★side fiction/森山猫劇場 第17話

「あの、いろいろ聞いてみたいことがあるんだけど」


 何から質問したらいいか、美優は悩みながら話してかけている。


(美優ちゃんは、書斎に来ても大丈夫なのか)


 聡は先日、書斎に香織さんと入った時に、香織さんが気絶するというトラブルに直面している。


 気絶する直前に、香織さんはあり得ない状態になった。

 発情期のメスのような状態になって、抱きついてきた。


魔導書グリモワール!」


 聡は呪文を唱えるように、香織さんを制止させようとした。

 その時、香織さんは白昼夢のなかで、とんでもないことになっていた。その情報が一気に聡の頭の中に流れ込んできた感じだった。


 闇の中で香織さんの白い体がほのかな明かりのようになって、闇に浮かび上がっている。だから、香織さんの周囲しか見えない。

 香織さんの全身にぬらぬらとした蛇のようなものが、うじゃうじゃと絡みついていた。

 蛇の表面は粘液のようなものでまみれていて、香織さんの柔肌の上を這いずることで、塗りたくろうとしているかのような動きをしているようにも思えた。


 おぞましかった。

 香織さんの股間のわれめに侵入した一匹の太い蛇が、ひどくのたうっていた。

 蛇も抜け出せなくなったのか、ぐねぐねと動くたびに、香織さんは刺激されている。

 それなのに、白昼夢のなかの香織さんは、あえぎ声を上げ涙をこぼしながら、聡の名前を呼んで身悶えている。


 それなのに、豊満な胸の上や谷間を蛇が這いずる様子や、腿に絡みついた蛇がわずかに食い込む柔肌の様子は、かなり艶かしい。

 ふくよかだがきれいな丸みのある白い尻が上げられ、快感に腰をくねらすたびに揺れている。

 這いつくばっていられなくなり両膝はついたまま伏せている恥辱の姿で、目は虚ろになり、絶頂した恍惚とした表情のあと、すぐに眉を寄せて唇をわずかに開き、頬を上気させている表情になって、また絶頂させられる終わらない刺激を受け続けている。


 聡は水の中を歩いて進むような感覚の中を、香織さんに近づいていくと、股間に侵入した蛇を握り潰すぐらいに強く両手でつかむ。

 ずるりと一気に引き抜いた。


 そこで香織さんの襲われていた白昼夢が途切れた。

 聡に抱きついたまま、香織さんは気絶していた。


 香織さんがセックスの時、後背位バックですると、とても興奮することを、この悪夢の白昼夢から聡は知った。


 魔導書グリモワールの力で意識を読み取り、夢に介入する。

 それを初めて聡は経験した。


 キャンプの夜に夜這いをかけてきた柴崎教授の意識が、どんな状況だったのかはわからない。

 ただし、書斎で気絶した香織さんと同じように、あの夜の柴崎教授も、おぞましく、それなのに淫靡いんびな夢に意識がとらわれていると、聡は感じ取っていた。


 美優からは、そんな怖ろしい気配は感じなかったけれど、とても緊張しているのが表情や声から、魔導書グリモワールの力を使わなくてもわかる。


「裏の雑木林で、お母様と聡くんが何をしていたか、偶然だけど、私、知ってしまったの……どうして、そんなことをするのかちゃんとわかるように説明して下さい。お母様は結婚していて私という娘までいる人なのは、聡くんだってわかっているでしょう?」


 聡はそれが世界のループを終わらせる正解だったから、と言いかけそうになる。

 聡は世界のループについて他人に話してみても、誰にも信じてもらえない仕組みにでもなっているような気がしている。

 過去のループ脱却に失敗した時に話してみた全員から信じてもらえなかった。他人に世界の秘密を話すほど、話した相手からは気持ち悪がられて避けられた。


(今回は香織さんに話したけれど避けられたりはしていないから、もしかすると、美優ちゃんに説明しても平気なのか?)


 思い出せている過去のループ脱却失敗パターンでは、光崎邸に来ても、美優にこんなふうに二人きりできわどい質問をされることはなかった。


 どうして私じゃなくて、お母様や柴崎教授なのか?

 美優が聡に答えて欲しいのは、そこだけなのに……。


 美優が聡のことが、子供の頃からずっと変わらず好きなことに、聡はまったく気づいていない。





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