが気になるんだ。逆探知されないだとか、ケイタイだと番号から位置情報が分かるようなことを警察にされてしまうと、厄介ですからね。でも、警察がそんな個人情報の保護に真っ向から歯向かうようなことをするとは思えないので、わざわざ公衆電話にしたということは、身元がバレないということだけを意識したからではないですかね」

 と、桜井刑事は答えた。

「でも、もう一つ気になるのは、そばに倒れている女性がいるのだから、そのまま放っておくというのもおかしな気がするんですよ。生きているのが分かっていたのだったら、救急車も一緒に呼ぶはずだと思うんですよね。それをしなかったということは、彼が通報した時には、彼女はあの場所に放置されていたわけではないということなんでしょうね」

 今度は、隅田刑事がそういった。

 隅田刑事は時々、結構的を得たような話をすることがある。今回も、

「通報があった時、その場に女性が倒れていたわけではないのではないか?」

 という考えは、柏木刑事も桜井刑事もおぼろげながらに持っていた。

 しかし、決定的な意見が通っているわけでもないので、頭の片隅に置いておく程度しかないのかと思っていたが、隅田刑事の助言ということもあり、その発想はかなりの信憑性を孕んでいるように思えてならかかったのだ。

「じゃあ、彼女があの場所で気を失って倒れていたということはどういうことになるんでしょうか? 犯人にまずいことを見られたということであれば、一人殺しているんだから、彼女を生かしておくというのは命取りになるはず。すでに犯人が目的を達成していて。、自分はもうどうなってもいいという考えでいるのか、それとも、他の犯罪とは別に、彼女に対しては恨みも何もないので、殺すに忍びないというのか、それとも彼女のことが好きで、殺してしまうなど、どうしてもできないという考えがあるからなのか、この三つのうちのとれかではないかんでしょうかね?」

 と、柏木刑事が言った。

「ということは、柏木刑事の考えとして、白鳥さんが犯人であるということは、百パーセントないと言いたいようだね」

 と桜井刑事に言われて、

「いえいえ、そこまでは言っていないです。ただ、可能性としては、限りなくゼロに近いと思っています。ただ、主犯ではないという意味で、さっき共犯者の存在を示唆したではないですか。共犯者という意味では、彼女こそ一番怪しいと言えるのではないでしょうか?」

 と、柏木刑事は答えた。

「なるほど、共犯者だから、主犯に誘導されて犯罪に加担したが、先ほども言ったように、共犯者の存在がリスクになることがあるわけなので、共犯者をいかに処分するかということが問題になる。そういう意味で、彼女が共犯者ではないという視点を警察に植え付けておいた上で、共犯者を再度どうするかということを見極めることができるのではないかと言えるのではないですかね」

 と、桜井刑事が言った。

「ただですね。彼女は被害者と面識があるわけでしょう? 会社で一緒に仕事をしている仲であり、相手が考えていることもある程度くらいまで分かるくらいの関係性だとすると、そんな彼女を共犯者に引き入れるというのは、普通に考えて難しいのではないでしょうか?」

 と、柏木刑事がいうと、

「じゃあ、彼女は何のためにあそこで記憶を失ってまで、気絶させられていたというのかな? 犯人にとってのアリバイ作りなのか、それとも、彼女でないといけなかった何かの理由があったということだろうか?」

 と、桜井刑事は独り言のように呟いた。

「じゃあ、彼女は共犯者などではなく、犯人にただ利用されただけと考えるのはどうなんでしょうね? 記憶を失うくらいにショッキングなことがあったということであれば、彼女を共犯者だと考えるよりも、むしろ、彼女も被害者の一人だったと考える方が自然だし、犯罪を犯していれば、彼女が何を喋るか分からないわけなので、気を失わせたのであれば、そのまま拉致する方がいいのではないかと思うんですよ」

 と、柏木刑事が言った。

「今度の事件において、今までの登場人物の中に、犯人っているのだろうか?」

 と、柏木刑事が言った。

「事件って、進んでいくうちに、容疑者が増えてきて、出来ったところから誰が犯人かをふるいにかけているわけで、今回は、まだそのふるいを使う全然前の状態ではないかと思ってですね」

 と、隅田刑事が言った。

「確かにまだまだ分からない部分が多いから、これから犯人と思える人が何人も登場するということになるんだろうね」

 と桜井刑事が言った。

「私だって刑事の端くれ。それくらいのことは分かっているつもりだったのに、きっと、脇の部分が少しずつ埋まってきていることで、ある程度のところで事件の輪郭が見えてきたような錯覚を帯びてきたから、そんな風に思ったのかも知れない」

 と、柏木刑事も反省するかのようにそう呟いた。

「被害者と一緒に発見された、白鳥さんという女性は、どうなりました?」

 と桜井刑事が聞くと、

「彼女は、あれから救急車を呼んで、私が一緒に病院に付き添いました。外傷としては、目立ったものはなかったんですが、何しろ、死体の近くにいたということもあって、犯人に何かされていないかということで、一応精密検査を受けて、少し入院してもらうことにしているということです」

 と、隅田刑事が言った。

「入院に越したことはないと思うけど、そんなに容体が悪かったのかな?」

 と桜井刑事が聞くと、

「そんなことはないんですが、何しろ一部とはいえ、記憶を失っているわけですから、医者とすれば、精神的なショックがあったのではないかということで、このまま帰すのは危険だと考えたようですね」

 と、隅田刑事は言った。

 隅田刑事も、以前、捜査の途中で犯人に頭を殴られて、一時的な記憶喪失に至ったことがあった。

 その時、記憶を取り戻そうと頭を使った時、強烈な頭痛がしたのを思い出した。

「あの時、このまま、何かを少しでも考えようとすると、ずっと頭痛に苛まれてしまうんじゃないかと思い、記憶を失くしたことよりも、そっちの方が怖くて、このまま刑事を続けられなくなればどうしようって思ったくらいなんです」

 と言っていたのを、柏木刑事は思い出した。

 警察官の仕事は、犯人が誰だか分かって、犯人の身柄を確保するところまでは一つの仕事である、そのためには、必死で逃げようとしている死に物狂いの犯人との格闘も、当然ありうることであり、その際に負傷することも、最悪、死んでしまうこともないとは言えない。自分ではなかったが、一緒に捜査をしていた隅田刑事に、自分がいるにも関わらず助けられなかったことを、今でも柏木刑事は後悔している。

 それだけ、柏木刑事は部下に対して義理堅く、自分の中では勧善懲悪の精神が燃え滾っていると言ってもいいだろう。

「それにしても、今度の殺人事件に、被害者が絡んでいたという詐欺集団が、何か関わっているのか、関わっているのだとすれば、どこで繋がってくるというのか? さらに、被害者ともう一人の被害者と言ってもいい、白鳥さんとの間に、会社の同僚という以外で何か関係があるというのか? そのあたりから事件を見ていく必要はあるんじゃないかな?」

 と、桜井刑事は言った。

「そうですね。そして今のところカギになるのではないかと思われるのが、白鳥さんの失ってしまった記憶ですよね。その記憶が、犯人に殴られた時のショックで失った記憶なのか、それとも自分が見た光景にショックを受けたか何かで、自分から記憶を失ってしまったということなのかによって、思い出す記憶も違ってくるのではないかと思うんですお。どこまで回復できているか、それもカギになると思いますね」

 と、柏木刑事が言った。

 確かに、記憶というのは、失うにはそれなりの理由があるのだが、失った経緯によって、思い出せる部分も変わってくる。

 実際にある程度思い出したとして、それが途中経過なのか、それとも、思い出せるのが、そこで限界なのかということは、きっと本人にも分からないだろう。

 本人に分からないことをまわりの人に分かるはずもない。その時の本人としては。

――もうこれ以上思い出すことなんかできない――

 と感じているのだろうか?

 そのあたりにあるのは、個人差なのか、それとも、皆共通したものなのだろうか?

 柏木刑事はそれを個人差だと思っているようだが、桜井刑事は、逆に皆共通したもののように感じているのだった。

 二人ともとても優秀な刑事なのだが、柏木刑事がどうしても桜井刑事に追いつけない理由がそのあたりに隠されているような気がする。

 とにかく、勧善懲悪というれっきとしたビジョンが見えていて、そこに対して自分の見解を広げて行こうとする柏木刑事に、全体的にまわりを見ることで、自分が警察機構の一部であることを理解し、さらに高みを目指そうとしているのが、桜井刑事である。

 出世することと、警察官としての意識をしっかり持っているということとは、両立できないような気がしていた。

 出世できていないが、柏木刑事のような考え方は、部下から慕われ、上司からは、うまく利用されがちになるだろう。

 実際に、

「自分たちが目標とする上司は誰ですか?」

 と聞かれた時に、

「柏木刑事です」

 と答える部下が圧倒的に多い。

 もちろん、桜井刑事を推す人もいるのだが、彼らが推す理由としては、

「いつも冷静沈着で、論理に基づいた捜査のできる人であり、全体を見渡して、まわりをまとめることにかけては、唯一無二の存在だと思うんです。事件の解決には、桜井刑事のような人がいなければダメだと思うからですね」

 という意見が多かった。

「今回の事件に関わっているかどうか分からないが、例の詐欺集団が殺人の動機になる何かを知っているかも知れない。そのあたりを中心に、捜査することも必要な気がするんだよな」

 と、柏木刑事は言った。

 さすがに勧善懲悪の精神からか、柏木刑事は、このような非人道的なくせに、なかなか撲滅に至らない連中に対して怒りを覚えている。それは、ヤクザに対して感じている思いと変わらないくらいだった。

 特に最近では、

「今の世の中一体どうなってるんだっていうんだ」」

 と愚痴をこぼすことが多くなった柏木刑事だが、そんな柏木刑事を見ながら、

―ー柏木さんがあれだけ愚痴をこぼしている世の中なんだから、本当にどうしようもない連中が蔓延っている時代なんだろうな――

 と、漠然と考えているのが、隅田刑事だった。

 特に最近の柏木刑事は、犯罪を犯した相手であれば、自分たちが解決に向けて動くことができるが、明らかに悪だと分かっていても手を出すことができない大きな組織に対して憤りを感じているようだ。

 もっとも、これは柏木刑事に限ったことではなく、今は国民のほとんどが感じていることではないだろうか。

 というのは、相手が政治家であり、その組織が政府であったり、国会であったりする。とても太刀打ちできる相手ではない。

 今までであれば、指示できない連中がたくさんいても、指示する連中が盾になって、政府を守るというような構図もあったのだが、今の政府を支持しているのは、国民ではない。昔からの与党の、「信者」と呼ばれるような連中で、彼らをとても、一般国民と一緒にしてはいけない。

 信者という言葉のとおり、政府というカルト教団に身も心も捧げたような連中で、そこには闇しかない。

 だから、政府を擁護する一般国民は存在しない。しかしそれでも、やつらが、政府としてのさばっているのは、

「他にマシな人がいない」

 というだけのことである。

 他の人にやらせるのが怖い」

 というだけのプラス思考がまったくないこの世情において、悪くなるという事態を少しでも遅らせるという応急処置的な政治しかできないような世の中に、一体いつからなったというのだろうか?

 政府が方針を示す時でもそうだ。方針を書いた原稿を淡々と首相が読み上げるだけで、しかも、原稿を読むのだから、下手くそな代弁であり、しかも、心が籠っていない棒読みになってしまう。当然読み間違いや、読み飛ばしなども頻繁で、その内容には、方針に対しての理由や決定に際しての過程がまったく記されていないのだ。

 そんな状態で、誰が首相のいうことなど訊くというのだろう。同じ答弁に終始するだけで、説得力などあったものではない。勧善懲悪の柏木刑事には、とても承服できるものではない。

 口に出すことは絶対にできないが、

「あんなやつ、くたばってしまえばいいんだ」

 というくらいの怒りに震えているのではないだろうか。

 そういう意味で、反政府組織のような連中も許せない。それは政府を擁護しているわけではなく、反政府というほど、政府が強いわけではなく、目標を失った組織が次に目をつけるのが、何の罪もない一般市民である。

 そのような事態にしてしまったのは、弱体化した政府にも責任がある。そう思うと、愚痴をこぼしたくなる連中が爆発的に増えたというのも分からなくもない。

 柏木刑事の愚痴が少しでも少なくなるような、豪圧ではない国民のためになる、強い政府は、今後できるのだろうか?

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