side fiction/ 森山猫劇場 第29話
8月15日の昼食後。
・「もふ」は霊獣クダキツネが、クダ使いの柴崎教授の肉体に憑依して合体している。
拝み屋、
憑依には、被害者によって段階があるケースが多い。
前兆として
ところが自分たちでは手に負えない時に、術者たちに連絡して、協力を求めてくる。
聡はそうしたことに、今まで興味を持つことがなかった。
陰陽師の香織さんと、クダ使いの柴崎教授は、術者としてそれぞれ単独で行動してきた。
美優ちゃんの肉体に憑依合体した柴崎教授は、呪いと祝福について話し合って意見交換をしていた。
たとえば
丑の刻(深夜、午前1時から午前3時頃)に、神社の御神木へ憎い相手に見立てた藁人形を、五寸釘で打ちつける。
藁人形には呪う相手の髪、爪などや愛用品などを仕込み、相手の氏名や生年月日や干支や星座、住所や電話番号などが記された
藁人形を打ちつけている姿を決して他人に見られてはいけない。
それが、丑の刻参りの呪法達成のための条件とされている。
真夜中に強い力で五寸釘を打ちつけていれば、静かな真夜中の神社では、かなりの音が響く。
翌日、音が気になった人が音のしていたあたりを調べてみると、藁人形が打ちつけられているのを発見する。
名前や住所などがわかるように示されているので、標的にされた人へ、あなたは誰かに呪詛されていると伝えてしまう。
藁人形と一緒に打ちつけられている個人が特定できる情報が記された、ただの紙切れ。
狙われた標的の人へ、誰かわからない相手から呪詛されていると知らされた瞬間に、ただの紙切れから、呪符になる。
「相手は何か恨んだり、嫌っているのに、自分にはわからない。それが、相手の容姿や呪詛の声から男性か女性かでもわかると、あああいつかと、気づいてしまうこともあるだろう。すると標的にされた人は、不安になることがないからな」
「迷惑なことや気持ち悪いことをするなと、呪法を行った人に苦情を入れることも、危害を加えたりすることもあります。嫌がらせをして仕返しすることもあります」
標的にされた人がとても嫌な気分になって、誰がこんな気分が悪くなることをするのかと、自分の周囲の人間関係の中で、あいつかもしれない、呪われていると教えたあの人かもしれない、誰かにここまで嫌われているということは自分を嫌っているのはきっと一人ではないのかも、と疑心暗鬼に標的にされた人が不安から、人間不信に陥れば、標的にされた人は、じわじわと人間関係が保てなくなっていく。
「なら、藁人形を五寸釘で打ちつけられたことも気にしない人だったら、呪法は効果がないってことですか?」
「いや、ちゃんとある」
聡が二人にそう質問すると、柴崎教授はそう答えた。
怒りや恨みを、わかりやすく行動であらわすことで、だんだんエスカレートしていく。それが癖になって、怒りや恨みをずっと心に持ち続けていく。
「呪法を行った人のほうが、狙われた人よりも被害者意識にとらわれ続けますから、自分だけがひどい目に合っているのはおかしいとやつあたりを始める人もいます」
聡に香織がそう話すと、柴崎教授がうなずいていた。
「どんなに強く願っても、行動を起こしても、自分には何も状況が変えられない、救いがないと絶望すれば自信を失う。絶望を考え方として身につけてしまえば、他人が希望や自分とはちがう信念を持って行動しているのを気にくわなくなる人もいる」
聡は二人から、自分の持つ
「他人だけではなく本人にも心に悪影響を与えようとする力ば呪いですね。他人や本人に良い影響がある力なら祝福でしょう。ねぇ、クダ使いさん、あなたは、聡くんの力をどう思いますか?」
「……どちらともいえる力だな」
聡の顔を術者の二人は、まじまじと見つめた。
(
「聡のいうように世界がループしていたとしても、私は自分の思うように生きるだけだ。ループの阻止に聡が失敗しても成功しても、影響はない。気にするな」
「あら、かわいそうじゃありませんか、あなたはループの阻止に協力してあげないのですか?」
「聡の人生を、かわいそうと決めつけることのほうが、よっぽど、かわいそうだと思うが」
柴崎教授は、聡に同情はしないという方針のようだ。
「クダキツネ使いで、クダキツネとして生活した者は、私だけだろう。ぜひ、聡にはループを阻止して、私のこの記憶を忘れさせないようにしてもらいたいものだ」
容姿や声は美優だが、服装が少し大きな聡のTシャツや、ジーンズを、柴崎教授は着用している。
それに口調や雰囲気がちがう。
柴崎教授が、書斎で調べものをしてくると言って、食堂から出て行った。
香織さんと二人きりになった。
「ね、聡くん、私たち、これからは、もう、セックスしないことにしましょう」
「……それって、僕にここから出て行って欲しいってこと?」
「ちがうの。ずっとここで、暮らしてくれてもかまわない」
そう言ったあと、うつむいてしまった香織さんに、なんて声をかけたらいいかわからない。
これが、世界のループを決める運命の選択でなくて良かったと思った。
食堂に香織さんを一人残して、昨夜から「もふ」がベッドを占領しているの自室に戻っていった。
「さ~しのにおい、しゅき」
と言って、昨夜の夜中に来た「もふ」と添い寝をするかどうか。
それが、世界の運命の選択だった。
(香織さんに、僕がふられることは、この世界からしたらたいしたことじゃない……僕もしっかりしないとな!)
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