第63話 始まりの歌―BABEL―(戦姫絶唱シンフォギア)

【催眠契約 hypnosis contract】を、本宮勝己は書いてみた。


 一晩のセックス平均回数

 ・1回/43.5%

 ・2回/35.3%


 年代や既婚、未婚も関係なく1000人にアンケートを取った結果というネット情報を、勝己は検索してみた。


 この1回、2回という回数の基準が男性の射精の回数を基準にしているので、このアンケートは男性の回答者が多そうだと勝己は考えていた。


 セックスは、絶頂に達したかどうかで考え方があるらしい。その考え方からすると、男性の場合は射精が目に見えてわかりやすいからだろう。

 

 勝己は官能小説を読んだことがなかったので、5冊ほど読んでみて、絶頂に達することが基準になっていて、女性が絶頂したということではなく、男性が射精で絶頂したことに疑問を感じた。


 それに凌辱といって、嫌がる女性に性行為を強制する男性の内容のものもあり、勝己は読み進めるのが嫌な気分になってしまった。


 男性が挿入して射精したことに対して、女性が同時に絶頂したことになっている作品も多かった。


 勝己は、実際に自分が佳乃と交際してみて、射精したあと一緒に体を休めている安心感とか、くつろぎが、素敵だと思えた。


 射精する快感よりも、その前に愛撫したりされたりしている時間の興奮や、仲良くなっている感じもかなり素敵だと思えた。


 目の前の人を、胸が苦しくなるほど愛しいと思えること。

 それをどうやって書いたらいいかを考えているのに、そうではない性行為の描写が、たまたま資料として購入してみた官能小説の描写では多かったので、困ってしまった。


 さらに困ったのは、編集者の打ち合わせでハーレムものを書いてみて下さいと注文を受けて、もしも自分の恋人が他の人ともセックスして仲良くしていたら、ひどく嫉妬しないのかという疑問が、もやもやとして解決しなかった。


 どうして嫌がる女性に性行為を強要するのか?

 セックスの愉悦ゆえつは、男性の射精が基準でいいのか?

 嫉妬したらどんな行動をするのか?


 それらの疑問のつじつま合わせで、勝己は目に見えない気持ちが魔法のようにあらわれる世界を設定して、書き上がってみると、ホラー小説や伝奇小説みたいな雰囲気な作品になってしまっていた。


「ハーレムものといったら、後半の盛り上がりは、女性たちとの大乱行ですよ、わかります?」


 編集者からもう少し読者の期待にそってもらわないと……まで言われて勝己は、打ち合わせのあと、肩を落として帰宅してきた。


(それは、その編集者の人の好みの問題なんじゃないの?)


 佳乃は、勝己の打ち合わせの話を聞いて、そんなことを思って、むくれていた。


「個人的な好みじゃなくて、チューニングを一緒に考えてくれる人って考えてるから」

「チューニング?」

「そう、チューニング」


 佳乃は勝己からそう言われて、首をかしげた。


【動物園にライオンがいます。】


 勝己はノートにすらすらとこう書いて、佳乃に勝己が考える「チューニング」を説明した。


「こう書いてみると、動物園は漢字、ライオンはカタカナ、あとはひらがなって三つの表記を日本語は普通に書くけれど、外国語だとアルファベットで表記は一つ」

「うん、そうだね~」

「この文に句読点を打つか、打たないかも選べる。【動物園に、ライオンがいます。】そうすると、動物園がちょっと目立つ。あと並べ替えて【ライオンが、動物園にいます。】って書くと他の動物がいるなかで、ライオンがいることが強調される」


 勝己は句読点の「、」の打ち方もリズムで打つか、何かを読む人に意識させて文の意味が伝わりやすくするために理論的に打つか、これが作品全体で整っていると、かなり読みやすいということも佳乃に話した。


「うん、そう考えると難しい」

「ん~、これを、ライオンを愛する保護の会みたいな人が読む雑誌があったとして、そこにこの文を載せたりしたとすると、ライオンを見世物にするのはけしからん、なんて抗議があるかもしれない」

「えっ、そんな会があるの?」

「わからないけど、たとえ話として聞いて。その雑誌の編集者は、これはライオンじゃなくてクジャクじゃいけませんか、とか、水族館にクラゲじゃいけませんか、とか、雑誌の読書に合わせたチューニングの例を提案してくれる」

「あー、大人の都合って感じ?」


 勝己は大人の都合と佳乃に言われて、苦笑しながらうなずいた。


「ライオンじゃなくて、ゾウでも同じことって苦情はくるかもしれない。水族館だったら、生態を研究するためとか、こういう生き物もいると子供に見せて教えるために飼育しているとか言い訳できるかも。まあ、直接、ライオンと書いた時よりも大騒ぎにならないかも。だって、ライオンを愛する保護の会だから」

「……うん」

「うっかり読んだ人が嫌な思いをしないように、編集者の人たちは調整のお手伝いをしてくれる」


 本当は、作者が読んだ人の気持ちに気がつくセンスがあるほうがいいんだけど、と勝己は言った。


「全部、作り物だからって開き直ってデタラメなのも、すごく調べて結果を報告するだけなのも、もう小説じゃない気がする。どこか読んだ時にちょっとわかるっていうところとか、ずっと変わらないところを、ちゃんと書ければいいんだけどね」


 佳乃は勝己が少し元気になったみたいなので、にっこり笑った。


「ねぇ、夜ごはんのおかず、何が食べたい?」


 恋人がくたびれた時に、どうすればいいか?

 佳乃は勝己と一緒に、しっかり食事をして「おいしいね」と言うことにした。







 


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