状況を飲み込む休息
「急にデスゲームに参加させられて、しかも寝たら死ぬってなんだよ。信じられない。そして冷静な奴も信じられない。どうしてそんなに混乱しないんだよ」
未だ納得はしていないようで、嘆いている。混乱している人は彼女以外にも多数いるため、自分の都合だけ考えてはだめだなと思った。
「じゃあとりあえず状況の把握と心を落ち着かせるためにも、休息を取ろう。主催者側はこちらに何もしてこないようだし、一時間くらい休息を取ろう。自己紹介とかの続きはその後にしてな」
僕はそう提案して、一旦休息をとることにした。(僕は別に要らないけど)
さっきまで自分の席から誰も立ち上がらなかったのだが、みんな自由に動き回っている。
心を落ち着かせようとしている人もいれば、脱出を試みている人もいる。まあ、多分脱出するのは不可能なんだろうけど。
僕はさっき確かめられなかった天井に手を伸ばした。
しっかりをした素材で、硬い。壁の素材とは正反対だった。そのためこの壁で支えられるのだろうかと思ってしまった。天井が降ってきたらどうしようと考えてしまう。
――まあ、ないとは思うが。
大声を出して周りに聞こえたら誰かが来て救助されるかもしれない。主催者もそう思って壁を厚くしているだろう。というか、壁は表面は柔らかめだが、内側は固い素材だろう。……うん、そうだろう。
そう自分に思い込ませ、少しよぎった可能性は杞憂であると自分自身に言い続けた。
僕はさっきも言ったとおりに休息は要らない。こんな施設そもそもデスゲームくらいにしか使われなさそうだし、その上みんなが騒いでいた、デスゲームだと主催者が言った時に僕は冷静に状況を把握していた。(壁や床の素材を確かめるくらいには)
まあ、そんなこんなで僕はおとなしく椅子に座っていた。
周りに目を向けず、この後するであろう自己紹介の内容を考えていた。
多少眠いとも思ってきたが、さすがにどうなるかわからない今は寝れない。ただ少しづつ歩み寄ってくる睡魔から目をそらし続けた。
「すみません、ちょっといいですか?」
急に僕に向かって放たれた言葉は意外なものであり、反応が遅れてしまった。
「……あ、はい。なんでしょうか」
「いえ、ちょっとボーっとしているなと思ったので話しかけてみただけです。私も今だんだん現状を受け入れてきて、暇になったもんで、よかったらお話しませんかと」
彼女は僕が起きた後に話した、石川さんじゃない方の人だ。
「まあいいですけど」
「ありがとうございます。えっと……不便なんで先に名前を教えてくれますか? ちなみに私は
大方予想があっていたので、少し嬉しくなりながら答えた。
「蘭さんね。僕は雷夢砦です。二十三歳な」
「ありがとうございます……砦さん。で、いいですか?」
「いいよ。別に名前でも苗字でもいいですよ」
「はい。あの、疑問に思ったんですがなんで砦さんは死んでもいいと思ってるんですか?」
「……詳しくは自己紹介するときに言おうと思ったけど、簡単に言うね。僕は学生の時は普通に人生を送っていて、楽しかった。ただ、友人に裏切られてお金をたかられて、生活保護を受けても手元に金は残らない。そんな生活を送っていると、いつの間にか死んでもいいと思うようになった。死にたいとは思わないんだけど、ただ、死んでもいいなってね」
「……そんな過去があったんだ」
「別に気にしなくていいよ。気にされるとお互い気まずくなるからさ」
「うん、ごめん。本当に大丈夫? 今日出会ったばかりだから言えることじゃないけどさ、砦さんは優しい性格してそうだし、辛くなったらため込まないようにね」
「ありがとう。今は大丈夫だから……」
会話に夢中になっていたらいつの間にか眠気は冷めていた。蘭が睡魔を吹き飛ばしてくれたことに感謝した。
「もう無理! 寝てやる!」
二十分後くらい後に急に聞こえてきた声に僕はびっくりした。
まだ僕は話したことのない相手だったが、急に声をあげたのでとてもびっくりした。
そして内容にも。死ぬかもしれない行為――寝る――をしようとしているのだ。
「やめとけ。どうなるかわからないだろ!」
僕は叫んだ。
休息も残り十分くらいのことで、みんな困惑している。
僕はまだ困惑しつつも反応が取れるレベルだったので、すぐに否定の言葉を送った。
「眠いんだよ! 昨日はほとんど寝てなかったし。しょうがないだろ。俺は寝る!」
吐き捨てるように言い、ベッドに飛び込んでしまった。
この場にいる全員の時が止まったように、みんな固まっている。もちろん僕も。
そうして一人寝てしまった。永遠と判断するには早いだろうか?
幻月の見えたあの七日間を ~寝たら死ぬデスゲーム~ 塔架 絵富 @238f_peng
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。幻月の見えたあの七日間を ~寝たら死ぬデスゲーム~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます