side fiction/ 森山猫劇場 第27話
8月14日。
陰陽師の香織さんとクダ使いの柴崎教授が、停戦することになった。
13日の深夜から14日の明け方まで、聡は狐憑きのメイリンにたっぷりと餌の精気を搾り取られたが、惨殺されずに切り抜けた。
美優は、聡にふられたと絶望して部屋で引きこもっていて、紫クダキツネになった柴崎教授が見かねて美優の自意識を眠らせた。
狐憑きの美優になった。
食堂で聡の用意した珈琲を飲みながら、柴崎教授は、香織さんに説明した。
美優には両親からの愛情が不足していて、聡から受け入れてめらえないと思い込んだのは、その愛情不足を聡との関係で満たそうとしていたと。
メイリンはメイドの待機室で、眠り込んでいる。
聡は手書きのレポート用紙に、何が起きたのかを整理しながら、メモを取っていた。
・香織さんは専業主婦ではなく、陰陽師として働いていた。
・柴崎教授は大学教授だけではなく家業のクダ使いを兼業していた。
これは二人とも、もう聡に隠さずに同意してくれて確認できた。
・メイドのメイリンは、バージョンアップ中。
・美優は心のなかで引きこもって、治療中。
・柴崎教授の体を使って、メイドのメイリンにカスタマイズした。
・傷心中の美優が引きこもっているあいだ、柴崎教授が美優の体をレンタル中。
「聡、その表現はなんとかならないのか?」
聡のメモを見て、柴崎教授の口調で、くくくっと美優がしない笑い方をする美優を、聡は違和感のギャップを感じていた。
それに関しては香織さんも、同じ気持ちだったようだ。
「……私の美優を返して欲しい」
「本人が親の期待するいい子でいるのには、もう限界だった。それがなぜわからないんだ?」
(美優ちゃんも、柴崎教授ぐらい強気で香織さんと話し合えたらよかったのにな)
聡はそう考えていた。
すると、今度は香織さんは柴崎教授ではなく聡に話しかけた。
「柴崎教授を、お庭の
「……無理だよ、香織さん」
聡が普段とはちがい、すぐに迷わずはっきりと答えた。
「
「そうなんです」
柴崎教授は、クダ使いになるためにどんな修行をするのかを香織さんに話して、美優ちゃんを他人が体に強引に戻せない理由を説明してくれた。
「子供の頃に、真冬に外で井戸の水を汲んで、頭から何度も気絶するまてかぶる修行をするのは、聡が
「今、メイドのメイリンさんにクダキツネの意識が宿っている狐憑きになっている状態なのは、クダキツネが、人間として生きてみたいと強く望んだからなんです」
柴崎教授の説明のあと、メイドのメイリンが狐憑きになったのは、
「美優は体のなかにいるのではないのですか?」
「いるといればいる。だが、本人が体に絶対に戻りたいと望まなければ、私をこの体から離脱させても、からっぽぬけがらになったのと同じ状態になるだけだろう」
・美優ちゃん、肉体を放棄して家出中。
・柴崎教授の自意識(魂?)が、美優ちゃんの体でおるすばん。
「家出のきっかけは聡にある。原因は親にある。しかし、ただ逃げていても戻ってこなければ解決できないことを知っているのに、隠れているこの子は頑固すぎる。困ったものだな」
聡はもう一杯おかわりと柴崎教授に言われて、空になったティーカップに珈琲を注いだ。
「肉体とは、魂の入れ物にすぎない。だが、雑に扱えば、心が傷つき、ゆがんでいく」
「娘を戻す方法があるなら、私に協力していただけませんか?」
「お願いします!」
香織と聡に懇願され、柴崎教授は、少し困ったような顔をして珈琲を飲んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます