第71話 裸の心
性染色体は、性別を決めるうえで重要な役割がある。XY型となれば性別は男性、XX型となれば性別は女性となる。
しかし、クラインフェルター症候群は、X染色体がひとつ以上過剰であることが原因で引き起こされる。また、X染色体の数は多いが、Y染色体の有無が男性となることを決定するため、クラインフェルター症候群の患者の性別は男性に分類される。
樹と望の性染色体はXXY型。
過剰にX染色体をもつ原因は、受精卵のもととなる精子や卵子を形成する際に問題が生じるためと考えられている。
声変わりやひげが生えたりする変化が起こらず、陰部の成長などがXY型の男性の途中の段落で止まることや、無精子症になった事例もある。
二人とも自分の身体の成長が、他の男子たちとは異なっていることに高校生ぐらいになると、なんとなくは気づいていたが、二人の親たちは、治療が必要だとは考えなかった。
心のありかたは、肉体的な性別や、性性染色の型で決まるとは限らない。
樹と望は大学に進学して、恋に落ちた。まるで、同じ種族に出会ったような気持ちになった。
この二人は、ファッションの好みも似ていて、
水原紗夜は、この二人と会った時に、すぐにクラインフェルター症候群だとわかった。
水原真が、クラインフェルター症候群だったからである。
ただし、この二人は、水原真のように肉体的な特徴が男性的でないことを、他人から冷やかされたり、オカマ野郎といった言葉で理不尽に馬鹿にされないように振る舞っている様子ではなかった。
水原紗夜は、二人と連絡を取り合い、また病院でクラインフェルター症候群の検査を受けてみることを、費用を出すことをふくめて提案した。
アニメキャラクターのコスプレが趣味の樹と望は、別の地方で暮らしていた高校生のうちから連絡を取り合い、同じ大学を受験。
無事に合格すると、恋する二人は、ルームシェアをして暮らし始めた。
水原真は、喫茶店で働く村上くんに恋をしていた。そして、その恋を村上くんに告白するまで、誰にも言わずに隠していた。
この樹と望は、すでにパートナーを見つけることができている。
男性だから、女性だからではなく、樹がいい、望じゃないと嫌だと、性別にとらわれずに、恋をしていた。
ただ、コスプレのようにかわいく女装して、二人で街をぶらついていると、キャバクラの体験入店の勧誘に声をかけられたり、ナンパ目的で男性から声をかけられたりする。
二人の見た目の印象は、女性よりも女性らしく、男性のファッションのコーディネートをすると、男装の麗人といった印象になってしまう。
Vtuberとして活動している人たちの平均月収は、およそ4万4千円というデータがある。
この平均月収には、収益を得ていない配信者も含まれるので、やや低い金額となっている。
実際は、専業・副業も含めたVtuberの約半数が、収益を得ていない状況らしい。
樹と望はアルバイトをするとき男性と履歴書に書くより、女性と書くほうが自分たちの場合は採用されやすいことを知っている。
嘘を書いて採用されたあと、女性として扱われて、セクハラされることもあり、女性を演じ続けるのが正直、うんざりしてくる状況に陥ることもあった。
そこでVtuberとして、大学の講義で学んだ知識などを受け売りで配信してみたりしている。
ただし、機材などにかける予算にも限界かあり、また最近、視聴者に飽きられてきたかもと、なんとなく不安になることもある日もあるので、ちょっぴりくたびれてきたところだった。
水原紗夜は、そんな二人を自分のスタジオで働いてみないかとスカウトした。
憧れのイラストレーターと仕事を一緒にできると、二人はこの提案に飛びついた。
チーフの近藤喜久が、どうも自分たちを女性だと思い込んでいるのは気づいていた。
しかし、恋の告白をされたわけでもなく、とても頼りになるまじめによく働く先輩として尊敬もしているので、樹や望は、優しい大人の近藤喜久と、ゆっくりと友達になりたいと思っていた。
水原紗夜は、樹や望から、近藤チーフから恋の告白をされたら、体の秘密を明かしてみるつもりだと相談を受けている。
(ねぇ、真さん、綾子や近藤くんは、私たちのように恋に積極的にはなれないみたい。でも、友達をつくるのは、とても上手みたい)
黒猫のカラスをモデルにした猫のイラストを描きながら、水原紗夜は今も心の中に生きている真さんに、そっと優しく語りかけるのだった。
カフェ「ラパン・アジル」で、今日も珈琲を淹れている優しい大人の村上さんのパートナーに、泉美玲の母親の泉理香があらわれるまで、何年もかかっている。
近藤喜久は、まだ30代。人生はまだまだ続く。本人はパートナーを見つけようと焦りを感じているようだが、人生は本人にとって思いがけないことが起きるからこそ、おもしろい。
パートナーと出会うまでに時間がかかる人もいる。
また水原紗夜のように、パートナーと感じた人のことを、ずっと心の思い出にして生きていく人もいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます