第64話 未来予想図Ⅱ

 勝己が小説を書くためにアイデアを考え続けて感じたことは、状況の変化があれこれと起きているということだった。


 心霊スポットと噂があった某トンネルは、通行止めで立入禁止となっている。それは怪奇現象が起きているから危険なので、立入禁止になったわけではない。

 作られてから約50年で、橋やトンネルは、耐久年数が切れてしまう。

 崩落を防ぐために補修が必要。

 日本は行動経済成長期の1970年代に、道路、橋、トンネルなどを多く作ってきた。

 たとえば、1970年に開通したトンネルは2020年までに、作ったのと同じぐらいの予算を投入して補修しなければ、耐久年数が切れるので崩落する危険が出てくる。

 すでに耐久年数が切れている場所は3万2千箇所ほどあり、さらに増えていく。

 ただし同時期にまとめて作られているために、一斉に耐久年数が切れ出すのに対し、公共事業として、一斉に補修できる経済状況にはない。

 補修せずに橋やトンネルを通行止めにして、別ルートを使うことになる。

 過疎化が進んでいる地域に、さらに交通の不便さが加わり、さらに過疎化が進みやすくなる。


 日本の通貨の円の価値が、下がっている状況が続いている。

 問題は、このまま通貨の価値が下がり続けると、少子高齢化して経済を支えていた労働人口が減ったあとで、海外からの労働者を受け入れて補うということが難しくなることにある。

 国債の発行による日本の通貨の価値の下落が起きている。

 通貨の価値が高かったうちは、たとえば1983年頃には「ジャパゆきさん」といった言葉ができるほど、通貨の価値の差から、日本へ来て働いてくれる労働者は多かった。

 日本は海外からの労働者を、自国への移民として受け入れたわけではなかった。それは諸外国とちがい、移民という考え方になじみがなく、結束力は強いが村社会として余所者を受け入れない風習の名残りがある。

 そこで「技能実習制度」として期限つきで滞在を許容して、労働してもらった。ただし、自国の国民が受ける福祉制度などを受ける権利は与えなかった。

 また雇用主たちは、あまり日本人がやりたがらない仕事に従事させたり、低賃金で非正規雇用するなどの他に、今ならパワーハラスメントやセクシャルハラスメントとされるような扱いを行った。

 それは2000年代に入って、国連から「これは事実上の奴隷制度のようなものではないか?」と指摘を受けるほどだった。

 現在は同じ労働をしても、海外で働くほうが得られる報酬が高くなっている。それほど日本の通貨の価値が下がっている。

 過去の状況と逆転して、日本から働くために出稼ぎしたほうが報酬が得られる状況が、通貨の価値の下落しているうちは続く。


 寂れた観光地などを、通貨の価値が下落しているので、海外の資本家が安く買える日本の土地を購入し、海外からの観光客向けの施設などを建設して運営していく。

 それはかつて、日本人の資本家たちが、海外で同じようなリゾート開発を行ったり、観光客向けに商売したのと似ている。


 また、インターネットの普及が世界規模で進んでいて、情報の共有化やシステムの運用のために、海外の企業家たちは、宇宙へ衛星を打ち上げる事業を進めている。

 以前の研究用衛星よりも、低軌道の上空に浮かぶ通信用衛星を打ち上げる方向で、計画を進めている。

 地上で土地を確保して通信用の施設を建造しなければならなかったが、これが成功すると、それらに投資して施設や人員が不要になる。海上や山岳であれ、低軌道の衛星による通信システムが成立すると連携した動きができるようになる。

 しかし、日本はこうした動きに乗り遅れてしまっている。

 たとえば各家庭に太陽光パネルなどで発電して、制御センターなどから、電力が余っている家庭から電力が欲しい工場などへ送る発電所の分散化なども、低軌道の通信衛星によるシステムが確立すると可能になる。


 いずれ詩や小説も日本だけでなく、世界の人たちの目に、今よりもふれることになるだろう。

 そうした状況で、日本の文化の常識が、どのように受け入れられるのか?


 本宮勝己は、そんなことも予想している。もちろん、予想はあくまで予想にすぎないけれど。


 勝己が書いたものが世界に与える影響は、とても小さなものかもしれない。

 しかし、人の心のつながりかたや認識が変化していく状況のなかにいることを感じてもらうには、それぞれが想像してもらうしかないと思っている。

 

 情勢や状況は変わっていくけれど、変わっていかないものもあるかもしれない。

 それを拾い集めていくように、書いてみたい。


 勝己がそういう話をするのを聞きながら、佳乃はその考えを小説にすると、余計にわかりにくいんじゃないかと、ちょっと思う。


 でも、おもしろかったり、どきどきしたり、ちょっと悲しくなったり、なんか、毎日を元気にしてくれそうなものを、勝己がきっと書いてくれそうな気がして、にこにこしながら、応援している。


 

 

 

 

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