第77話 Queen of Heart
あなたは何を望むのか?
何を望んで生きればいいか。それすら考えることを、すでに奪われていることに、あなたは気づいていない。
思考停止。
いつだって心配事はあるし、不満だってある。自分は考えたくないのに、考え続けている。
たしかにそうかもしれない。
安心できるのは、夢もみないぐらいぐっすりと眠れている時ぐらいか。
世界にはアプリオリなものは存在しない。アプリオリとは、絶対不変の真理のこと。
だから不安になる。だから、安心できない。そう言い切って、どうしたらいいのかを、自分以外の誰かにゆだねて生きるほうが気楽だろう。
思考するということを、心臓が絶えず動いているように、物理的な脳の活動という意味でとらえるなら、思考は停止していない。
どれだけ自分で思考を停止しようとしても、脳は働き続ける。睡眠中やぼんやりとしていても、脳は情報処理を続けている。
物理的な脳の活動処理を完全に停止している人は、生きている限りいない。
思考するということを、生きていくための問題を解決する活動とすると、問題を抱えていることに気づいていなかったり、何も活動しなければ、別の意味で絶対不変の万人に共通する死の瞬間に到達する。
物理的な死は、生まれた瞬間から心臓と脳が完全に停止するという意味にだけに限定すれば、逃れられないものだ。
生きていくために必要な問題に気づいて、解決する活動したいと考えずに放棄している状態。思考停止とはそんな状態のことだ。
・分析する。または考察する。
・意思決定をする。
・問題の解決案を実行する。
・結果を確認する。
まとめれば、この四つのことをなぜ放棄してしまっているのかということになる。
知識の習得を目的として、どれだけの情報を暗記できるか。
暗記した情報量を確認される。それだけにすぎない。
意思決定をして、問題の解決案を実行して、実行した結果から次の意思決定のために、情報を考察する。そうした思考する行動を放棄するように訓練される。
何を知っているか、自分は知っている情報に対して、どうしてそう感じたのか、なぜそう考えをまとめたのか、あなたならどう行動するか、という段階まで、たとえば誰かに説明することすら求められない。
暗記が悪いわけではない。
知らない知識を習得することから始まる。その次の段階へ進んでいくには必要な条件といえる。
情報を多く知っているかということの段階で、結果とされて思考停止してしまう訓練を受け続けた結果、意思決定する段階へ進めない人が多い。
脳は知っていないことが認識できない。さらに、自分にとって重要と判断しない情報を認識しない傾向がある。
記憶された過去の情報である知識と、自分にとって重要だと思うことが合わさって、やっと認識ができあがる。
・自分の意思決定することができないように訓練を受けている。
・知識が不足している。
・認識ができあがっていない。
思考停止して現状の変化をスルーした結果、ただ不安になっているだけで、何をしたらいいか自分で考えることができずに、もう他人と同じ行動をしていればいいと思い込むことがある。
それは、思考停止するための訓練を繰り返されて、慣れさせられてきた結果といえる。
何が正しいのかは、相対的なもの。視点が変われば意見が対立していても、どちらにも正しさがあり、また誤りもあるということまで、なんとなく考える人はいる。
しかし「常識」「普通」「ノーマル」という言葉を出された時に警戒する人は少ない。
社会や組織にとって都合がいい「常識」「普通」「ノーマル」に従って思考停止していた結果、自分が生きていく上で困難な状況に陥るまで不安ながらも、自分の意思で、なりゆきまかせにしていることがある。
他人から与えられた価値基準を疑うこと。
他人の損得に合わせた行動範囲に誘導されていないか疑うこと。
他人の意思決定をゆだねきらずに、自分で考え、自分で判断して行動して生きること。
それが「常識」「普通」「ノーマル」であって、他人からの評価のために生きない、他人の価値感に合わせるためだけに生きないと選択すること、思考して生きることは、他人から「非常識」「普通じゃない」「アブノーマル」と言われることになってしまった。
他人の目標や損得、他人からの評価、世間体を気にして生きるようになってしまうと、思考を停止して「普通」であるべきだと思い込み、不安を忘れたふりをする。
そして、不安を一時的に忘れさせてくれるものを見つけてしまうと、それが目的をして、考えをまとめ、行動して、時には他人の生き方さえも否定することになる。
そうしなければ、自分が信じる不安を解消する行動に頼ることができなくなるからだ。
脳は自分が重要だと思う情報しか、認識しない傾向がある。
これはRAS(ラス)という脳の機能と呼ばれている。
自分が簡単に達成できない目標や、強い興味を持つと、それに関係すると感じた情報を、RASという機能で収集して、認識し始めることになる。
自分の不安を一時的に忘れさせてくれるだけのものを目標や目的にすると、RASは以前と変わらない情報を集めてくるので、自分の認識が変わらない。
何が重要なのかという考えが変わると、それまで認識ができなかった情報が記憶するための情報として収集されて記憶されるので、世界が以前とはちがうものに感じるだろう。
また重要ではないことをして生きているという不快感すら感じるようになり、それまでの自分の行動を修正したいというストレスがかかる。
思考停止になっていて、ただ不安なまま、それを一時的に忘れさせてくれるだけのものにしがみついて生きることもできる。
けれど、たとえばそれが、生活していくために不便さを引き起こしたり、対人関係で他人の信頼を失わせる孤独に陥るような嘘をつかなければならない状況に陥っているとしたら、あなたは何を望むのかを、今すぐに考えてみる必要がある。
人生は自分の思い通りにならない。自分の人生は、他人の気分や評価、見えない何かにふりまわされている。
そう感じる不安はそれまではそうだった、もうその考えは今からは使えないから「終わり」と言ってみる。
そして、かわりに自分はどんな考えや行動をしてみたいかを、想像してみること。
本宮勝己は、モテると何が起きるのかはわからなかった。
けれど、何をしたいのかを一つずつ試すようにやってみた結果、藤田佳乃と目が覚めてすぐに寝そべったまま抱き合ってキスをしている自分は愛する人にこうしたかったし、されたかったんだと、やっとわかった気がした。
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