side fiction /森山猫劇場 第45話
双子の姉妹のように。
【マッチングアプリANGELは、日本全国の会員とのご縁をつなぎます。あなたに素敵な出会いを!】
こんなキャッチコピーの結婚相談所3社が合同でスポンサーのマッチングアプリがある。
この宣伝文はまちがいではない。
かけ離れた地域で生活している人たちが、個人的に知り合うきっかけはまったくない。
日本全国の人たちが集まることができる場所があったとする。そして、そこに集まってきた多くの人たちがごった返しているなかで、自分の好みの相手を探し出すことは難しい。
このマッチングアプリは、無料で会員登録すると、結婚相談所3社合同のお見合い用会員プロフィールとして登録される。
【Aポイント】というマッチングアプリ内で通貨の代わりに使えるポイントを会員は購入できる。
このポイントを使って結婚相談所の企画したイベントの参加費なども支払うこともできる。
無課金でも使用可能だが、自分のアバターを作成したり、アバターのキャラクターを使用したオンラインゲームに参加することもできる。
アバターのオリジナル衣装アイテムを購入して、アバターの見た目を自分のお気に入りの姿に着せかえして遊ぶこともできる。
山形県の絵師の女性、伊藤さんの家系では、祖母の代から新郎新婦の並んだ絵を神社仏閣に奉納している。
これは伊藤家で、絵師の家業を継ぐ人に語り継がれている話だ。
「ごめんね、おなか空いたよね。おむすびさん持ってきたよ」
大正時代の頃、ある大地主の商家に嫁いだ女性がいた。
彼女は毎晩、邸宅の敷地内にある土倉の中へ、商家の主人の夫が眠りにつくと、こっそりと通い続けていた。
土倉の中には膝を抱えて座り込んでいる五歳の男の子がいる。
本来ならば、いずれは商家の跡取りになるはずの彼女が嫁いで産んだ子である。
母親から手渡されたおにぎりを、男の子はゆっくりと口に運ぶ。
なぜ男の子が倉の中にいるのかというと、大地主の主人から祟られた子だと忌み嫌われて、土倉の中に閉じ込められて育てられているからだった。男の子は生まれつき目が見えない子供だった。
母親は子供を捨てたり、殺さないでほしいと懇願した。すると、土倉の中から絶対に出さないという条件でなら許すと言われた。
母親は男の子が眠ると、髪をそっと撫で寝顔を見つめたあと、土倉の扉の錠前をかけて、泣きそうな表情で屋敷へ戻っていく。
これは20年ほど続いた。土倉の外の世間を知らずに育った人は、読み書きも教えられずに、小声で母親が唄って聞かせた童謡をたまに口ずさむことがあったが、使用人か誰かが声に気づいたのか、土倉の壁をドンドンドンと叩いたり蹴られると、ビクッと怯えて唄うのを止めた。
ある真冬に母親が風邪で熱を出してしまい、三日ほど寝込んでいる間、土蔵の前にひどく痩せた男が立っているのを見かけたと使用人たちがひそひそと話していた。
母親は子の世話は使用人がしているという商家の主人の言葉を信じて、ようやく起き上がれるようになると、夜中に息子に会うため土倉に向かった。
彼の飲み水である
母親は悲鳴を上げ、泣きながら、すでに冷たくなった息子の体を抱き起こした。
息子の葬儀を済ますと、この大地主は、他所から養子を取って跡取りとした。
問題は次の代の一人娘の婿取りがうまくいかない。先方の婿が急に断ってくるのが続く。飼っている犬が急に死んだり、婿になるはずの人が、ひどい怪我や病気にかかった。急に目が見えなくなることがあって、使用人たちは先代のおかみさんや子供の祟りだと噂するようになった。
「それで、私にその亡くなった青年の絵を描いて、お祓いをしてもらいたいと?」
「ええ、まあ、そういうことになります、はい」
絵を頼みに来た商家の使用人の男性は、汗を
絵師の伊藤ゆいは、幼い弟を亡くしているので、土倉に通った母親に同情して、亡くなった青年の姿絵を描く依頼を引き受けた。
姿絵の顔だけは決まらずに眠りについた嵐の夜、絵師のゆいは、うなされて目を覚ました。
だが、金縛りにあって起き上がれずに、声も出せない。
そのうちに、誰かがかぶさってきたかのような重さを感じた。
そして、着物のなかに手を入れられて、乳房をまさぐられている感触を確かに感じた。
真っ暗な部屋で、外の嵐の音にまじって、耳元にかすかに荒い興奮したような息づかいまで聞こえた。
奇妙なのは恐怖がそのうちに、恋人に愛されているような気持ちになってきて、見えない愛撫にゆいは身をゆだねてしまっていた。
朝方に嵐が過ぎ去って、朝の光に室内がうっすらと見え始める頃になって、その気配は不意に消えた。金縛りから解放されたゆいがぐったりとしたまま目を閉じて、眠気に誘われているうちに、青年の姿絵のとなりに彼が迎えられなかったお嫁さんを描いてあげたいと思いついたまま、疲れきって眠ってしまった。
観世音菩薩の像を安置してある観音堂がある霊場で、菩薩像に心を落ち着かせ手を合わせた。
(さよなら、私のかわりに描いたかわいい女の子と、むこうで幸せになってね)
絵師のゆいは婚礼衣装の青年と花嫁衣装のかわいらしい女性を並べて絵を奉納した。
それから一ヶ月しないうちに商屋の一人娘の婚礼がうまくいったと謝礼を届けに、使用人の男性がやってきた。
それが伊藤家の女性が、代々家業として絵師となったきっかけの怪談話である。
亡くなった人の姿絵に伴侶の姿絵を一緒に描いて供養する。
しかし、この供養には
亡くなった人の婚礼衣装の姿絵の隣に、生きている人の姿絵を伴侶として描いてはいけない。
そうすると、生きている伴侶には、厄災や霊障が起こり始めるという。
マッチングアプリANGELのアバターをデザインを担当したのは「伊藤まゆ」というイラストレータである。
オンラインゲームでは、アバター同士で、課金して結婚指輪というアイテムを入手するとプロポーズできる。
会員のプレイヤー同士で同意すると、教会で結婚式の映像を見ることができる。
このオンラインゲームは、現実では法的に不可能なことができる。多数のプレイヤーと重婚することができるのである。伴侶は異性、同性どちらでも可。
誕生日だから結婚して下さい、お願いします!
といったメッセージが届くと、吉原のソープ嬢の真美こと
自宅に引きこもって自殺してしまった二十歳の息子のアカウントを使い、マッチングアプリANGELのオンラインゲームをプレイしていた母親がいた。
息子の遺品のスマートフォンで、息子が生きていたら恋をしていたはずと想像しながら、実際に外出してデートするわけではないが、アプリ専用メールで会話を、息子になりきってやり取りしたりして、さみしがり屋の女性たちと、毎日、疑似恋愛をして楽しんでいた。
吉原のソープ嬢の真美こと
自殺してしまった大校生の青年のアカウントのアバターと、吉野愛香のアカウントのアバターはオンラインゲームで挙式している。
これは、オンラインゲームで、冥婚してしまった……とでもいうのだろうか?
マッチングアプリを利用して、多くの人たちを巻き込みながら、自分たちは安全を確保しながら、呪いの効果や
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