side fiction/ 森山猫劇場 第34話

 陰陽師の香織さんは、巫女の花純さんの母親から、娘の命が奪われないように自分が身代わりになっても、異界のモノを撃退するのに協力して欲しいと依頼された。


 正確には、小野良平さんが、娘が誰かに呪われているようだが、手に負えないと陰陽師の香織さんに依頼した。


 母親がわざと巫女の禁忌をかえりみず、娘に呪術を施していた。

 七歳になったら連れ去りに来るモノから娘を逃れさせるために、疱瘡神ほうそうのかみへの祈祷で、娘をわざと衰弱させていたことが判明。


「私のことを、私の両親も、同じ方法で、迎えに来るモノから私のことを助けてくれました」


 花純の母親は、迎えに来るモノに自らの命がけの火炎呪で一夜をしのぎ切って、娘の命を救い、夫の良平に娘をたくして、亡くなった。

 幼い花純は、香織の結界の中にいた。母親が敵と戦っている一夜のあいだ、香織によって護られていた。


 もしも、花純が母親になって娘を産んだ時は、その娘が七歳を迎えた日の夜、異形のモノどもは異界からあらわれるだろう。


 その恩義があるので、香織さんの娘が危機に陥っている状況に、巫女の花純さんは、協力することにした。


「香織さん、その迎えに来るモノって何ですか?」


 聡がたずねると、香織さんは古事記のイザナギがイザナミを黄泉に迎えに行ったという話をした。

 復活させようとしたが、失敗して雷神や黄泉醜女よもつしこめなどに追われながらも、イザナギは生還した。


「大昔から、あちら側から術者の素質を持つ子供を連れ去りに来るモノがいるの」


 という説明をされたが、聡にはよくわからなかった。


 なぜ、香織さんがそういう話をしたのかわかったのは、28日の夜中に、美優ちゃんをあちら側から救出に、聡も巫女の花純さんとむこう側へ渡ることを説明されてからだった。


「私は、この光崎邸で二人があちら側に意識が飛んでいる間の夜明けまで、こちら側にある美優ちゃんの体やあなたたちの体を護る。神社を焼いたのが誰かなのかはわからないけど、自分たちがあちら側に連れて行かれないようにするために、術者の命を生贄に捧げて鎮めればいいと考える人たちが、妨害工作を仕掛けてくることも用心する必要があるのよ」


 巫女の花純さんと会って、世界のループについて話したことで、また一つ変化があった。


 この世界には、誰が犠牲になるのかという対立があることを実感した。


「聡がこっちに残るより、朝まで眠っていてもらうほうが、やりやすいということだ。巫女が君をむこう側では護衛してくれる」


 柴崎教授はそう言って、聡の肩をぽんぽんと叩いて笑った。

 それを見た「もふ」も真似して、聡の肩を叩いていた。


 どうして美優ちゃんがあちら側に自意識を拉致されたのか、香織さんは、最近、術者の力に美優ちゃんが覚醒しつつあったからではないかという推論を話してくれた。


 あちら側について、まったく知らないけれど、魔導書グリモワールの力が役立つかもしれないと香織さんと柴崎教授は言った。


「生まれつき術者ではないとしても、魔導書グリモワール憑きの聡は、憑依されたモノと共存している。クダ使いはクダキツネと共存しようとしてきた。聡がむこう側へ踏み込むことで、何かが変わるかもしれない」

「……共存ですか?」

「こちら側にもいろいろな人がいるように、あちら側にも共存したいと望むモノもいるでしょう。クダキツネはこちら側へ渡って、あちら側へ戻れなくなったのかもしれません。そして、ずいぶん長い間、こちら側にいます。犠牲を出すことなく、あちら側とこちら側をつなぐ力を求めて、その魔導書グリモワールは作られたのかもしれません」


 そうなのかはわからない。

 ただ、美優を探索するのには便利かもしれないと思う。

 柴崎教授の自意識を紫クダキツネに移したときに、結界内のどこに柴崎教授がいるか見つけ出したのは、魔導書グリモワールの記憶する力だった。

 美優ちゃんが、あちら側のどこにいるのか、探すことに使えるかもしれない。


魔導書グリモワールが僕の意識と一緒に、異界に渡れるかどうか。試してみるのも悪くない)


「柴崎教授、ちなみに、戻れなくなったらどうなりますか?」

「ぬけがらの肉人形になるかもしれない。だが、きっと、それはないだろうな。聡がいなければ、誰が世界のループの選択をする?」


 聡は柴崎教授の考えに、かなり不安を感じた。

 聡の考えは、もし自分の肉体がからっぽになったら、別の人が選択をするようになるか、ループが確定するのかもしれないという考えだった。


 しかし、やるしかない。







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