第25話「なぜなに魔術、後半戦」
【アンジュちゃんのオリジナル魔法は
「オリジナル魔法じゃなくて魔術! 魔術だから
「聞いた話だと、学会で承認を取るのが難しいみたいだしね。次」
【どうやったらアンジュちゃんのような魔法を使えるようになるのか知りたい】
「だから魔術っ! 魔術を使えるようになれば、コマンド……じゃない、
「ごめん、小難しい話は後に回そう。次」
【前回の配信で言ってた魔法のリミッターって?】
「……やっと『なぜなに魔術』に相応しい質問が来たわね。いい? 魔法――すなわち
「……あー、要約すると『規約により安全装置が備え付けられている』ってこと?」
「…………その解釈でも間違いではないわ」
【アンジュちゃんはなんで魔術師って言い張るの? 魔法使いじゃ駄目なの?】
「駄目よ。あたしは魔法ではなく、魔術を扱う魔の徒だもの」
「うーん……私、魔法使いの古い呼び方が魔術師って聞いたことがあるんだけど?」
「約六百年前の
「ちょくちょく選民思想が出るなこの子……」
【アンジュちゃんの言う魔術と魔法の違いは?】
「来たわね、核心に迫る質問が!」
「できるだけ簡単に答えてね。私も含めて、視聴者の九割は専門知識を持ってないから。いっそ小学生にもそのまま説明できるくらいに噛み砕いてみよっか」
「……そうね。前提として、魔術と魔法はもともと同じものよ。ただ、
「……? それだと、オリジナル魔法は魔術ってことになるけど……?」
「この分類方法だとその通りよ。
「…………ごめん、一気にわかんなくなったわ」
「結論――魔術は老舗のラーメンで、魔法はインスタント麺よ!」
「ええっと……つまり、職人しか作れない本場の味が魔術で、お湯を入れるだけで誰でも簡単に作れるカップ麺が魔法ってこと?」
「そう――そうよ、わかってきたじゃないカレン! さっすがあたしの助手ねっ!」
「あんまり嬉しくないなぁ……」
カレンが質問を選び、アンジュが答え、カレンが突っ込みを入れ、アンジュが反論し、カレンが纏める――。
と、そんな感じで配信は順調(?)に進んだ。
アンジュ一人で説明するよりもカレンが突っ込みを入れたり要約をすることで、ある程度視聴者は理解を示してくれた。……と思う。ちなみにコメント欄は全体的にこんな感じだった。
【なるほど。……なるほど?】
【わからなくもないような】
【アンジュちゃんは賢いなぁ】
【カレンちゃんのおかげで別世界の理論から辛うじて外宇宙の理論くらいにはなってきた】
【↑それ結局、謎理論のままやんけw】
【
【つまり現代人は楽な方に逃れたのだ。本場の味を楽しむよりも、お手軽なカップ麺で済ませるようにな……!】
【↑その例えで言うなら、オリジナル魔法は新作とかご当地限定のカップ麺とかになるのか……?】
と、一部アンジュの説明を上手いこと噛み砕いているものもあったが、ほとんどは「わかったけどわからなかった」というものだった。
……まあ、「全くもって意味不明」と言われていた今までよりは良いだろう。あと「魔術師と魔法使いの違い」について説明したことで、何人かがアンジュのことを「魔術師」と呼んでくれるようになったのは純粋に嬉しかった。
「――それじゃあ、今日はこの辺りにしておくわね」
「ばいちゃー」
何度か息抜きがてらモンスターを派手に倒しつつ、『なぜなに魔術』の配信は一時間半ほどで終了した。カレンから「小難しい話を長時間やるのは視聴者離れに繋がるし、一気にやっても理解が追いつかないだろうから」と助言を受け、切り上げた形だ。
最終的な同接は九千四百人。最初よりも減っているが、それでも長い間これだけの人間が配信を見ていたというのはとんでもないことだ。カレン曰く「まあ見た目は良いからね……色んな意味で」とのことだったが、何であれ多くの人間に魔術を見せ、話を聞かせられたのは目的のためにも良いことだ。アンジュは自然に口の端が持ち上がるのを感じた。
「ふふっ、今日もたくさんの人に魔術を見せられたわ!」
「上機嫌だね、アンジュ」
ウサギの仮面(なぜかカレンも視聴者も
「そりゃもちろん! だって今日は魔術についていくらか詳しく説明することもできたんだから! ――っと、そうだ。これができたのもあんたのおかげよ。ありがとね、カレン」
素直に感謝を伝えると、カレンは一瞬ぽかんとして、それから赤みの差した頬を人差し指で掻いた。視線が微妙に泳いでいる。
「ま、まあ、勇者パーティーのまほ……魔術師になってもらうための条件だったし」
「それでも、ありがとう。あんたが上手くやってくれたおかげで、視聴者の理解を深められたわ」
「(視聴者が本当に理解できていたのかは微妙なところだけど)……うん。まあ、その、感謝は受け取っておくよ」
カレンは照れを誤魔化すように何度か咳払いをすると、その金の瞳に真剣なものを宿してアンジュを見つめ直した。
「――その代わりに、ちゃんと勇者パーティーのメンバーとして私に協力してね?」
「それはもちろん。条件だもの。……って言っても、何するの? 魔王のところに殴り込みに行く?」
勇者の最終目標は魔王を倒すこと――というのは世間に共通する認識だ。しかしカレンは首を振って、
「魔王ハルシオンに挑むのはまだ早いよ。メンバーも全然揃ってないし」
「ああ、勇者パーティーと言えば六人組だものね」
五百年前の「最後の勇者パーティー」は、勇者ジークハルト、聖女クラウディア、騎士バーナード、狩人ヴィットーリオ、盗賊ドロテア――そして魔法使いハルシオンの六人組だった。アンジュの「勇者パーティーと言えば六人組」というのは彼らの影響だ。
「……うん。来たるべき時のために、きちんとフルメンバーを揃えなきゃ」
どこか遠くを見るような目をして、カレンは決意を言葉にする。
と――そんなときだった。
「っ?」
ふと気配を感じて、アンジュは振り向いた。
そして――そいつが目に入った。
ベージュのトレンチコートを着込んだ、痩せぎすの男。
見覚えのある――というか今日の昼に遭遇したばかりの不審者が、静かにこちらに歩いてくる。
「……うわ」
「? どうしたのアンジュ――」
アンジュが思わずこぼしてしまった声に反応し、カレンがアンジュの視線を追う――。
「っ」
カレンが息を呑み、足を一歩引き――しかしすぐさま自分の体をアンジュの前に持っていった。まるで、歩いてくる男からアンジュを守るように。
その行動にアンジュは首を傾げ――ふと思い至る。カレンはこの不審者の変態性を知っているのではないか、と。
「……カレン。アレはロリコンだから、十六歳のあたしは対象外よ?」
だから大丈夫、という意味を込めての言葉だったが、カレンはアンジュの盾になったまま動かない。
と、男の足が止まった。彼我の距離は五メートルほど。
男が口を開く。
「――ふむ。初対面を装おうと思っていたのだが、無理そうだ」
「当たり前だよ。どうしてお前を忘れられようか」
硬い声で刺すカレンに、男はにちゃりと笑った。
「それは喜ばしいことだ。この八年間、僕も一秒たりともキミの姿を忘れたことなどなかった。――あの可憐な十歳のキミを、ずっと想っていた」
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