side fiction /森山猫劇場 第35話

 ・術者の才能を持つ者は、試練を与えられる。

 ・術者の才能が卓越たくえつした者ほど、その試練は苛烈かれつなものとなる。


 7歳の頃に、魔導書グリモワールからの影響を受けた。

 8歳から19歳まで、世界がループするかを選択するプレッシャーから逃れられる事を選択した。

 魔導書グリモワールが何が選択なのかを、教えてくれるようになったから。

 魔導書グリモワールの影響を受けなかった以前のパラレルワールドでは、途中で失敗して8月末日まで、再挑戦できるようになるのをひたすら待たなければならなかった。

 耐えきれない、やってられるかと命を断つことができたとしても、何度も死の苦痛を、毎日繰り返して体験することになる。


 巫女の花純さんは、七つ送りの風習から逃れるという試練を受けている。また、自分が出産して子供が女の子だったら、娘の身代わりで犠牲にならなければ、娘が神隠しにあう。

 七つ送りとは、食料を豊かに得たり、災いを避けるために山神様に七歳の女の子を、山神様の「お嫁さん」として捧げるという儀式である。

 山神様の「お嫁さん」のことを特別な巫女として七歳まで育て、また巫女から、山神様のお告げを受けていたという。山神様の「お嫁さん」として選ばれ、卓越した予知能力が与えられた女の子は、七歳になったら山神様に捧げなければならないのがおきてだった。

 その掟を破ることは禁忌タブーとされていた。

 

 それは迷信、予知能力がある人はいないと思う人だけになった時代でも、捧げなければお迎えの神使しんしが、巫女を異界へ連れ去る神隠しが続いている。


「私の母親は、陰陽師おんみょうじの光崎様に協力して、山神様の神使から、幼い私を守り切りました。しかし、私の母親は、私の代わりに心を喪失した状態になってしまったのです」


 この風習には、隠されていることがある。魔導書グリモワールは、巫女に選ばれた女性にとって残酷な風習であったことを伝えてきた。


 山奥で、自意識のない呆けた巫女の少女には、もう予知能力もなく、使い道がない。

 そこで次の巫女の資質を持つ女の子をはらませるために、初潮を迎える頃まで、座敷牢に世話をされて飼われている。


 桃栗三年、柿八年。

 座敷牢のなかで15歳になる頃には、大人びた体つきになる。


 すると、集落の若衆たちの慰みものとして毎晩のように、相手をさせられることになる。

 はらませられて産まれた子供が、もし女の子ならば、その子供が次の巫女とされた。


「巫女は八人まで選ばれることがあったそうです。風習のある集落で女の子が産まれたら、どこどこの家で産まれた女の子を巫女にすると、勝手に大人たちが話し合って決めていたのです」

「……ひどい話だね」


 山奥で一夜をひとりぼっちで置き去りにされて、山神様の神使のお迎えが来なかった女の子でも、集落の長者の家の座敷牢で、八年間を監禁されて飼われる。


「そろそろ柿が熟れた頃だ」


……と密やかに語られるのは、果実の話ではなく、監禁された女性たちの話だ。


 桃栗三年、というのは拉致されてきた若い女性が三年間、監禁して慰みものにできるように服従させるため期間という意味だ。

 そうした、桃栗柿と呼ばれた女性たちから産まれた女の子が、また巫女として育てられる。


 女衒せげんが集落から金で若い女性を買い取っていくようになり、七つ送りの風習のかわりに幼い女の子たちが売られた。

 女衒は、遊女屋に集落から買い取ってきた女の子を転売する。


 そうした女の子たちは遊女として過酷な労働に体が耐えきれず、遊女屋の年季奉公が終わるまでには、多くの人たちが亡くなってしまった。


 七つ送りの風習のかわりに、作物が不作の年には、少女たちを女衒に売る風習が、地方の集落では行われるようになった。


「歴史に詳しいのですね。そうやって虐げられてきた女性たちの怨念は、日本各地にお地蔵様や石仏が置かれて供養されてきました。しかし今も鎮められきれず、お迎えとして、祟りがあるのです」


 術者の資質がある女性が異界でもより深い怨念のふきだまりの冥府に、心が連れ去られてしまう祟りの原因は、過去の歴史の悲しい風習だと判明していても、今でも解決しないままとなっている。


 巫女の花純さんは、一緒に冥府に行く前に、むこう側で、何を見ても、何があっても、同情しないようにと言った。

 同情すれば、怨念の記憶が流れ込んできてしまうからと。


「憐れむだけでは、解決できないことはたくさんあるのです」






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