side fiction /森山猫劇場 第15話

 8月9日。

 光崎家の邸宅へ、大学教授の柴崎秀実が訪問した。


 それは、聡が知りたがって調べていた魔導書グリモワールについて、柴崎秀実がライフワークとして調査を進めていた。


 もしも、魔導書グリモワールを、光崎家の先代当主の光崎嘉朗みつざきよしろうが所持していたとすれば、奇妙な出来事はなかったかを確認した上で、現在もまだ、光崎家が所持しているとすれば魔導書グリモワールを処分するためには、どのような処置が必要なのかを伝えるために訪れたのだった。


「そうしたことに関しましては、わたくしではわかりかねます。主人に話してみませんと、今すぐ返答は致しかねます」


 訪問販売や、キャッチセールスの、いわゆる押し売りの販売員に留守をあずかる人妻が、返答を保留にして、やんわりとお断りする時と同じ話し方で、香織は柴崎教授に言った。


 2階の自室で、美優が柴崎教授が訪問した理由を、聡のことを不倫している人妻の香織から、柴崎教授が奪うためにやってきて、応接間は、修羅場になっているのではないかと、心配していた。


 コトリバコ。

 漢字を使って書くとすれば、小鳥箱ではなく、子取り箱。

 間引きされた子供の遺体の一部、それと女性の遺髪や爪を、簡単に開けられない仕掛けの小箱に入れて作られる。

 その小箱に若い女性がふれてしまうと子供がなぜか流産したり、子宮の病で子供ができなくなる。また幼児がふれると、衰弱して亡くなる。

 作られた最初の新品ほど効果が強く、危険だが定期的に呪符を貼り代えを行い、100年以上経過することで、その効果が弱くなっていく。

 あまりに強いモノなので、神社仏閣で保管できずに、人の手で渡っていくこと――つまり、犠牲者が亡くなることでしか供養できない忌まわしい呪いの品物。

 他人の家に送ることで、その家の子供や女性が亡くなり、その家を絶やすことができる。


 七人ミサキ

 漢字で書くと七人岬ではなく、七人御先。

 多くの犠牲者の供養のための石仏などを破壊してしまうと、七人の犠牲者が祟り殺されるまで、再び石仏を作って供養したとしても、祟りは七人の犠牲者が出るまで続く。再び、供養しなければ、犠牲者が七人出る祟りが、毎年続く。

 それは、ばちあたりな供養の石仏を破壊した人とはまったく関係がない、七人の犠牲者が祟られることが多い。

 海など水にまつわる多数の犠牲者の供養の石仏が破壊されると、この祟りが起きるという。


「呪いや祟りなんて迷信だと思うかもしれませんが、とりあえず、そう考えて適切な処置を行うことで、被害を最小限で済ませられることもあります」


 柴崎教授は、魔導書グリモワールは、そうしたモノである可能性があり、男性の生殖機能を失わせてしまったり、衰弱死させてしまう祟りがあると説明した。


 そのため、魔導書グリモワールは、所有者が祟りを逃れるために、次々と他人へ譲られてきたという。


「そちらのご令嬢の美優さんの紹介で、大学の私の研究室に、坂口聡という、民族学者の坂口仁という方の息子さんが来て、父親の残した物を調べていたのです。その資料などから、魔導書グリモワールの最後の所有者は、先代当主の光崎嘉朗氏だと判明しましたので、今日は訪問させていただいた次第です」


 柴崎教授が話したことは、不気味な話だった。しかし、香織はいくつが思い当たるふしがあった。


 香織の両親は、群馬県の湯治場の温泉旅館で、心不全で亡くなっている。

 そして、美優が産まれたあと、夫の公彦は勃起障害、しっかりと勃起しない、または勃起した状態を維持できないために満足な性行為を行えない状態になっている。


 それが祟りではないかと、目の前にいる大学教授の柴崎という女性は、香織に言っている。


「しかし、そんな怖しい物が我が家にあるなんて、聞いたことがございません」

「そうですか。もしかすると、御主人が、何かをご存知かもしれません。何かわかりましたら、名刺の連絡先か、大学の方へご連絡下さい。協力できることもあるかもしれませんので。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。では、失礼致します」









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