第1章ー4話 カラスへの恨み

   ◆壱鳥◆


 山の上から飛び立った瞬間、飛べるなって確信した。

 何故かって? だって、頑張ったから。感覚で大体わかるんだ。あぁ、失敗だなとか、成功だなとか。でもなんで頑張ってるかわかる?それはこういうことだよ。


 一年前、それは現実世界に住んでいた時のこと。

「壱鳥、鳥空、ご飯だよ」

 掛の声が聞こえてきた。彼の声はいつ聞いても安心する、そんな優しい声だった。

 コトン。目の前に置かれた皿の中身を見ると、よだれが出てしまいそうだった。

「壱鳥、美味しそうだね」鳥空がニコっと話しかけてきた。

「そうだね」と返す。

 こんな会話さえ人間には理解できないけど、感じ取ってくれている気がする。

「どうしたの、そんなにコケコッコー言って。そんなにおいしそう?」

 ほらね。掛なら感じ取ってくれると思ってた。

「じゃあ、食べるか」

「壱鳥! 上!」

「っえ? 何?」

 その時、上空から飛んできたものは……だった。

 狙いを定めてきたのだろう。僕のご飯に一直線に突っ込んできて、全部食べていってしまった。

「うまっ! ありがと!」

 カラスはそう言い、鳥空のも食べた後、去っていった。

 僕たちは呆然としていた。何もできなかった。そしていつの間にか泣いていた。

「……そんな。ご……飯が……」

 僕はカラスにご飯を奪われてしまった。とても悲しかった。でも、我慢したんだ。

 一回目だったから、我慢できたんだ。


 翌日。ご飯を掛が持ってきて、食べようとしたらまた、カラスが奪ってきた。

 その時僕は思ったんだ。僕はカラスに負ける、ってね。

 我慢はできなかった。怒りを覚えた。一回だけならまだよかったが、二回もやってきている。あのカラスにクッソ舐められている。鳥空は能天気に『大丈夫大丈夫、昼食べなくても生きていけるよ』って言った。でも、僕は嫌だった。強い怒りを覚えた。

 翌日もまた奪われた。その翌日も。またその翌日も。

 怒りはだんだんエスカレートしていった。カラスを懲らしめてやりたくなった。

 ある日、カラスが奪ってくるのを見計らって、くちばしで刺してみたんだ。そしたら痛そうにして、飛び立っていった。それ以来奪いに来なかった。しかし、僕の心はやりきれない感じになって、不完全燃焼を起こした。いつか、ちゃんと復讐したいって強く願った。

 そして、今チャンスを手に入れたんだ。


 そういう思いがあり、壱鳥はカラスに対してすごく怒っていた。

 だから、飛べるようになりカラスに勝ちたかった。

 そして、ありえないくらい頑張った。

 僕は心の底から飛びたかったんだ。

 その頑張りが、今報われそうになっている。

 山の頂上から滑空して、飛ぶタイミングを見計らっている。

 僕は今空中にいる。一時的に。これを半永久的にしたい。そんな願いを神様が受け取って、飛べるようにしてくれている気がする。


「行け! 壱鳥!」

 その声を聴いて、飛ぶぞと思った。鳥三郎さんありがとう。

「僕ならいける! 行ける! 飛べる!」

 応答するのと同時に自分に言い聞かせる。僕は飛べるんだと。


 そのとき、いつもと違う感覚が体中に響いた。

 あぁ、これでやっと――。

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