★side fiction/森山猫劇場 第26話

 おいしそうな餌へ向けられた、熱い視線と妖しい微笑。


 呪符が剥がされて、生きた肉人形の殭屍キョンシーやゾンビのようだったメイドのメイリンが、解放された。


 その結果、狐憑きのメイリンになった。

 使役されていない野良のクダキツネが憑いたクダ使いの柴崎教授だったものは、おいしそうな餌を目の前に、興奮している。


 聡の左胸、心臓の真上に引っ掻き傷をつけたのは、獲物に野良のクダキツネがつける傷痕だった。


 聡の喉にいきなりかじりつかなかったのは、呪符が剥がされたとはいえ、使役していた陰陽師の香織と、まだわずかにつながっていたからである。

 生きた肉人形に呪術を施したメイドのメイリンは、香織が邸宅の留守中に、商売敵がやって来た時に身代わりとして戦うボディガードでもあった。


 勃起した聡の欲情を感じた狐憑きの彼女は、精気を奪うために噛み殺して生き血を啜るよりも楽しめる方法を選んだ。

 香織の呪符を剥がすために、聡は待機中のメイリンに夜這いをかけて、たっぷりと膣内射精した。

 その残滓がまだ残っている小さな肉の洞窟に、聡の勃っているものを挿れようと握って入口のわれめに当てがった。


 聡の胸に片手をついて体重を乗せ、空いた右手で握った聡のものを騎乗位でまたがって、ぬちゅりと挿入する。聡を見下ろしながら彼女は舌なめずりをした。

 唇についていた聡の血のわずかな残り香を味わっている。


(うわっ、さっきまでとはちがって、中の締めつけが激しくなった感じがするっ!)


 両手で聡の胸に体重をかけて押しつけて、妖しい微笑を浮かべた彼女の姿が、聡の魔導書グリモワールが認識した姿に脳内再生される。

 白い獣の耳が頭部についている。

 瞳は月明かりの色に輝いている。

 彼女の姿のうしろには、ふさふさのふくらんだしっぽが、すすきの尾花のように揺れている。

 驚いた聡が目を開けてみるが、部屋は真っ暗で、腰をくねらせている彼女の姿は見えない。


「あうぅぅ、ふぅっ、ふぅぅっ、ああぁ……んんっ……あうぅ……んあああああっ……ふああっ!」


 彼女が聡の上で、艶かしくも野生的な声を上げている。

 聡の勃起したものは、すぐに搾り取られることはない。事前に射精したことで、ちょっとだけ余力がある。


 聡が瞳を閉じると、再び白狐と人の合わさったような姿が浮かび上がってくる。

 聡の胸に両手をついている彼女の細腕を、射精しそうになるのをこらえるたびにぎゅっとつかんでしまう。

 彼女はそのたびに腰をくねらせるのを止めてしまうので、聡は射精寸前でおあずけされたような状況になっていた。

 我慢すればするほど、意識は勃って刺激をうけている快感に集まって、精気が下腹部の丹田たんでんにたまっていく。


 香織のほうは、金縛りにされたので一階の部屋で待機中のメイリンを寝室に呼び出そうとした。

それによって狐憑きになったメイリンの興奮や快感のあおりを受けることになった。


「あぅあ~っ……んっ、はうぅぅんんっ、んあっ?!」


 聡が彼女の細腕ではなく、腰のくびれをつかんだり、脇腹のあたりを撫でてしまっていると、彼女が腰の動きを中断するのが増えてきたのは、香織が感じている快感が狐憑きの彼女に伝播でんぱしてきたからだった。


 聡があっさり射精してしまっていたら、狐憑きの彼女は聡の生き血を啜るために、がぶりと喉元に噛みついていたはずだった。


「あぅ、んあぅ、ああぁっ、はうぅぅん……ふぅふぅふぅっ……ひっ!」


 騎乗位で前のめりにかぶさってきた狐憑きの彼女のふさふさしたしっぽを、聡はさわっていた。

 実際には存在しないはずのしっぽの手ざわりを、聡が魔導書グリモワールからの情報に頼るほど感じとることになった。


 狐憑きの彼女もしっぽを撫でられて、聡が的確に敏感なしっぽを撫でまわしてきたので、ぞくぞくぞくっと背中を這い上がるように走り抜けた快感に、短い悲鳴のような声をもらしていた。

 そのため聡のなかの魔導書グリモワールに、しっぽが彼女の感じやすい急所のひとつだと知られてしまった。


(そうか、しっぽが感じやすいってことは……こっちはどうだ?)


 聡は背中のあたりを猫を撫でるように撫でてみた。背骨にそってなめらかな毛並みの感触がある。


「気持ちいいのか。ん~、そうかそうか。こっちもさわらせて。嫌なら教えてくれたら止めるから」


 頭についた彼女の獣の耳にそっとさわってみる。ピクッと彼女が反応してしまう。


「はうぅぅん~、んふぅぅっ」


 その気持ち良さそうな声と、狐憑きの彼女の照れたような表情に聡はドキッとした。


「か、かわいいぞっ!」


 中身が柴崎教授だった時には見たことがない甘えたような声や表情に、聡はなごみ、そして興奮して、思わずそう言ってしまった。


 魔導書グリモワールは、クダキツネから紫クダキツネにした時や、柴崎教授の自意識と紫クダキツネを同調させた時の知識から、人の感情をクダキツネに伝えることも可能にしていた。

 聡に恐怖や敵意がないこと。

 かわいいと口に出して言った瞬間に狐憑きの彼女へ、聡の言葉に重ねられた感情が、魔導書グリモワールの力で伝えられた。


「んんっ、はぅっ、んああっ!」

「そんなに腰を使われたら、も、もう我慢できな……くはっ!」


 聡の脈打つものから、熱い白濁を噴き上げられた。

 メイリンに憑依していたクダキツネの正体は柴崎教授の救助要請を魔導書グリモワールに求めたクダキツネの意識だった。

 もふもふの毛玉のほうは柴崎教授の自意識に、もともとの紫クダキツネの意識は柴崎教授の肉体へ潜んでいた。

 聡が我慢しきれず射精した瞬間の興奮や快感。

 あと狐憑きの彼女に対して、優しい一緒に気持ち良くなりたい気持ち。

 それは憑依したクダキツネを聡になつかせるほどだった。


 香織に対して怒っていた柴崎教授に、許す心境の変化が起きたのは、紫クダキツネが聡の優しさになついた気持ちを魔導書グリモワールが伝え、柴崎教授の心にも、香織に対する小さな愛情を起こさせたからであった。


聡はこの夜、霊獣クダキツネを調伏した。同時に、とても仲良くなったということでもある。





























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