第7話 西暦2024年11月1日午前7時59分
朝練を終えて、俺たちはバスケ部の部室に向かう。まさかと思ってはいたが、そこには俺の名前のシールが貼られたロッカーが、5年前そのままの位置にあった。中にある制服、学校指定のサブバック。俺のものだ。サブバッグの中をまさぐる。俺が使っていた教科書に、ノートに、ペンケースに加えて、あった。
高校時代から大学に入ってからも使い続けている、俺のスマホ。
でも、これも変だった。
画面のひび割れが、ない。スマホカバーの小さな傷もなくなっている。
俺はずっと変えていないパスコードを入力すると、時間が表示された。
日付は、おかしくない。時間も、さっき横断歩道で女の子を助けてから、なぜか藤森高校の体育館に立っていて、バスケの自主練をして、この部室に来るまでの時間を考えれば自然なくらいだ。
だが、一か所だけ、数字がおかしいところがあった。
年のところ。
――2024年11月1日午前7時59分
2029年では、なかった。
5年前の日付になっている。
「なあ、きよぴー」
制服に着替えている黒田が話しかけてきた。
「寮に忘れ物でもしたのか? さっきからごそごそして」
「い、いや、そんなんじゃねーよ」
俺はスマホをしまった。
「あっそ、じゃあ早く着替えろよ。ホームルームに遅れるぞ」
「あ、ああ、なあ黒田、ちょっといいか?」
「何だよ」
「足は、大丈夫か。足首の怪我」
「はあ? お前のほうが大丈夫か? 怪我なんかしてねーよ」
黒田は床を何回か踏みしめる。
表情ひとつ変えないあたり、本当に痛めていないのだろう。
「い、いや、この前の練習試合、普段よりちょっと激しい動きをしていたから」
俺はとっさにごまかした。
「部員を気遣うのはいいけど、心配のしすぎだ。過保護なんて気持ち悪いぞ」
「ああ、すまない」
俺はトレーニングウェアを脱いだ。
制服に身を包む。
懐かしい着心地だ。リクルートスーツよりも落ち着く。
「先、行くぞ。俺、教室離れているから」
荷物をまとめた黒田が、部室を出ていく。
「きよぴー、俺らも先に行くぞ」
服部も部室を後にしていく。真川や朝倉も一緒だった。
「あー腹減ったー。とっとと購買行こうぜ。朝倉、俺は焼きそばパン買うから、それだけは選ぶなよ」
「なんで俺にそれを言う」
「食いしんぼうだな、服部は。俺はとりあえずチョコチップパンかな」
「真川、お前朝から甘いもん摂りすぎじゃねーか」
3人が笑いながら外に出ていき、そして部室のドアを閉める。
5年前そのままだった。毎朝のように、3人はあんな会話を繰り返していた。
「さてと、俺も教室に向かうか」
本当に5年前に戻ったのだとすれば、今は教室に向かうしかない。もちろん、ちゃんとどこの教室なのかは覚えている。教科書やノートもサブバッグの中にひととおりそろっているから、授業でまごついたりすることはないだろう。
「俺も行けるけど」
部室に残っていた男子が、声をかけてくる。
「ん、ああ。そういや日田も同じ教室だったよな」
「そういやってなんだよ。毎日一緒だろ」
日田誠。さっき体育館で主力メンバーから外れて、トレーニングをしていた男子。ポジションは俺と同じポイントガード。
そして、少し緊張してくる。
なぜならば日田は、5年前――いやこの時代ならばこれからか――の騒動で退部した部員の、最初のひとりだから。
「すまんすまん。俺やっぱ練習試合でまだ疲れているみたいだ。じゃあ一緒に行くか」
俺は何でもないふりをした。サブバッグを持って立ち上がる。
「きよぴーは購買行かないのか?」
「俺はいいよ。お腹空いてないし」
というわけで、俺と日田は部室を後にする。
部室棟の階段を降りると、そこに青海が待っていた。
制服姿だ。青色のブレザーを当たり前の顔をして着ている。
半年もしないうちに、青海はこの学校を恨みながら去るのに。
「待たせたな、青海」
俺は青海に声をかける。
「それほどでも」
青海は歩き出す。3人で、同じ教室に向かっていった。
私立高校らしく、新しくて白色の建物が清々しい校舎。そこに俺たちは入っていく。玄関には、今登校してきた生徒たちであふれていた。
「さてと、日田、教室に着く前に、ちょっと頼みがあるんやけど」
青海が廊下を歩きながら、青海が話し始める。
「ん、何?」
「授業中にきよぴーが寝そうにならないか監視よろしく」
「なんでだよ」
俺が横から突っ込む。
「しょうがないやろ。今日の朝練ちょっとぼーっとしとったで。大事な日やというのに授業中に寝られて先生に怒られたら、しまりが悪いやろ」
「ていうか、青海がやればいいんじゃない? きよぴーの隣の席なんだし」
「そんなことやって、兄さんにからかわれたらどないするん?」
「まあ、そうか。教室でも会うもんね、監督に」
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