side fiction /森山猫劇場 第48話
8月30日。
神社の放火事件の犯人は、お賽銭箱と社務所から現金を奪って逃げる時に、警察の捜査の撹乱を狙って放火したことを自供した。
犯人が放火さえしなければ、鏡真緒や巫女の花純が霊視による犯人探しをしなかっただろう。
この世界に散らばった厄災を導く品物は、女神アーテの破片の力を宿る
楽園を去った原初の女性リリスや、大母神ガイアが生み出したモノ。パンドラの箱が解放された時に散らばった人間が持つ感情の衝動性。そうした要因がある世界。
愚者は賢者よりも多い。
インターネットのマッチングアプリが違法薬物の常用者にも悪用されたことで、新たな呪物のような影響が始まっている。
薬物の購入のために、窃盗と放火の犯罪に手を染めた愚者は、32歳の人妻、
元ホストの職歴を持つ違法薬物の
結婚後、親友もいない状況の中で夫との関係も冷めきっていた。そのさびしさをマッチングアプリの雑談で満たしていたが、デートに誘われた。
不景気でホストを辞めた年下の男性からデートで、違法薬物を使った「キメセク」をされて、彼女のほうがはまってしまった。
優香里の夫はギャンブル依存をこじらせていて、休日は朝から夜まで留守にしているのが習慣となっていた。
どうして神社に空き巣に入ったのかと、担当の警部補の質問に対して、どのように返答したか、調書に記されている。
あの日の夜は、誰かとすれちがうだけでも、とても怖かった。
真夜中の神社なら人が来ることがないと思いました。
お賽銭箱の中身を奪いたかった。でも、壊さなければ中身が出せなかった。壊すと物音で人が来そうな気がしました。
錠前はネットで知った方法で外せました。お賽銭箱は仕掛けがわからず、開けられませんでした。
社務所なら現金があるかもしれない。そう思いついて、私はお賽銭箱はあきらめました。
翌日の8月31日の早朝に、その元ホストの住んでいたアパートは、別室の自称霊媒師の徐霊失敗による火災で全焼。
火災のあった夜に橋本優香里から渡された金で購入した薬物で酩酊していた元ホストの
マトリの捜査官は、竹野弘を警察と協力して内偵していた。そこで人妻の優香里もマークされていたのだった。
「うちの社務所に放火する前に、その人を捜査官の人たちが止めてあげれば良かったのではありませんか?」
巫女の花純が、8月31日に連絡してきた鏡真緒から放火した犯人の情報を聞いてそう言った。
占い師のタロットカード占いは「悪魔」逆位置。依存からの離脱のチャンスを橋本優香里と村野弘がつかむことの前兆を告知していたともいえる。
神社の掃除と祓いの儀式――鏡真緒と巫女の花純がパワースポットとしての神社を回復させたことでかろうじて、橋本優香里と村野弘、あと徐霊に失敗した自称霊媒師もふくめて、3人の愚者の命は散らずに助かったといえる。
心霊スポット巡りをしていた男性は落命し、吉原で事件を起こしたジャックナイフに心を奪われた男性は祟られてしまったけれど。
警察署から鏡真緒は花純に電話をかけていた。彼女は警察が押収した犯行に使われたジャックナイフを回収するため警察署を訪れていた。
そのまま警察署から、他の警察署へ届けられた金目の遺失物の処分にまざって、ジャックナイフが中古品として売られてしまい誰かの手に渡れば、また新たな犠牲者の命を奪うから。
神社などに奉納されていた日本刀などが海外へ転売する窃盗団に盗まれたりして、後日、犯罪に利用されたケースもあった。
心の不安や悲しみにとらわれたところから抜け出せないまま、生きずらさを感じている人たちは多くいる。
そうした人たちが、いわくつきの品物に心を奪われる。その条件が成立するまでには、見えざる力を感じ取れない人たちが、いわくつきの品物を手渡していく状況が同時にある。
拾われてきた遺失物や裁判が終わり事件が解決してから流出する品物が全部いわくつきとは限らないが、癖の強い品物は実在する。
いわくつきの品物を長い期間、人から遠ざけて、鎮めて浄化できる場所。そして、祓いを行える術者。そのどちらも不足している。
8月30日の朝、目を覚ました聡は、また頭を抱えて、一人で悩んでいた。
・美優とセックスする。
(どうして、あともうちょっとなのに、無茶ぶりな条件を出してくるんだよ!)
聡の心のなかに、名家のお嬢様を好きになっても、その先ずっと交際していき、いずれは結婚するような自信が持てない。そんな不安があった。
聡は美優のことを、とても素敵な美人だと思う。柴崎教授の研究室に通っていて、大学のキャンパスを美優と歩いていると、何かやたらと視線を感じることがある。
(何でこんなにじろじろ見られるんだろう?)
奇抜な服装をしているわけでもない。髪型も寝癖がついているわけでもない。鼻毛が派手に飛び出してるわけでもない。
「柴崎教授、あの僕は、どこかおかしくないですよね?」
「ん~、まあ、聡は今さらだが、つまらないぐらい普通だ。とはいえ、誰でも一つや二つは、他人とはちがうおかしいところがあるものだ」
やたらと見られている気がすると聡がおずおずと話すと、柴崎教授が笑い出した。
「聡、それは自意識過剰ってやつだな。光崎家のお嬢様は、聡はそばに暮らしてるから慣れたかもしれないが、世間の野郎どもには、見とれてよだれが出るぐらいの美人だからな」
自分ではなく、そばにいる美優が注目されていたのを、自分が他人から注目されていると思い込んだと気づいて、聡は恥ずかしくなった。
また先日のキス未遂があったのを思い出して、深いため息をついた。美優はまだ絶対に処女だと、聡は思う。
それにくらべて、自分は香織さんにたっぷり手ほどきを受けて、さらに「もふ」になっていたけれど、柴崎教授の体だとわかっていたのに、もう起き上がれませんってぐらいセックスしまくって、こんなに俺はスケベだったのかと、自分でも驚いたぐらいだった。
昨夜の美優とセックスしている夢のせいか、朝から痛いぐらい元気いっぱいなのも聡を悩ませる。
「あ、おはよう、聡くん」
部屋から出てきた聡と、美優はわざと同じタイミングで、ばっちり身なりを整えて部屋を出て挨拶を交わした。
聡が昨夜、夢のなかでどんなふうに緊張しながら処女の美優をいたわるように愛撫したのかを思い出して、挨拶の返事をしたが美優から目をそらした聡は、やっぱりかわいい男の子だと美優は思う。
美優は、聡が体を重ねる直前のところまでの夢でおあずけにしてみた。そうすれば焦らされた聡が、女神アーテの後先考えられなくなる衝動で、美優が誘わなくても、聡のほうから求めて来てくれるだろうと期待して。
女神アフロディーテは、誇り高いところがある。神々の女王ヘラの香織、女神アテナの柴崎教授との交わりを経験させておいて、その二人よりも美優のほうがいいと聡が思わず言うぐらいめろめろにしたい。自分から誘うなんてあり得ないと自信満々である。
美優自身は、臆病で繊細な女の子なので、女神アフロディーテとしては、もっと自分の魅力に自信を持ちなさいと思う。
キスを聡がこばんだのは、初恋の美女の香織との関係があるのに大好きな美優とは、いいかげんにはつきあえないという純真さなのを、女神アフロディーテは見抜いている。
(パリスの審判のやり直しってわけじゃないけど、女王ヘラや女神アテナには、あの子は渡せない。あの子をヘラクレスみたいに乱暴者にする女王ヘラに任せられないし、快楽に溺れたテイレシアスみたいに女神アテナに任せたら、ふりまわされてくたびれた生涯なんて、あの子がずっと大好きな美優がかわいそうだもの)
女神アフロディーテは、この世界の行く末を案じるよりも、自分が宿ることになった美少女の美優の恋を成就することのほうに夢中である。
神話の世界の楽園の女神たちは、男性だけでなく、美少年やお気に入りの女性も、寵愛することがある。
そもそも、女王ヘラが異世界のこの世界にやって来た理由を、女神アテナと女神アフロディーテは分かっていない。
ただ大神ゼウスからの神託があったから、女王ヘラを連れ戻しに来たというだけである。
死者522名とされている旅客機墜落事故の原因は、整備不良による機体の損傷によるものとされている。
上空1万メートルの機体の外の空気はかなり薄い。飛行中は機体内部に空調装置により空気を送り込み、気圧差の影響を受けないように調整をしている。
後部機体の一部が損傷して機内の空気が急激に気圧の低い外へ漏れ、パイロットや乗客たちは酸欠になったということが調査結果から発表された。
墜落時の機内を録音していたボイスレコーダーも、頑丈なフライトデータレコーダーも残骸の中から発見されていた。
遺族からはボイスレコーダーの音声を公開して、もっと詳細な原因調査を航空会社へして欲しいと訴えもあったが、航空会社は国の専門の調査機関の原因調査なので疑いの余地はないとし、またボイスレコーダーには従業員の業務に関する音声しか録音されていないと音声データの情報開示を拒否している。
また墜落して10時間後の翌朝になってから、救助活動が開始されたのが遅かったのではと追求されたが、これは国が救助隊を派遣していたのだが、墜落したのが山奥だった上に日が暮れた後だったので、正確な位置がわからずに救助開始が遅れたと回答している。
レーダーが天候不良でトラブルが起きたとも言われているが、炎上した機体の炎から位置がわかっていたはずだという反論には回答はなされていない。
軍部のヘリコプターが、墜落して二時間後に救助ではなく調査のために向かっていたが、近づけなかった。
演習で撃たれたミサイルが航空機を損傷させていたのだ。
ミサイルの部品などを回収しておき、証拠隠滅をしようと軍部は動いた。しかし、墜落現場には軍事訓練を受けた隊員たちは近づけなかった。
この日、天候の悪化が予想されていたが、その便を飛ばすかどうかの判断の時点で、空港職員たちは女神アーテの力の影響を受けていた。
追っ手ごと乗客を巻き込み航空機を墜落させて、本から逃げ出す準備が行われていた。
ミサイルの制御は、航空機の自動操縦プログラムと同様に霊障の影響を受けていた。
女神アーテのエネルギーは、山で結界内に誘い込み人を迷わせる。女神たちが聡と瞬間移動するまでは、軍部の隊員たちは容易に現場に近づけなかった。あれが出現していたからだ。
六時間後、ミサイルの接触で破損した尾翼の一部は回収された。
軍部の隊員が撤収後、救助隊が活動を開始。
部品回収せずに救助を優先していたら、旅客機をフライトさせなかったら、演習でミサイルを撃たなければ……いくつもの人の判断ミスが、最悪の結果を引き起こした。
死亡した人たちが浮遊霊となって、すぐに天界へ召されるほとんどの魂と、冥界へ連れて行かれる愚者の魂に分かれ、迷うことがなかったのが、せめてもの救済か。
炎より高く指でつまめるほど小さな白い光の玉が一斉に夜空にふわりと浮き上がり、別の世界へすうっと渡って消えていく。
逃亡中のテロリストの幹部が四人ほど乗客にまぎれ込んでいた。
ミサイルがなぜ撃たれたのかは、元傭兵たちの国際テロリストの組織に対し、この国の実権を握る富裕層の執政者たちによる威嚇だった。戦う部下たちを見捨て逃亡中だったテロリストの幹部の四人は、炎の中で咆哮する三つ首の地獄の番犬、神獣ケルベロスを涙目でみた。
ミサイルの部品の回収を命じられていた軍部の隊員8名も、何かやらかしていたのか、ケルベロスのおやつになっていた。
その光景を聡に悪夢として追体験させようとする
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