第15話 藤森高校男子バスケ部監督

「……まず、俺は九条高校を目標にしている。厳密にいうと、河北友だ」

 俺はあえて、その言葉を口に出す。

「中学時代の全国大会で、俺は河北友のチームに負けた。大差だった。全国でトップの選手はこんなものというのを、見せつけられた」

 その河北友と再び対戦することなく、新人大会での事故があって、その後の5年間をだらだらと何もせずに過ごしてきた。

 そのことは、今は忘れる。気を取られていたら、この緊張で息が詰まりそうな場を切り抜けられない。

「先輩の前で失礼かもしれないけど、ここに集まっているのは、二流ばっかだよな」

 俺は同級生や後輩を見渡しながら言う。

「ライバルに強豪校からのスカウトを持っていかれたり、セレクションで最後まで残って残されたり、ぎりぎりで全国大会に行けなかったり、うちに集まっているのは、そんな人ばっかりで、俺もその一人だ」

 その落ちこぼれを、八孝は拾ってくれた。

 俺はひとつ呼吸を置く。

「繰り返す。俺たちは二番手だ。みんな、誰かに負けて悔しかったと思う。だがな、もしそんな俺らが勝ち上がったらどうだ? インターハイやウインターカップに行って、最高の舞台に立ったらどうだ? 負けて悔しかった分の何倍も爽快だろうな」

 途中から、自然と言葉が出るようになった。

 5年間の鬱屈とした気持ちが出ているのか、八孝がそばにいるからか、俺を見ているみんなが色めき立っているからか、あるいはそのすべてか。

 とにかく俺は、奇妙な縁で再び一緒に戦うことになる仲間に声を上げる。

「佐藤監督と一緒に、日本一目指す。そして胸張って卒業するぞ」

 静寂がこの空間を支配する。

 みんな、無言を保っている。応じる声はない。

 俺が理性を取り戻したのは、そのときだ。

 出過ぎたことを言ったか。5年間、何もせず淡々と、無難な日々を過ごしてきたような俺には、似合わない言葉だったか……

「おっしゃー! 頼むぞ後輩! 俺たちを超えていけ!」

 体育館どころか、外の校舎まで響きそうな声を出したのは、これから卒業する先輩だった。

 日本一どころか、インターハイやウインターカップ出場すらもかなわなかった。それなのに無謀ともいえる目標を掲げ続ける俺や八孝を笑おうともせず。

「インハイ出場ならなら沖縄だろうが北海道だろうが応援行くぞ」

「俺は会社休んでも応援行くぞ」

「お前はまず内定もらえ」

「こうまで言ってくれたら安心して卒業できるな」

「九条高校なんかにびびったりすんなよ」

 3年生のみんなが、場の空気を盛り上げる。自分たちが全国大会を目指しているみたいだ。

 そして主役となる2年生や1年生のみんなも、負けていなかった。

「よく言ってくれた! きよぴー!」

 言ったのは、黒田だった。

「俺らもついていくぞ! なあみんな!」

 黒田の声に応じて、「おう!」というみんなの声が響く。

 ――うわあ、最高の気分だな。

 歓声を一斉に浴びて、5年前に戻ってよかったな、とつい思ってしまう。

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