第1章ー3話 飛べにわとり

 それからは毎日飛ぼうとして練習していた。だけど、一週間経った時に気づいた。

 “にわとりなんだから飛べるわけない”と。


 それから数日間練習はしなかった――鳥三郎以外は。

 鳥三郎が練習しているところを見つけるといつも、「にわとりだし絶対飛べないよ」と、鳥空と言っていた。

 それでも鳥三郎はずっとやり続けた。

 鳥三郎は飛べると信じていた。


 そんなある日……

「今日はこれでラストにするか」

「よいしょ」

「ジャンプ!」


「えっ?」

「……」

「えーーーーーっ!」

 そのとき、にわとり地区全体に響き渡るほど大きな声がした。その声を辿ると、そこには鳥三郎がいた。ただし、予想外な姿で。

「やったあ! 飛べるようになった!」

 そう、飛んでいたのである。

「鳥三郎さん! 前は嫌になるようなこと言ってごめんなさい。あと、僕たちにも教えてください」

 打ち合わせもしていないのに、一言一句タイミングまでばっちり被った。

「もちろんいいよ。じゃあ、明日ここで集合な!」

「了解!」


 次の日……

「おはよう」

「おはよう。練習していくよ」

「お願いします」

「特別な屋外ジムを用意したよ」

 そこには、山と急坂、高台。プールまであった。そして本当に困った時のための、最終兵器もあるらしい。

 とりあえず、最初は高台で練習するのがいいらしい。最初からジャンプで練習すると、滑空もまともにできずに練習にならない。山で練習しても、滑空できなかったり、自分で軌道を修正できないと危険すぎる。最終兵器はその名の通り、使う時では無い。

「無理」鳥空が言った。

「じゃあ、飛ぶコツを教えてあげよう」

「はい、鳥三郎先生」と、鳥空と一緒に言った。

「羽はちゃんと開き、バサバサするんだ。それが難しい。ジャンプで飛べるようにするコツは、……今はまだいっか。まあ、とりあえずやってみな」

 いわれたがまま、階段を上り高台に乗った。下から見た時より高く感じられて、怖くなってくる。でも、鳥三郎さんに教えてもらってんるのだから、やってやる。

「いけ! ……あっ」

 くちばしがきれいに地面に刺さり、地面に落ちたことを痛感させてくる。やっぱり最初からはできないんだなって思った。

 そのとき、後ろの方からとある声が聞こえてきた。

「あれ~? そんなんもできないの? 俺は一回でできるわ。見てろ」

 鳥空が煽るような言い方で言ってきた。

「見ろ壱鳥。一発成功をな」

 そのまま高台から飛び降りて、くちばしを地面に突き刺して地面に着地した。

「やっぱ無理」鳥空が言う。

「そんな簡単にはできないよ。じゃあ、コツを教えてあげよう」

 それから鳥三郎さんにコツを教えてもらった。


 1.羽はちゃんと開く。

 2.しっかりバサバサする。(これが意外と難しい。)


「やってみな」

「分かりました、先生」

 それから僕は一生懸命やり続けた。日が変わっても、ずっとやり続けていた。だって、から。

 バサバサ。バサバサ。バサバサ。バサバサ。

 バサバサ。バサバサ。バサバサ。バサバサ。

 高台だけでなく、山も使うようになった。飛べるようになる未来はずっと見えている。自分に自信を持てば行けるって信じている。僕は鳥空と違う。頑張れるんだ。


   ◆鳥三郎◆


 僕は、飛べるようになった。頑張ればにわとりだって飛べることを証明してやったんだ。それから、壱鳥と鳥空が教えてほしいと頼んできた。もちろん教えてあげたが、壱鳥しか頑張ってないな。鳥空は週に5回、2~3時間しかやっていなかったが、壱鳥は毎日朝から晩まで頑張っていて、もうすぐ飛べるようになってほしいな。そんなのが僕の願望だけど。

 そんなことを思いながら僕は今日、目覚めた。

 さて、今日も練習場に行きますか。

「行け! 飛べる! ……無理か、惜しかったなあ、今の」

「おはよう。壱鳥は頑張ってるね、鳥空と違って」

「ありがとうございます。今の見てましたか?」

「うん。もうすぐ飛べそうな雰囲気だったね」

「やったあ。もっと頑張って、飛ぶぞ!」

「頑張れ、壱鳥」

 壱鳥の成長がとても早い。教え始めてから、まだ二ヶ月だ。カラスの襲撃までまだ時間は半年以上ある。頑張ってくれ。とりあえず鳥空のことはいいか。今は壱鳥に期待だ。

「おはようございます、鳥三郎さん」

「おう、鳥空。練習してるか?」

「すみません、最近サボりがちになってきちゃって」

「まあ、飛びたいのなら壱鳥くらい頑張れよ」

 そのとき、山から飛び降りてきた壱鳥が、ついに飛びそうな体勢だということに気づいた。

「壱鳥! 頑張れ! あと本当にもうちょっとだよ」

「頑張ります!」

 また山に登っていく壱鳥。心から応援している。

 山の頂上に着いた。今、飛び立った。頑張れ。

「行け! 壱鳥!」

「僕ならいける! 行ける! 飛べる!」

 壱鳥はもうすぐ飛びそうだ――。

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