自己紹介・石川太郎
「じゃあ、発案者の私から自己紹介していこう」
僕はそれに耳を傾けた。つまらない話だと眠たくなってくるので、面白い話を期待しながら。
◇◆◇◆◇
まず名前から伝えないとね。
私の名前は
学校の新学期みたいな自己紹介はしてらんないけれど、これだけだと味気ないだろう? だから私の置かれている状況だとかと聞いてほしい。皆が同じように語ってくれたら、このデスゲームに参加させられている私たちにどんな共通点があるのかが分かるからな。別に語ってくれなくていいけど、私は自分語りをするよ。
まず私は職を持っていないんだ。正確には職を持っていたが今は持っていない、だが。
私は元々、大企業の社員だった。何かと色々と出来た私は大企業で成功を収めていった。
学生の時から頑張り続けていた。努力し続けていた。だから、報われるのは当然だと思っていた。実際報われていたし、お金にも困らず、裕福な生活を送っていた。
ただ、そんな生活が十年ほど続いた頃に衝撃的な爆弾が落とされた。
「石川さん、とても申し上げにくいのですが、あなたを解雇します」
社長に呼び出されて言われた言葉は私の心を強く揺すぶった。
元々私は感づいていた。この世の中、今となれば機械をうまく使えないと仕事すらままならなくなる。私は機会が苦手だった。どうにかしてタイピングはできるようにした。ただ、それだけじゃ足りなかった。他の技術を持っていないと面倒で時間がかかる。会社も機械をたくさん使うようになり、私はどんどん仕事が遅くなっていった。かつては優秀だった私も若手に追い越されていき、無能となった。
社長に理由を訊いてみたが、やはり前途の通りだった。
そうして私はいつしか、無能な――社会のごみになっていた。
自覚してからは辛い日々を送っていた。新たな会社の面接を受けても、同じことを言われるだけだった。
貯金はあったので少しの間は普通に生活できた。ただ、いつしかその貯金も枯れていく。その前に内定をもらいたかった。
しかし、私に期待をしてくれる企業もいない。みんな、私を見捨てた。大企業時代に夢見ていた、結婚も遠ざかっていくばかり。面接で酷いことを散々言われた。
そうして私のメンタル、心は削られていった。
「なあ、お前さ、最近どうした?」
「え? 別にどうもしてないけど」
友人と会った私は一番にそれを訊かれた。
「んなわけない。なんか表情も硬くなったし、テンションも低いし、明らかにいつもと違うだろ」
核心をついてくる友人に私はすごいなと感心した。
「……そんなにわかりやすいか?」
「まあ、お前さんのことよく知ってる人ならだれでも気づきそうだが。んで、結局どうしたの?」
「ちょっとね、会社をクビになった。いろいろ理由はあると思うが、一番は今の時代の機械についていけなくて、無能になったからかな。私は社会のごみだし」
「なんでそんなに卑下するの? 石川は良いやつじゃん。無能だなんて……ごみだなんて嘘だよ。もっと自信を持ってよ!」
訴えかけるような涙目で言ってくる友人に、私は嬉しくなった。
――まだ私は生きる希望がある。彼のためにも生きよう。
そう思えた。
しかし、その数日後に絶望することとなった。
私の生きる希望となった友人が亡くなったとの連絡が入った。
最初は嘘だと思った。ただ、本当だったようで、私は葬式に行って実感することとなった。
「なんで、死んじゃうんだよ」
葬式でぽつりとこぼした言葉に返事は一生返ってこない。友人が死んだ理由は交通事故だそうで、向こう側の責任しかなく、友人は圧倒的に被害者だった。
そうして私は生きる希望が無くなったんだ。
いつの間にか貯金はなくなった。強いストレスのせいで、お金をどんどん消費していた。
「あああああああああああああああ!!」
家賃を払えなくなり家から追い出されてしまった私は、今までに出したこの無いような叫び声をあげた。周りの視線なんか気にしている暇などなかった。
生活は苦しくなっていった。生きるのに絶望していった。死にたくなった。生きたくなかった。友人を返してほしかった。私を認めてほしかった。何もかもほしかった。
――もう私は生きるつもりはなかった。
人通りの少ない深夜のタイミングを見計らい、橋の縁に立った。
もう、この世にお別れだ。
そう思って飛び降りようとした。
しかし、しようとした瞬間首をつかまれて、気を失った。
そして目が覚めたらここにいた。
悲しい話をしてごめんな。他にこういう境遇の人がいたらいいなと思って話しただけだからごめんな。
これで私の自己紹介を終わるよ。
◇◆◇◆◇
石川さんの自己紹介を聞いてから僕は、共感をあり得ないほどし、久しぶりになんかいい気分になった。
こんなんでいい気分とか言ってるのはよくないと思われそうだが、実際この共感に変えられるものはなかった。人間とはそういうものだ。
「石川さん、自己紹介ありがとうございました」
「いえいえ、全然。色々話せてこちらとしても良かったので」
「そうですね」
そんな会話を二人でしていると、横からとある人が言った。
「何で二人ともそんなに冷静なの? パニックになるでしょ。私たちみたいに」
「死んでもいいと思ってるから? かな」
答えても納得していない様子でこちらを見つめてきた。
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